狂牙
MIN:作
■ 第2章 ゲーム10
この権利とは、それこそ被害者に対する調教のレベルであったり、人体改造の度合い、ギャラリーの介在まで、様々である。
それを認めるか、認めないかが権利を手に入れると言う行為に当たった。
つまり、人体改造を天童寺が認めると言えば、賛成反対でチップを払って行く。
単純に相手の意見を覆すには、向こうが提示したチップの倍額を払えばそれで済む。
レベル1から始まり、レベル5の最高ランクまで、俺は一方的に認めざるを得なかったが、どうしようもない事だった。
それどころか、被害者に対する調教方法や調教深度も、全て天童寺に持って行かれた。
権利の確定の段階で、俺はルールで決められた情報開示の基本権利しか手に出来無かった。
これがどう言う状態かというと、果物ナイフを片手に戦車と喧嘩するような物だ。
天童寺は俺を押しつぶす事も、粉みじんにする事も、挽きつぶす事も思いのままだ。
今の俺は死刑判決が確定した、死刑囚と何ら変わりがない。
天童寺は、最初から俺にこの状況をプレゼントして来た。
そう、俺が逃げる事も、かわす事も出来無い状況。
処刑台への片道切符。
それが、あいつの用意した物だった。
この組織は、基本的に上位者が有利に物事を進められるように成っている。
それが、ランクルールと呼ばれる物で、プレーヤーはそれに従わなくてはならない。
ゲームを行う場合、お互いがランクに見合ったポイントを出し合い、始められる。
そのポイントの基本的な額は、ランクに依って決められている。
bT1以下の場合相場は100ポイント、bR1〜50で200ポイント、bQ1〜30は300、bP1〜20は400ポイント、そしてbP〜10が500ポイントが基本だ。
そして、下位の者が上位の者にゲームを挑む場合は、基本の3倍のポイントを提示しなければならない。
つまり、bSがbV0にゲームを申し込んだ場合、100ポイントで済むが、bV0がbSにゲームを申し込む為には、1,500ポイント必要と成る。
まぁ、それが俺の2年前の状況だった。
この基本ポイントは特殊な場合を除いて、破られる事はない。
過去に有った事例は、本部の裁定に反抗したプレーヤーが、全てを奪われる為に行われた物で、3件とも同じゲーム、同じ相手だった。
そう、俺も同じ相手と4件目の事例に加えられる。
これは、そう言う意味のゲームで、天童寺は10,000P(ポイント)のゲームチップを提示して俺の前に現れた。
組織のポイントは、1Pが100万円の換算だから、10,000Pと言えば100億円分のポイントだ。
俺がこのゲームを断れば、違約金としてルールで決められた5倍のPを払わなければ成らない。
それはbQを倒して手に入れたPと、優葉や乙葉全ての奴隷や権利を組織に売り渡して、初めて賄えるだけのPだった。
つまり俺が、この申し出を断ると言う事は、[全てを諦め、全てを捨てる]と言う事だった。
資本の違いは、圧倒的な力として、ゲームを自由に進めて行く。
俺にはそれに抗うだけの力はない。
何故なら、俺はポイントを持っているが、実質は貧乏だったからだ。
俺の持っているポイントの大半は、[奴隷]と[権利]だった。
それは、この2年間の環境がそうさせた。
俺はこの2年徳田を介在して、ゲームを行っていた。
徳田が斡旋し、俺がゲームを行う。
それがこの2年の、スタイルだった。
徳田の爺は俺が釈迦力に成って、組織のメンバーを潰していく様をホクホク顔で見ていた。
俺がゲームで勝利して、手に入れたポイントは、そのゲームを斡旋した徳田に、取り分として2割手に入るからだ。
俺は何度かゲームを行いその[2割]と言う縛りに、心底腹が立った。
何故なら通常プレーヤーの資産ポイントは、大きく分けて3つに分かれるからだ。
一つはそのプレーヤーの持つ利権や奴隷で換算する権利ポイント、これが概ね4〜6割を占める。
そしてもう一つが、ゲームにより手に入れた資産ポイント、これは3〜5割だ。
最後に残った1〜3割が、通貨としてのチケットポイントだ。
殆どのメンバーがチケットポイントは、その資産の2〜3割程しか所有せず、直ぐに既得権に変え地盤を固める。
そんな中、ゲームのポイントとして、プレーヤーは保有する奴隷を使う。
それで、足りなければ様々な既得権をポイントとして譲渡してくる。
だが、この2つは徳田に渡す訳にはいかなかった。
奴隷は元より、既得権を渡せば、それだけ徳田の力が強まるからだ。
そして俺の性格上、ターゲットにされた者を徳田に渡す気にもなれない。
俺はこの組織のゲームに巻き込まれたターゲットを、更に地獄に追いやる気は毛頭無かった。
甘かろうが何だろうが、俺はターゲットを出来るだけ自分の庇護の下に置いた。
必然徳田には、チケットポイントのみを渡し、その結果、俺の手にはチケットポイントは中々堪らなかった。
そして当然、俺のこの行動は、他のプレーヤーに取って面白くなかった。
この組織のプレーヤーは、ポイントとして支払われた奴隷や、ターゲットにされた家族を取引し、自分の嗜虐心を満たすからだ。
1人で女達を抱え込む俺が、他の鬼畜共には腹に据えかねるらしい。
そんな俺にゲームを斡旋する徳田は、どれ程ボロ儲けしていたか解らない。
俺にゲームを挑む為、組織にでは無く徳田に依頼した方が早いからだ。
組織はそれなりのスケジュールを管理し、ゲームを割り振る管理体制が整っている為、無理なスケジュールは組まない。
当然目の敵にされている俺には、組織を通すと1年や2年待ちはざらに成る。
だが、[私闘]を管理している徳田に申し出れば、直ぐにでもセッティングする。
強突張りの徳田の事だ、マージンを取って俺とのゲームを組むのは、当たり前の事だろう。
だが、結果この行動が本部の逆鱗に触れ、今の状況に追い込まれてしまった。
無理をしていたしわ寄せが、思わぬ形で吹き出したのだ。
全く、笑い話にも成らない。
俺はウンザリした顔でモニターを見詰め、今後の方針を模索する。
だが、そんな物に何の意味もない。
打つ手などどこにも転がっては、居ないからだ。
俺は絶望という物を感じながら、奴隷に変えられて行く被害者達を見詰めていた。
今の俺には、それしかでき無い。
■つづき
■目次
■メニュー
■作者別