狂牙
MIN:作
■ 第4章 回り始める舞台4
その言葉を聴いた瞬間、良顕の顔が鋭い物に変わり
「千佳が危ない! 直ぐに連絡しろ!」
2人に鋭い声で指示を出す。
だが、その指示に優葉が直ぐに顔を跳ね上げ
「あ、あの。ご主人様、千佳ちゃん、今日、ターゲットを監視するって…。身元を示すもの…置いて行っちゃいました…。これ、朝私が預かって…」
良顕に携帯電話を差し出し、説明した。
「ちぃっ! 緊急シグナル…」
良顕は舌打ちをして、次の手を打とうと考えたが
「くっ、あいつまだ埋め込んでない…」
直ぐに、自分のミスに気付いて、眉を曇らせる。
良顕の潜入要員は連絡が取れない時のため、首筋に緊急撤収を知らせるチップが埋め込まれていた。
だが、千佳は今回単独行動が初めてだったため、まだその処置が為されていない。
良顕は直ぐに携帯電話を取り出し、コールする。
「啓介! 俺だ。直ぐに、千佳を見つけて回収しろ! 場所は、大学だ! 千佳のマンションは、クリーニングしろ」
電話口に啓介が出ると、口早に命令した。
啓介は、良顕の口調から緊急事態を察し
『解りました、直ぐに行動に移ります』
素早く返事を返し、通話を切った。
良顕は通話の切れた携帯電話を見詰め
「頼むぞ啓介…。これ以上…仲間を失わせないでくれ…」
悲痛な表情で呟いた。
良顕の呟きで、乙葉と優葉が更に項垂れる。
良顕はズボンのポケットに携帯電話を突っ込みながら、ソファーに進み身を投げ出す。
「優葉…。千佳は、あのアナルバイブ、近藤の実家で買ったんだろ…」
良顕が疲れたような声で、優葉に問い掛けると
「は、はい。バイブを2本買ったら、オマケで貰ったそうです。どうしてお分かりに…?」
優葉が問い返した。
良顕は背もたれから身体を起こし、両膝に両肘を乗せると
「アナルバイブが、普通の店に置いて有る筈が無いだろ。それに、あいつが今俺に命じられた、調査をしない筈が無い。この二つに共通するのは、近藤の実家だ。あの馬鹿、あれ程接触するなって注意したのに」
良顕は左の掌に右手の拳を叩きつけて、悔しそうに答えた。
暫く考え込んでいた良顕がスッと立ち上がり、乙葉の傍に立つと
「マテリアルのシステムに痕跡を残さず、近藤を調べられるか…」
乙葉に問いかける。
すると、乙葉は静かに首を左右に振り
「申し訳御座いません。既に、実施しましたが。データベース以上の事は、解りませんでした」
良顕に申し訳なさそうに告げた。
良顕は乙葉の言葉に溜息を吐くと、モニターをゲームの物に変える。
昨夜、飼い犬のジムを撲殺した毬恵が、警察官に事情を聞かれている映像だった。
モニターの毬恵は、泣きながらくたびれたスーツを着た男に発見時の事を話している。
右隅には、1時間前に事情聴取されている、啓一の映像、その上には30分前の晶子の映像が映っていた。
全員が、発見した時には、既にジムは殺されていたと話し、啓一は怒り、毬恵と晶子は悲しみに震えている。
誰が、どう見ても侵入者に深夜殺害された愛犬を、思っているような態度だった。
この家族は最早完全に、由梨の操り人形だ。
その行動全てを、魔女に支配されきっている。
警察は物取りの犯行として、手配する事を告げ葛西家を後にする。
会社に出かけようとした孝司は、家族の非難を一身に浴びたが、詫びながら出掛けて行った。
『ふふん、良い感じね。これで、理由が出来たわ。毬恵、今日からクリ○リスを急いで仕上げるわよ。お前にはオリジナルと培養の2つを付けて上げるわ』
由梨が毬恵に宣言すると、毬恵は嬉しそうに全裸になり
『ああぁ〜っ、由梨様お願いします〜…、早く大きくして下さい〜。毬恵も、晶ちゃんみたいなオチンチン欲しいです〜』
大きく足を広げて、クリ○リスを晒し懇願する。
『うふふっ、ママ〜。これがそんなに羨ましい…? でも、本当に凄いのよ…、コレ。滅茶苦茶気持ち良いんだから』
晶子も全裸に成って、クリチ○ポを晒し、ユックリとしごいて見せ付けた。
『毬恵様、僕の舌で吸い上げて、舐めまくって刺激します。ですから、存分にお使い下さい』
啓一が、毬恵の足元に平伏して、毬恵に懇願する。
毬恵の地位は、ジムの廃棄処分で晶子と同列に上がり、啓一が最下層と成っていた。
胸糞が悪くなった良顕は、モニターを切ろうとした。
だが、直ぐに異変に気付き、由梨の姿をズームする。
由梨はリビングのソファーの背もたれに手を付き、立ったまま胸元を押さえ俯いていた。
バストショットの映像を見ると、顔面が蒼白で小刻みに揺れているのが解る。
すると、由梨の顔に見る見る脂汗が浮き始め、前身の震えが強まり始めた。
異変に気付いた晶子が、由梨に近づくと、由梨の顔が持ち上がり、頬が膨らむ。
「この映像に[ブラインド]を掛けろ!」
良顕は、咄嗟に乙葉に鋭く命じ、処置をさせた。
それと殆ど同じタイミングで、由梨の口から大量の喀血が吹き出す。
それを見た葛西家の一同に、パニックが広がるが
『あ・き・こ…き、き・い・ろの…か・ばん…』
由梨が晶子にたどたどしい声で、指示する。
晶子は指示を聞き、蒼白な顔を頷かせて、リビングを飛び出す。
数秒後、黄色い鞄を持った晶子がリビングに戻ると、啓一に支えられた由梨が、薬品を取り出し首筋に注射した。
注射を終えた由梨は、荒い息を吐き暫く脱力する。
だが、数分も経たぬ内に、由梨の呼吸が安定し始め、血色が戻り始めた。
一度、激しく咽こみ、胃の内容物を吐き出した由梨は、見る見る体調を取り戻す。
呼吸が完全に元に戻った由梨は、何事も無かったかのように立ち上がり
『私が吐いた物の処理は、お風呂の湯船にいっぱいに成る迄水を張って、4回に分けて流しなさい。絶対そのまま流しちゃ駄目よ』
注意を与えて、黄色い鞄を抱え自室に戻って行った。
自室に戻った由梨は、着衣を全て慎重に脱ぎ、厚手のナイロン袋に注意しながら入れると、黄色い鞄からウエットティッシュのようなものを取り出し、丁寧に吐しゃ物の跡を拭い始める。
全身をくまなく拭った由梨は、ウエットティッシュもナイロン袋に入れ、3重構造のジップロックを閉じ、隅にある金属部分を押した。
[ビシュ]と、鋭い空気の流れる音が鳴り、ナイロン袋から空気が抜け、ペッシャンコに成る。
由梨はそれを黄色い鞄に入れると、代わりに錠剤を取り出し、口に含んでそのままベッドに横になった。
「何だ…。これは、一体何が有ったんだ…」
良顕はその光景を見詰め、意味を知ろうとした。
だが、マテリアルに入って日が浅い良顕には、これが何を意味しているか、全く理解できなかった。
歯車がまた一つ噛み合い、舞台は回る。
様々な者の運命を乗せて。
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