女麻薬捜査官和美
若光:作

■ 家畜編1

 和美は海洋を行く船の中にあった。アイマスクとギャグは相変わらずだった。ギャグは筒状の物に変わっていた。直径・長さともに四センチ位だろうか。和美の口は大きく割り拡げられ、それ自体苦痛だった。顔を上向きにするしかない為、唾液は垂らさずにすむ。だがその分飲み込み続けるしかない。垂れ流しの方が、余程楽だった。和美は移動便器に縛り着けられていた。両足は皮枷をはめられ、鎖で便器の後ろに括られていた。鎖は可能な限り短く引き絞られていた。両足は大きく割り拡げるしかない。両手はやはり皮枷がはめられ、一端前方で三十センチ程の鎖で繋がれ、そのまま首の後ろ迄回し込まれ、両足を繋ぐ鎖と繋がれた。身体の前で、鎖のジャラジャラという音を聞きながら緩めに拘束された時、和美はこんなに楽にしてもらえるのかと、喜びながら、まさかそんな甘い奴らの筈がないと思った。案の定だった。いくらなんでも体力が消耗しきらないようにと考えたのだろう、10センチ程度は手を動かせる余裕があった。手首が緊縛されていないので腕、そして上半身全体がある程度可動した。可動性の分、身体の凝りが防げた。しかし顔を常に上向け、背筋を大きく反らす姿勢は、苦痛だった。それ以上にこの上ない屈辱だったのは、乳房と性器とそれを覆うヘアの全てが晒される事だ。そして和美が真に屈辱と考えるのは……腋の下……乳房もアンダーヘアも性器も、もうむきだしが当然になっていた。今更その程度で羞恥やら屈辱やらをさほど覚える和美ではなかった。だが腋の下だ。和美は、脱毛剤でしか処理していなかった。親にもらった身体の、たとえ今日では恥ずかしいとされている物でも、永久脱毛で無くしてしまう事には抵抗があった。毛根だけは大事にしたかった。捕らえられてから何日経つのか?もう和美には正確にはわかりようがなかった。だが間違う筈のない積み重ねられた苦痛と恥辱の継続は、当然いくばくかの日々となって刻まれていよう。和美は脇毛自体を恥ずかしいとは思わなかった。しかし自らの意思とは関わりなく、勝手に伸びたろうそれを否応なく、自らが捕らえねばならない相手に捕らえられ、奴らに晒す。アンダーヘアより”恥毛”だと和美には思えた。
 口枷の穴から、おそらく日に二度なのだろうか? 粥状のドロドロの食物が流し込まれた。様々な食べ物を、多分ミキサーにかけ、煮込んだのではと推測した。塩だけしか味はなかった。便器の上での逆高手小手縛りは、なまじ緩めな故に、その苦しさと不自然な姿勢を少しでも楽にしたい和美の努力が、猛烈なエネルギー消費を和美に強いた。ウエスト部は、独自に鎖で便器に縛りつけられていた。粥には、充分なカロリーが含まれているのだろう。和美の体力はさほど衰えていなかった。未だ健康を保つ和美の消化器は、健康そのものの大小便を作り、排泄させた。アイマスクの和美には、洋式便器である以上、水洗と思えた。処理される事のない移動式便器には、和美の大小便と汗が、積もっていった。強烈な臭いが、一刻々々たまらない刺激を和美に強いた。「流してよ」和美は、給餌の度にわめいた。もとより言葉は口枷にくぐもり、意味をなさなかった。水洗と信じる和美は、無駄なくぐもった絶叫を繰り返すしかなかった。異臭は、刻々と増していった。”何故流してくれない
の”との疑問は持ちつつも和美は、ともかく便器に排泄できるのは、この船の上が最後なのだと耐え難さを増す異臭の中で、心に刻んでいた。給餌(和美には、正に”エサ”に思えた)する男に対し、その者が、あまりの臭いに咳込むのを聞きながら、なんで流してくれないのか? との疑問と共に、ともかく便器の中に排泄できるだけでさえ、幸せなのだと考えた。
 オリエンテーション……家畜とは何かについての……での説明が、和美に蘇ってきた。


 屈服し、アンダーヘアの先から滴れる汗を数えながらのキーボードを通した尋問が終わった後、許されたいくばくかの眠りから和美は目覚めた。拷問の時と比べ楽な拘束だった。皮枷で拘束された両手が真上にひきのばされ、真っ直ぐに立たせられていた。枷に繋いだ鎖が引き上げられ和美の身体が持ち上げられていく時、意識なき和美の全体重が、手首に掛かりそのちぎれんばかりの痛みに、ジャラジャラという鎖の音を聞きつつ、目覚めたのだった。鎖の高さは、足裏を床に着けられる程度だった。足にも皮枷が嵌められて、枷同士がつながれているのに和美は気付く。爪先立ちは許された。両手を伸ばしきれば手首もさほど痛まない。信じられない程に楽だった。ほっとした和美は、はっとして肛門に力を入れた。緊張が緩むとガスを出した記憶がよみがえったのだ。アイマスクはそのままだった。口の轡に違和感があった。ボール状ではない。口の中の奥迄、達していた。とにかく大きい。喉の奥迄空気が流れてきた。輪のような物かと想像した。顔を上に向かせ唾液の垂下を防ごうとした。
「水を飲ましてやる。もう限界だろう」唾液を飲み込んでいた和美の上を向いていた口に、水が流し込まれた。考えられる筈もない体勢での給水に、和美は最初激しくむせた。男は、和美が飲み易いように間を取りつつ、水を和美の口に入れた。ミネラルウォーター?まさか単なる水道水と、和美は思った。それでも美味過ぎた。大量の汗と唾液を強要された和美の身体は、水をいくらでも欲した。次いで白粥と思われる食物が、流し込まれた。この姿勢での摂取に、和美は早くも慣れた。子供の頃から、何事にも器用だった。コツをつかむのが、上手だった。自分の適応能力が恨めしくもあった。捕われてから何も食べていない和美には、単なる粥が本当に美味だった。
「これから、お前は家畜として扱われる。向こうでは言葉の問題があり、家畜としての取り扱われ方につき充分な説明が、できない事が考え得る。これから大体の事を教える。ところでうまかったろう。まともな物が、食えるのは、これが最後だ」

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