狂牙
MIN:作

■ 第2章 ゲーム2

 確かに最近は、飲み過ぎていた。
 このゲームが始まって1ヶ月、日に日に量が増え、多分最近は1日ボトル1本は空けているようなペースだったろう。
 どうやら俺は嫌な事があると、酒に逃げる習性が有るようだ。
 3年前もそうだったが、乙葉に言われて、初めてその事に気が付いた。
 俺はフッと自嘲めいた笑いを浮かべ、サイドテーブルに置いてあるグラスを指先で乙葉に軽く押し返し
「お前の差し出すタイミングが良すぎるんだ。水に替えてくれ」
 唇の端に微笑みを浮かべ、乙葉の不安を消してやった。
 乙葉は俺の言葉を聞いて、申し訳なさそうな表情と嬉しくて堪らないという表情をごちゃ混ぜにしながら
「はい! 直ぐにお持ち致します」
 グラスを両手で受け取り、キッチンに向かって駆け出していった。

 パタパタと駆けて行く乙葉の白い背中を見送り、俺はその先にあるキッチンに目を向ける。
 キッチンの出入り口には首から上を出して、優葉が心配そうな表情でこちらを窺っていた。
 俺と視線が合うと、一瞬驚きペコリと頭を下げてバツが悪そうな表情に変わる。
 俺はその表情が妙におかしくなり、優葉に向けて軽く手招きする。
 優葉は俺の手招きを見て、途端に顔を笑顔で崩して、子犬のように駆けだしてきた。
 スレンダーな身体に形の良い乳房が、跳ねて暴れている。
 この姉妹は家の中にいる時は俺が与えた首輪以外、一切の物を身に付けない。
 俺が命じた訳ではないが、俺より長いSM歴を持つ2人の行動をとやかく言うつもりも無い。

 優葉は俺の足下にペタリと正座すると、深々と頭を下げ
「ご主人様、お呼びでしょうか」
 俺に問い掛けて来た。
 俺はソファーに凭せ掛けていた身体を乗り出し
「お前も心配してたのか?」
 平伏した優葉に優しく問い掛ける。
「はい。ご主人様のお気持ちを察して、心配していました」
 優葉は平伏したまま、泣きそうな声で俺に答えた。

 俺は優葉の頭に手を伸ばし、セミロングの艶やかな黒髪を撫で
「そうか、心配を掛けたな。これからは、控える事にするよ」
 優葉をねぎらってやった。
 優葉は俺の声に驚きながら顔を上げ、俺の顔を見詰めるとウルウルと目に涙を湛え、言葉を探し始める。
 俺は言葉を探す優葉を、何も言わずに引き寄せた。
 優葉はキョトンとした表情を作りながら、俺のするに任せて身体を移動させる。
 そして、俺が自分の足下に優葉を座らせ、頭を太股に乗せて優しく撫でてやると
「ご、ご主人様…、あ、あの…、良いんですか? 私何もしてないのに…、こんなに…」
 目を白黒させ、驚いた声で問い掛けてくる。
「ああ、構わない…。こんなビデオを見ながらだが、今日は寛げ…。お前も何か気付いた事があったら、俺に教えてくれ」
 俺が静かに答えると、優葉は途端に目を細めて俺の太股に頬摺りを始めた。

 その時サイドテーブルにコトリと小さな音を立てて、乙葉がグラスを置いた。
 俺は、それがおかしくて仕方が無かった。
 何故なら、乙葉は普段、絶対にこんな風に音を立ててグラスを置いたりはしない。
 明らかに、自分の事を俺に認識させようとする行動だった。
 俺はそんな乙葉の行動に笑いを噛み殺し、視線を向けてやった。
 いつもと変わらない、落ち着いた美しい顔がそこに有ったが、乙葉の視線は優葉にそれと無く向き、目は[羨ましい]と熱弁している。
 俺は乙葉に向かって、ヒラヒラと手招きをし、空いている方の太股を軽く叩いてやった。
 その途端、乙葉は少女のように顔を輝かせ、驚く程の速度でテーブルを回り込み
「ご主人様、有り難う御座います」
 俺に感謝の言葉を言いながら、太股に頬をすり寄せた。

 この2人の姉妹は、今では俺の無くては成らない[戦友]であり[奴隷]だった。
 今までのゲームで、幾度と無くこの2人に窮地を救われている。
 それだけで無く、俺が管理する女達を教育し、マゾに変えられた性癖を満たし、正気を保たたせてもいる。
 この2人により、社会適合出来るまで回復させた女達は、俺が忠雄達に任せているクラブやスナックで働き、生活基盤を作らせていた。
 中には、俺に忠誠を誓った組織の工作員と、家庭を持った者まで居る。
 そんな2人を、俺は以前以上に必要とし、2人も俺を必要としていた。

 俺はそんな2人の頭を撫でながら、晃の反応を見ようと視線を向ける。
 視線を向けて正直、俺は驚いた。
 いつもはこんな時、軽口を吐きながら俺に迫ってくる晃が、何の反応も示さないからだ。
 只押し黙り、ジッとモニターを見詰める晃。
 俺は、その目の色に晃が何か別の事を知っている気がして、仕方が無かった。
 その目の色は、まぁ、少なくともこの女とは、[旧知の仲]で有る事は、十分に推察出来る色である。
 晃の目に浮かぶ[憎悪]と[後悔]の色は、俺にその関係を想像させるには充分過ぎた。

 俺はモニターに視線を向け、無修正の録画映像を見ながら
「晃…、お前何を隠してる…」
 静かに問い掛ける。
 俺の言葉で、晃の身体がビクリと跳ね上がる気配を感じた。
 俺がその気配で確信して、ゆっくり顔を向けると、晃は苦しそうな表情を浮かべ
「ごめん! 良ちゃん…。私のせいなんだ…。このゲームも…和美達の事も…、良ちゃんの立場が悪くなったのも…、全部私のせいなのよ!」
 血を吐くような声で俺に告げ、顔を伏せて泣き出した。
 それから十数分後、俺は晃の告白を聞き、事の全てを理解した。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊