狂喜への贐
非現実:作

■ くたびれた街8

「五反田ぁ、暴力振るわれたんだから訴えていいぞ」
「そ、そんな事っ・・・」
「おぅおぅ出来る訳ねぇよなぁ〜なんせあの時見逃してやったんだからなぁ〜五反田ヒデオ君〜」
「見逃した?」

「見逃した」という言葉に上野という女刑事が反応した。

「コイツなハッカーなんだよ、前のヤマでデータを盗もうとしてたところをワシが補導した」
「えぇっ、それ犯罪ですよ、それなのに見逃した・・・のですか!?」
「キーキー喚くなウッサイっ、接触する前だったから完全な犯罪じゃないんだよ、だから説教で許したんだ」
「・・・それでもまた」
「だから大丈夫だ、抜かりねぇように監視役として目黒ん所に住まわせてるんだよ。
住まわせる代わりに無給で目黒の下で働けっていうんが、ワシとの約束・・・だよな!」
「は、ぃぃ・・・」

更に小さくなる五反田が蚊のなく声で肯定する。
凄い迷惑な話だけどな、と言おうとした目黒だったが流石に可哀そうに思い口にするのは止めておいた。

「んでな、この小姑みたいのが今のワシの部下だ」
「上野ユウコと申します、よろしくお願いします」

深々と頭を下げてフルネームを口にした。
目黒は第一印象で思ったことを聞いてみた。

「随分と若そうだが、何年目?」
「3年目です、最初は捜査4課でした」
「え、今は違う・・・っていうかオヤジと一緒なんだろ?」
「ワシも歳でな、お前が警察辞めた後に風俗取締りに移ったんだ」
「マジかよ・・・」

捜査4課の名刑事といえばこの田端であり、それに続くと謳われていたのが目黒だったのだ。
ヤ○ザの世界で田端・目黒と聞けば知らない者はいないくらいに。
それだけに田端が異動してしまった事に酷くショックを受けた。

「言っておくがワシは自分で引いたんだからな、そろそろ若い連中が中心にならんといかんだろ」
「んでその若い上野さんは引っ張って来たのか?」
「ちげーわい、このお嬢ちゃんは駄目だったんだよ」
「・・・本人の目の前で言うなよ」

相変わらずデリカシーの欠片もない言い草に目黒がたしなめる。
顔を真っ赤にしながら上野刑事が途中で口を挟んできた。

「い、いえ先輩、私が使えなかったのが悪いのですから・・・」
「ペーパーの試験は主席クラスだったらしくてなぁ上の方も随分と期待してたみたいだがなぁ。
如何せん血が駄目だったんだよ、見ると直ぐ貧血起こしちまう。」
「あー・・・ ・・・」

内心それは駄目だと目黒も確信したと同時、それでよく刑事になろうと思ったものだと複雑な気分になった。

「さてと、自己紹介も済んだし職質していいか?」
「っぇ!?」
「心配すんな、五反田君にはしないからよぉ〜」
「何で俺だけなんだよ」
「そりゃあ〜こんな時間にブラブラしてるからだろ、探偵が」
「・・・歳なんてもったいない事言ってんなよ」

警察を離れてから数年、オヤジこと田端も耄碌したのかとショックだったが、やはりオヤジはオヤジだったと安堵する。
やはり田端刑事の洞察力は衰えていない。
そして残念なのが新米の上野は解っていないという事だが、そこは面倒なのかあえて無視して田端は話を進めてきた。

「何のヤマ追っかけてんだ?」
「黙秘」
「風俗関係だろ?、そん時は声掛けなかったが風俗案内所ですれ違ったがなぁ」
「・・・ ・・・ちょっと済まない、待ってくれ」
「ぉう、考えろ考えろ」

こちらの仕事は全く進展しそうになく、どんな事でも情報は欲しかった。
そこに元同僚である警察官田端刑事がふと投げかけた言葉、頭の中で田端が言った言葉を一字一句拾ってゆく。
(風俗案内所・・・ドンピシャ過ぎるだろ、それに今のオヤジはそっち方面が対象と・・・?)
そもそも警察なのだから問題ある店に直接行けば済む事なのに、わざわざ風俗案内所などを利用する事に引っ掛かる。
(なるほど、それならこっちも乗るしかないな)
薄々とであるが田端の魂胆が読めてきたと同時に、今回の依頼は事が大きいと感じてきた。
警察も似たようなヤマを抱えているのであろう、田端達の対象者は佐伯タカユキではないが同等の事件が起きていると考えていい。
(複数の被害者・・・とかなると噂ぐらいたってもいいものだが?)
目黒は餌を撒いてみる事にした。

「女を探してる」
「ほぉ・・・どんな?」
「風俗関係者の女だ」
「どっち関係の風俗だ?、年齢は?、見た目は?」

断りもせずに目黒の煙草に手を伸ばして、勝手に火を付けて聞く姿勢となる。

「ちょっ、ちょっと貰い物は拙いですよ・・・」
「いーから上野は黙ってメモってろ」

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