女麻薬捜査官和美
若光:作

■ 拷問編3

アイマスクが外された。久しぶりに視覚が取り戻された。暗闇から目が光に慣れるのに、いくばくかの時が要った。
 和美は足元にキーボードが置かれているのに気付いた。
「質問にはキーボードを足の指で、叩いて答えろ。お前の名前は?」
 敵の方が上だった。当然、轡が外されると和美は思ったのに。
「どうした、キーボードを叩けお前の名前だ。」
 和美はうなだれた。頭が下に下がり、唾液が鼻に入った。和美は鼻に入る唾液にはもう耐性ができていた。さほどむせもしなかった。軽く開いた足の間から拷問者の足だけが見えた。敵の顔を確かめようとした和美の捜査官としての任務を和美自身の性器と尻の肉が妨げた。陰毛の先からは五・六秒ごとに汗が滴り落ちていた。
「口を自由にするとでも思ったか。舌を噛もうとでも考えたのか? 我々が、そんな甘いと思ったか? ナメるな」
 鞭が和美の尻に走った。今度の鞭は乗馬用の鞭だった。男の怒りも加わったよりハードな打撃だった。和美の身体から汗が飛び散り、和美はつかの間の失神の忘我に逃避した。僅かな糞塊が和美の肛門から吹いた。小水はおそらくもう出る量がなく、出なかったろう。仮に出たとしても滴り落ちる汗との区別は困難だった。

 再び軽い電流を感知し、和美は意識を取り戻した。床上に大の字に四肢が、縛り拡げられていた。首の後ろに当たる何かがあり頭だけが下に下がった。両手は左右真っ直ぐに横に伸ばされ縛られていた。足は九十度に開脚されて縛り拡げられていた。どうやら机のような物に仰向けにされて頭だけが机から出ているのだろうと和美は想像した。さっきの逆さ吊りの鞭打ちが前菜で、これからが本当の拷問なのだと和美は覚悟した。
「殺してよ」
 和美は叫んだ。ギャグに潰れた声になった。アイマスクもそのままだった。
「殺して、と言ったか? それなら全て吐け。もう意地は通したろう。このあたりで、諦めろ。」
 和美は首を横に小さく振った。死ぬ自由も、視覚も、奪われた。和美の残された自由はギャグに押し潰された苦悶の悲鳴を上げる自由のみだった。和美は轡を噛み締めた。せめて轡を噛み締める事で、これから加わるだろう苦悶に耐えようと思った。腹から性器そして肛門から尻の肉が震えた。太股の肉がひきつる。絶望と恐怖にまだ何もされていないのにも拘わらず和美は自分ですら意味不明な大声を上げた。叫び、わめき立てるしか心の正常を保ち得ない和美だ。和美の絶叫など構う事もなく、男は次の拷問の支度に掛かった。左右の大陰唇にクリップが、それぞれ噛まされた。小陰唇に同様に二つの小さめのクリップが嵌められる。男の指先が陰核を探り当てようとする。しかしながら、性的興奮とは、全くの対極にある和美の陰核は秘肉の中に埋まり全く姿も探り当てられない。
「さすがにクリットどころではないらしいな」
 男は和美の秘核を諦め、肛門にアナルストッパー状の物体を捻り込んだ。最後に両の乳首にクリップを噛ませた。秘核をまさぐられる当たり迄絶叫を続けた和美だがアナルの頃からは静かになった。多分電極なのだろうと思った。耐えれないだろうと思った。電流のショックで、うまく許容量以上の電流が流れショック死できればと望んだ。これだけ拷問に周知した連中が、流す電流を致死量にするようなミスをするとは期待できないと考えるしかなかった。致死量の遥かに低い電流で、自分は屈服するだろうとしか思えなかった。頭だけが机の外なのが連中の徹底した自殺を許さぬ意図なのがこの時和美は理解した。頭を打ち付け自決する可能性すら封じる彼らの意図なのだ。一切の拷苦から逃れる自由がないと和美は認識するしかなかった。男の声がした。
「今、着けたのはそれぞれ電極だ。これから電気を流す。一・二回は失神できるかもしれない。だが、そう何度も失神はできない。失神すらできなくなった後は、もう出す大小便もないだろう。大声で、叫ぶか、ギャグを噛み締めるしか、お前には許されない。もう諦めろ。首を縦に振れ」
 和美は首を縦に振ろうかと考えた。もうこれ以上無理と思えた。だがこれからの電流責めで、狂えるのではと考えた。死ぬも狂うも、内部の秘密を守り抜くなら同じなのだ。電流を受けよう。そして狂うか、うまくいけば死ねる。和美は首を横に振り拷問に抗する意思を顕わにした。
『では、いくぞ』位の言葉はあると思った。何の前触れもなく激しい電流が、和美の乳房から性器と肛門を流れ走った。和美の股間が激しく上下し、男を求めるかのように打ち震えた。頭だけが振り回った。不思議と声は洩れなかった。狂いたい。狂わせて。もっと強く。まだ続けて。しかし狂えなかった。電流が止まった。もう止めるの、と不満に思いながらぐったりとなって和美は弛緩する。
「気絶できなかったな」
 男が言った。そうなのだ。もう失神する事も叶わないのだ。狂えない。死ねない。耐えられない。和美の首が、弱く縦に振られた。

「全て話す、いやキーボードを打つ気になったか?」
 はい、と小さいがしっかりと和美は頷いた。

 両手の拘束が解かれた。和美の上半身が、持ち上げられて引き起こされた。机の足に繋がれていた縄だけが解かれたのだろう。手首を締める縄はそのままだった。さっきと同じく掌が重ねられた合掌縛りで、背中で手首を拘束された。不自然な姿勢は、和美の腹筋と太股の筋肉をひきつらせ、肉離れするのではと思った。足と尻に不用意に入った力は和美の肛門から間の抜けた、しかしこれ以上ない屈辱的な音と共にガスを吹き出させた。
「もう大小便共に、何もない訳だな」
 腹に何もないせいだろう。殆ど臭いのないのが和美の唯一の救いだった。ここまで女の、人としてのプライドが、否定されるなんて…和美からは涙の一筋すらもう出る何物もなかった。和美の頭の中では、全てを吐露させられた後、自分はどうされるのかを考えていた。殺されるのか。今迄そう願っていたが、拷問に屈服した今、死にたくないと考えていた。どんな風でもいいから死にたくなかった。両の足首から縄が解かれた。同時だという事は、少なくとも二人はいるのだ。
 和美は机から下ろされた。すぐに手首が引き上げられて、頭が下がり、あの屈辱的な姿勢にされた。キーボードだろう、物が足元に置かれアイマスクが外された。思った通りキーボードがあった。
 和美は、質問にキーボードを右足の親指で、叩いて答えていった。

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