虜囚にされたOL
木暮香瑠:作

■ 罠に嵌ったOL2

麻希へ。
誕生日、おめでとう!
今日は、二人だけで君の誕生日を祝おう。
七時にいつものレストランで待っていて
くれ。


 麻希は、一人だけのお茶室で小さく頷いた。

 麻希と亮輔が付き合いだして一年になる。今回が初めての二人っきりの誕生日になる。麻希は、入社すぐに独身男性社員たちの間で話題になった。そのスタイルの良さを褒める者もいれば、黒目の大きい瞳に魅了されるものもいた。素直な性格のよさも、女子社員や既婚者にまで良い評判となっていった。麻希を誘う独身男性の中で、麻希の心を射止めたのが亮輔だった。真面目で仕事も堅実にこなす亮輔は、上司の信頼も厚い。露骨にアプローチをかけてくる男性社員の中、亮輔だけは違っていた。仕事上で困ったことがあると、他の社員の見せ掛けだけの優しさといい加減なアドバイスと違い、相談に一番親身に的確なアドバイスをしてくれるのが亮輔だった。

 いつしか麻希も、そんな亮輔に引かれていった。相談を持ち掛けている内、二人で会うことも多くなり自然に付き合うようになっていた。社内で二人が付き合っていることを知っている社員は、麻希の同僚女子社員数人だけでった。



 麻希は定時に仕事を終わり、家に帰った。自室で、デートの為の衣装の用意を始めた。麻希は今日の為に、新しいワンピース、下着を買っていた。亮輔と二人で過ごす始めての誕生日を特別の日にしたかった。その日の為に、着る物全てを新調していたのだ。

 その時、携帯が鳴ってメールの着信を知らせる。
「何かしら?」
 麻希は、届いたばかりのメールを確認する。メールは、亮輔からのものだった。


麻希、少し遅くなりそうなんだ。
会議が長引いてる。
終わり次第連絡するから待っていてくれ。


 麻希は嫌な予感がした。亮輔は今日、太田産業に出向いているはずだ。その目的が太田産業との取引中止の会議だとしたら、会議は平穏には進まないだろう。
(何かもめてるのかしら? やっぱり取引中止の通告に出向いたのかしら……)
 亮輔の心も平常ではないだろう。取引先を切るということは、その会社にとっては大きな痛手だろう。中小企業の太田産業にとっては、死活問題のはずだ。心優しい亮輔にとっては、これ以上嫌な仕事はないだろう。そんな亮輔の心情を察すると、麻希の心も曇った。
(亮輔さんは心の切り替えも上手だから、私も彼に心配掛けないようにしなくちゃ)
 麻希は、今日の為に買ってきたランジェリーを取り出し、着替え始めた。

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