虜囚にされたOL
木暮香瑠:作

■ 罠に嵌ったOL4

 つい嬉しくなった自分を恥じながら、それを悟られまいと麻希は話題を変えた。
「会議の方は大丈夫なんですか? 社長さんが居なくて……」
「大丈夫ですよ、副社長がしっかりやってくれてますから。副社長って言っても、私の息子ですがね、ハハハッ……」
 取引が停止するかもしれない会議だと思っていた麻希には、太田幸造の脳天気さに驚かされる。太田の態度に疑問を感じながらも、麻希は太田との会話に相槌を打っていた。

「何になさいますか?」
 間接照明に照らされたお酒のボトルがずらっと並んだ棚を背に、マスターが麻希に声を掛けた。笑顔は作っているが、幅の薄い眼鏡の奥で鋭い光を放つ細い目が威圧感を与える。細い体をしているが、何か危ない雰囲気をもっている。
「わたし……、お酒はあまり強くないんで……」
「私はいつものヤツを……。彼女には、何か軽いカクテルを貰えないか?」
 何を頼めばいいか判らない麻希の様子を見て、幸造がマスターに注文をした。

 麻希の前に出されたカクテルは、細長いグラスに淡いピンク色をしたお酒が入ったものだった。ピンクのバラを思わせるお酒の中を、気泡が揺れながら上がっていく。麻希はその発泡酒を一口、舌の上に転がした。
「おいしい!」
 麻希の顔がほころんだ。酸味とグレープフルーツのような苦味、甘味がブレンドされ、炭酸が舌の上で弾けさわやかな口当たりだ。ジュースより大人っぽくビールほど苦くもない、お酒が苦手な麻希でも楽しめる物だった。

「美味しかったですか? それは良かった。それは『ピンク・ヘブン』と言って、マスターのオリジナルなんだよ。女性には一番のお勧めのものなんですよ」
 幸造は、麻希がカクテルを気に入ったこと喜び笑顔を見せた。
「もう一杯どうかね?」
「ハイ」
 麻希はカクテルのあまりの口当たりのよさに、お酒の弱いのも忘れ二杯目を口にした。

 麻希の目元がほんのりと紅く染まった。身体が熱い。
(酔ったのかしら? このカクテル、意外とお酒強いのかな?)
 何気ない会話を太田としていた麻希も、自分が酔ってきたことを自覚し始めていた。

 幸造は、麻希の様子を窺いながら会話を続けた。
「麻希さん、お酒に酔った顔も色っぽいね。それに、その大きな胸も素敵だよ。小林君に揉んでもらって大きくなったのかな?」
 幸造は、形よく盛り上がったワンピースの胸元に視線を這わせ卑猥な会話を始めた。

 麻希は突然のHな質問に、ムッとした表情で答える。
「ち、違います!! そんなことしてません!」
 しかし、太田幸造はニヤニヤと笑っているだけだ。それどころか、さらに卑猥な質問を麻希に投げかけた。
「じゃあこのお尻はどうなんだ? 小林のチ○ポを咥え込んでフリフリして大きくなったんじゃないのかね?」
 幸造の掌が麻希のお尻に宛がわれる。触れたという生易しいものではない。掌全体をお尻に強く押し付け、指を柔肉に食い込ませて揉んでいる。
「キャッ!! 何するんですか!」
 カッとした麻希は、幸造の頬に平手を食らわせ席を立った。
「しっ、失礼です!! いくら取引先の社長さんでも……。わたし、帰ります!!」
 出口に向かって急ごうと、席を立った麻希の脚が縺れた。脚に力は入らず、麻希は膝から崩れてしまった。それに、平手をした掌が異常に熱くなっている。身体全体が奥からカッカ、カッカと熱くなってくるのが判る。
(えっ!! こんなに酔ってるの? わたし……。二杯しか飲んでないのに……)
 麻希は、正座をするように床にしゃがみ込んでしまった。

 幸造には、悪い事をした罪悪感など無いようだ。麻希が見上げると、何事も無かったように幸造が笑みを浮かべている。
「気の強い女だね、麻希さんは……。気の強い女は、私は嫌いじゃないがね。フフフ……」
 幸造は、床にしゃがみ込んだ麻希を見下ろしながら不敵な笑いを投げかけた。

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