黒い館
けいもく:作

■ 15.お館様の脱走劇3

 でも、香子さんを折檻するする権利はお館様にありました。もちろん、そのことでは香子さんにいささかも不服がありません。

 しかし、お館様は香子さんが口に入れてくれた乳房をいきなり咬みついたりしませんでした。舌先で乳首を転がし、吸い、軽く歯を当てて、恐怖に脅えながら咬まれる時を待つ、香子さんの顔を楽しむ余裕がありました。

 お館様は香子さんの背中に手を回し、爪を立てて引っかくようにしました。

 お館様は普段は女性の肌に傷を残すようなことがしませんでしたが、その日は気持ちが少し違っていたのかもしれません。

 背中の痛みに香子さんが上半身を少し動かしたとき、今度は乳房にそれとは比較にならないほどの激痛が走りました。お館様が咬んだのでした。

 時間にすれば、一分か、せいぜい二分くらいだったのだと思います。ただ、香子さんにはずいぶんと長い間、咬み続けられているような気がしました。

「ああぁ、いたい」というのは香子さんの呻き声でした。

 時に泣き声になり、香子さんは、歯をくいしばり、こぶしを握り、足の指のつま先までまっすぐに伸ばし、痛みに耐えていました。

 それでも、お館様の口にあずけた乳房を自ら引き離しませんでした。それだけは、してはいけないと思いました。

 お館様は、欲望にまかせて香子さんの乳房を咬めばいいのでした。だから香子さんも従いました。「やめて」とも言いませんでした。

 やっと、お館様の歯が乳房を放してくれたとき、香子さんの頬に涙がつたい、鼻水が口の周りを光らせていました。

 その涙と鼻水を見て、お館様は香子さんの強情さにあきれる思いがしました。

「このまま、結婚を迫ったらどうする?」

「仕方ないわ」と言ったものの香子さんには、これ以上のことをされれば耐える自信はありませんでした。

「おれはそこまで卑怯な真似はしない」

 お館様も少しは香子さんの気持ちをおもんばかってみたのかもしれません。

 香子さんをさらに惨たらしい拷問にかけ、一度や二度「結婚する」と誓わせたところで、気持ちまで変えられるものではありませんでした。

 だけど、涙とべとついた鼻水を舐めてあげ、その塩辛い味を確かめると、もう一度だけ泣かせようと思いました。

 香子さんを道連れに館から逃げ出すことはあきらめたとしても、恋心は依然として残っていたからです。

 その恋心を完全に断ち切るには、明日、朝食の後、皆が集まっている時に香子さんを鞭で打つことでした。

 公開の場での鞭打ちに理由はいりませんでした。だから、裕美さんも一緒に鞭で打とうと思いました。

 お館様は女性を鞭で打つ場合、たいていの場合、裕美さんも一緒に打つことにしていました。

 それは、たとえば気を紛らわせるためだけに鞭で打ったとしても、裕美さんなら許してくれるという気安さと、皆の前で館のオーナーを鞭打つことによって力を誇示しようというような隠された狙いもあったのかもしれません。

 お館様は、さっきまで自分が咬んでいた乳房を手の平全体を使って揉み、まだそこにどれくらいの痛さが残っているかを、香子さんの表情のゆがみ具合からから判断しようとしました。

「これを見るんだ」
 そして下から持ち上げるようにして、香子さんの乳房に残った歯形をかざしました。
「赤く充血しているのがわかるか」

「はい」
 香子さんにもその部分だけ赤みがさしているのがわかりました。

 今度は左側の乳房持ち上げるようにして「こっちにはないよな」
「はい」
「不自然だと思わないか?」とそこまで言われと、香子さんにもお館様が今から何をしたいのかわかりました。

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