哀妹:芽衣
木暮香瑠:作

■ 二人だけの秘密1

 芽衣は、自分のベッドにうつ伏せて泣いていた。

 写真部の部室から逃れた芽衣は、校庭を横切って一目散に正門に向かって走った。レイプされるという恐怖から、一刻も早く逃れるために必死で走った。もう、スカートの裾が乱れるのも気にしなかった。校庭には、運動部の生徒たちが練習をしていたが、芽衣には、そんなことも気にしている余裕はなかった。気が付くと、家の前まで帰り着いていた。どのようにして帰ったか、覚えていない。足音が聞こえると、柴田たちが追っかけてきたのじゃあないかと脅えた。家の中に入り、玄関に鍵を掛け、やっと安心できた。

 犯されるのではないかという恐怖から開放された芽衣は、同級生に下着を見られたという恥辱が蘇ってきた。スケスケのランジェリーを見られてしまった。
(ああ、どうしよう。下着姿、見られてしまったわ。
 写真も撮られてる……。わたし……、どうすればいいの?)
 きっと、股間の翳り、乳輪や乳首まで透けて見えただろう。それを写真に撮られてしまった。
『犯っちゃうか』
『こんないやらしいパンティー履いてる娘なら、犯しちゃっても誰にも言わないんじゃない? きっと淫乱よ、この娘。SEX大好き女かもよ』
 写真部の部室での会話が蘇ってくる。
(いやっ、明日、写真で脅かされて……、犯されるかも。どうしよう……)
 恥ずかしい写真を撮られてしまっている。その写真をネタにセックスを迫られたら、自分にそれを断る勇気があるだろうか? 芽衣が断れば、柴田たちは、その写真をクラスメート全員に見せると言うだろう。
(いや、あんな写真をみんなに見られるなんて……。芽衣……、淫乱な女の子と思われちゃう……)
 その写真を見せない交換条件に迫られたら……、自分はどうするだろう。みんなに淫乱に思われるか……、柴田たちに犯されるか………。
(いや……、初めての人が柴田君たちになるなんて……、絶対いや……。
 クラスのみんなに……、写真を見られるのも……、いや……)
 どうなるのか、どうしていいのか分からないまま、芽衣の頭の中は混乱していた。

 そのとき、階下で物音がした。芽衣の中に不安感が蘇る。
(だっ、だれ……? 柴田君たち……?)
 足音が階段を上がってくる。
(襲いにきたの? 犯しにきたの? 一人でいるのを知って……)
 足音が、ドンドンと大きくなる。ついに2階に上がってきた。
(いやっ、犯される……。嬲られるわ……)
 芽衣の部屋の開けたままになっていたドアに人影が現れた。
「キャーーーー」
 芽衣は、悲鳴を上げてしまった。
「ど、どうしたんだ、芽衣……」
「お、おにいちゃん……。おにいちゃんだったの?」
 芽衣は、兄の桂の胸に飛び込んだ。
「どうしたんだ? 玄関に鍵がかかってたから、いないのかと思った……」
「ううん。何でのないの……。ちょっと不安になっただけ……」
 兄の顔を見上げた芽衣の眼には、涙が浮かんでいる。緊張感から開放されて、自然と涙が溢れてきた。
「芽衣、泣いてるのか? 何かあったのか」
「何もない……。ちょっと不安だっただけ……」
 芽衣は、不安の原因を桂に話すことは出来なかった。桂に心配を掛けたくない。芽衣は、眼を瞑って首を横に振った。

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