狂牙
MIN:作

■ 第1章 籠絡25

 ですが、本当の地獄はここからでした。
 お姉様は私に、ピンク色の軟膏をお使いに成り、全身に塗り込みました。
 すると、私の全身は火が点いたように熱く成り、全身の傷口を針で突かれたような痛みが襲いました。
「ぎひ〜〜〜〜〜っ、が、が、がは〜〜〜っ、ぐ、ぐ、ぐぅ〜〜〜っ」
 私は身体をのたうち回らせ、目を剥き痛みを必死に堪えますが、口の端から悲鳴が漏れてしまいます。
 お姉様は薄笑いを浮かべ
「誰が悲鳴を上げろと言ったの?誰が動いて良いと許可したの?」
 私の顔を踏みつけ、問い掛けて来ます。
「もうじばけ…、ぎひっ、ございば、がぎぃっ、ぜん、ぐぅぅっ…、お、おゆるじぃぃぃっ、ぐだ、ざいぃぃぃぃぃっ」
 私は謝罪か悲鳴か解らない声を上げ、必死にお許しを求めましたが、お姉様は足に体重を掛け、私の顔を踏みつけました。

 お姉様はのたうち回る私を見詰め、歌うように話し出されます。
「痛い? 痛いでしょ。今塗った軟膏はね、感覚神経を変質させるの、変質時にちゃんと学習させると、与えた学習の受容細胞を作り易くして、感覚器を増やしてくれるのよ。本当は効果の程が断定出来ないから表皮専用で、傷口に塗っちゃいけない物なんだけどね、お前はこれから私の実験に付き合って貰うわ。それを塗った状態で、これを塗ったらどう成るのかしらね…」
 お姉様はそう言って、傷を治すあの恐ろしく痛い薬を取り出して、嬉しそうに私に笑い掛けた。

 私の目が恐怖に引きつる中、お姉様は手術用の手袋を嵌め、手にいっぱいの軟膏を取り出すと、私の傷だらけの身体に塗りつけ始めました。
 私は自分の身体が、一個の物体に成った気がしました。
 全身は硬直し、小刻みに震えながら、跳ねる事も、藻掻く事も出来ず、全身を襲う未知の激痛に晒され続けました。
 それは、声すら出ない痛みで、私の身体は気絶する事も出来ず、その薬が効果を無くすまで、全身に痛みを感じ続けます。

 傷口が塞がり、全身に白い粉が浮き上がると、痛みが潮のように引いて行きます。
「ぶふぁーーーっ、がはっ、はぁーーーっ」
 痛みによって、痙攣していた私の肺が、新鮮な空気を求めて、激しく収縮と拡張を繰り返します。
 身体中の力が抜けて、全く全身に力が入りませんでした。
 それ程全身の力を使い、硬直していたのだと思います。
 お姉様はいつの間にか用意された、赤いアタッシュケースより一回り大きな、青いアタッシュケースをお持ちになり、私を見下ろされていました。

 お姉様は床に寝そべった私を見詰めて
「この部屋を片づけなさい」
 優しい笑顔を浮かべ、優しい声で私に命じられます。
 私は必死に成って首を巡らせると、私の部屋には制服の残骸が散らばり、切り刻まれた髪の毛が、あちこちに落ちていて、部屋の真ん中にはオシッコが水溜まりを作り、その中にウンコが落ちていました。
 恐らく鞭打ちの最中に、私がお漏らしした物だと思います。

 お姉様は、私に少し大きめのコンビニ袋を放り投げて下さり
「布と髪の毛は流石に、食べさせられないわ」
 ニッコリ微笑んで、仰って下さいました。
 私は俯せに成って、床の上を這いずり回り、髪の毛と布の残骸を身体全部で掻き集め、コンビニ袋に押し込むと、細心の注意を払いながら、浮き出た白い粉を口に入れないように、ウンコとオシッコを綺麗に口で処理しました。
 全ての処理を終えると、お姉様は青いアタッシュケースを開いて、私に中に入るように命じます。
 私は言われた通りにアタッシュケースの中に入ると、折り曲げた私の身体は綺麗に納まりました。
 お姉様は無言で蓋を閉められますと、中は真の闇が訪れます。

 ゴロゴロとキャスターの音が、アタッシュケースの中に響いて、2度大きな衝撃が響き、フワリと浮いた感覚の後、横に投げ出されました。
[バタン]と大きな音がして身体が上下にユサりと揺れ、[カリカリカリ]と何か歯車が噛み合うような音の後、車のエンジンの音が凄く大きく聞こえました。
 暫く車のエンジン音と小刻みな振動が伝わり、不意に[キー]と言う音と供に横方向に力が掛かります。
 身体の記憶の感じから、車が停車したのだと、何となく解りました。
 どこかで停車した後、[カチャ]と鍵が外れる音がして、アタッシュケースにまた大きな衝撃が伝わります。

 真っ暗な中で音と振動だけが私の全てでした。
 お尻の方向に重力を感じる事と細かい振動から、アタッシュケースは縦にされ、移動して居るんだと解りました。
 何度か大きな振動を受けた後、急に重力の掛かる方向がゆっくり変わります。
 アタッシュケースが横に倒されたんです。
 その後何の音も振動も聞こえなくなると、私の目の前は、真っ白に塗りつぶされました。
 蓋が開いて、眩しい明かりが降り注いで、私の視界を覆ったのです。

 目は直ぐに光に慣れ、辺りを見渡すとそこはどこかの部屋でした。
「出てらっしゃい」
 お姉様の声に、身体を動かそうとすると、フワフワとした感触ながら、何とか手足は動きました。
 私は立ち上がって、回りの状況を確認すると、そこは10畳ぐらいの部屋の中に、大きなベッドと小さなソファーに小さなテーブルが、一つずつ有る部屋でした。

 私が驚きながら、回りをキョロキョロしていると
「こっちへ、いらっしゃい」
 お姉様が私をお呼びに成ります。
 私は慌てて返事を返し、お姉様の声のした方に進みます。
 そこには、この部屋に相応しくない、大きな浴室が有りました。
 洗い場は、大人が2人十分に横に成れるスペースが有り、浴槽も大人2人が十分に入る事が出来る、大きさでした。
 お姉様が洋服のままお湯を張り、私に笑い掛けると
「そこに座って、待ってなさい」
 私に浴室用の椅子を示して、浴室を出て行かれました。

 私は椅子に座り何げに視線を漂わせると、目の前に鏡がありました。
 鏡に映る私の身体は、お薬の粉が浮いて真っ白に成っています。
 そんな自分の姿を見て、やはり目が行ったのは、私の頭の焼き印でした。
 マネキン人形のようにツルツルに成った頭に[PUSSY DOLL]と私の役割が、赤く腫れ上がって浮かび上がっています。
 私はあの熱さと痛さから、酷く爛れている物とばかり思っていましたが、火傷は赤く腫れて肉が盛り上がっているだけで、全く爛れていませんでした。
 私は鏡を覗き込み、しげしげと火傷の状態を確認していると、その視線は股間に落ちて行きました。

 私の下腹部に付けられたもう一つの烙印[奴隷]の文字も、赤く盛り上がっています。
 私は椅子から立ち上がると、鏡に下腹部を映し、正面から見てみました。
 正面から見ると縦に並んだ[奴]と[隷]の文字が、綺麗に読み取れます。
 私は鏡に映る身体を左右に振りながら、いろいろな角度で見ていました。
 するとそんな私にスッと背後からお姉様が近付き
「どう、気に入った? 綺麗に出来てるでしょ?」
 全裸で戻って来られ、私に問い掛けました。

 私はお姉様の[座って待ってなさい]と言う、指示を守らなかった事に謝罪しようと、洗い場に身を投げ出し平伏しました。
 ですが、お姉様は私が平伏しきる前に、スッと無言で手を翳して私の動きを制し、静かに首を左右に振られました。
 私は正直戸惑いましたが、お姉様はシャワーに手を伸ばし
「今日は良く頑張ったわね。これは、ご褒美よ。目と口を固く閉ざして、私が[良い]と言うまで開けちゃ駄目よ」
 優しく告げられると、私の頭の上から暖かいシャワーを浴びせ、クスクスと笑われます。
 いっぱいのお湯で、私の身体に浮いた、白い粉を洗い流したお姉様は、私の身体をソッと抱きしめて下さいました。
 私は、胸の奥から熱く成り、涙がポロポロと流れ始めました。
 私を抱きしめたお姉様は、私の流す涙をその整った唇で、啄むように掬い取り、舐め取って下さいました。

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