Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 終章

私立屋島学園高校―――ある4月の午後11時。学園の隣の小屋から音も立てずに人影が出てきた。そして校舎の壁伝いに歩き、それから中庭に出た。
屋島学園は文武両道の進学校だが、それだけに時々そのカリキュラムについてこれない者がいて、更には今まで頑張っていた反動からか悪さを始める者がいる―――。

「ああ、これだけあれば―――いいさ」
「じゃ、金はこれだけだ」
2人の男が取引をしていた。そして金を渡してブツを受け取った男が引き揚げ、バイクが置いてある所に向かう最中、何か物音を聞いたと思ったら、頭に強烈な衝撃を受け、そこで意識を失った。
「何だ?」
何時までもバイクが出発する音が聞こえて来ない上に、指笛の音を聞いた金を受け取った方の男は焦った。すると男は肩を叩かれた。男が振り向くと誰も居ない―――。

いや―――月の出ていない夜の闇にシルエットが浮かんでいた。その者は男の肩を叩いた後直ぐに間合いを空けていたので少し離れた場所に立っていた。身長は160cm代中盤だろうか?男より小柄でウエストのくびれとヒップの膨らみが女っぽく見えるがそれにしても随分とはっきり体のラインが見えると感じた。
「何だ?何の用だ?」
「……」
男の問いに影は答えなかった。男が携帯のライト機能をオンにしてその影に向けた時にはもうその場には居なかった。
「クソッ、誰だ!?」
男は叫び、影をもう一度確認すると今度は捕まえに行った。すると影は男が持っている携帯を弾き飛ばした。その弾き飛ばされた携帯が開き、昼白色のLEDライトが照らしたのは―――、
必要最小限の模様が描かれた薄い黄色のマスクをし、髪を後ろに束ねた後上にあげて髪留めでとめる髪型、そして肩―――そう。服は着て居なかった。その肩に掛かっているのは太さ7〜8mmの薄い水色の紐だけ、つまりブラジャーのストラップだった。男はそれ以上は目で追いきれなかった。携帯は地面に落ち、再び女の姿はシルエットになったから―――。

あの噂は本当だったのか?と男が思った瞬間、側頭部に強烈な一撃を受け、男の意識はそこで途切れた。
男2人を葬り去った女は指を尻にやり、人指し指をキュッと通して直した。つまり上半身だけでなく下半身も服は身に付けていなく、つけているのはブラジャーと同じ、水色の地に控えめな刺繍の模様と青い可愛いリボンの付いた、今指を通したサイド部分が細めの可愛いパンティだけだった。そう、この女こそが夜の学園の安全を守る第10代目のミッドナイトハンター『クロッチ』こと宮原葵だった―――。

「見られちゃったかなぁ……」
葵は暗闇の中マスクの下で顔を赤らめ恥ずかしがった。しかしすぐに思い直し、指笛を吹いた。するとピエロの格好をした男が直ぐに来てがんじからめにした1人目の男を担いだまま、
「今日は2人か。網張ってたら掛ったな」
と言った。葵は、
「そうですね。―――でも、見られたかも」
と言った。ピエロは葵の言ったことは理解した。見られるのはある意味構わない。ならないのは正体を知られる事なのである。
「リボンは初代も2代目も見られてはいるさ」
と言った。葵は、
「はい」
と言った後、もう一度今度はパンティのリボンが付いた前側からサイドに掛けてを親指を軽く通してクイッと直した後、
「その2人、お願いします。私は裏庭見ますから……」
と言って背を向けた。ピエロには僅かに葵は暗闇の中のシルエットながらブラジャーとパンティの姿なのは分かる―――。それを見てピエロは、
「解った―――。ところで……楽しそうだね」
と言うと葵は顔だけ振り向いて、
「はいっ」
とマスクの中で笑顔で返事をしてから、闇の中へ消えていった―――。もう既に立派なミッドナイトハンターだった。

Midnight Hunter 完

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