緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第四話5

二週間前───自宅で受験勉強していたが、流石に何時間もやっていると頭が疲れて来る。長方形眼鏡に短髪を綺麗に真ん中で分け、鋭い目付きで東大・京大対策と書かれた参考書と格闘していた男子───萬田友近は、少しばかり休憩と参考書を閉じて伸びをした。
「九割か、まずまずだな」
と言いながらも満足していない様子だった。その時携帯電話に着信があった。
「はい、萬田です」
友近が電話に出ると懐かしい声が聞こえてきた。友近は暫くその声と話していた。
「しかし、分からないものだな───君が学校辞めてるなんて。青山さんが、なんていったらみんな大騒ぎになるぞ」
友近は言った。そう、彼が話していたのは遥だった。
「ああ、分かった。明日なら空いてるよ。来てOkだ」
友近はそう答えて電話を切った。

青山遥は高校を辞めたのではないか、そういった噂は友近にも届いていた。同窓会のホームページがあり、そこは会員制でだれでも見られるホームページでは無いのだが、そこの掲示板に時々、青山遥を目撃した、という情報があった。
遥は中学生時代優秀な生徒で、県外の公立進学校に単身で進学した。単に公立の進学校に行きたいだけであるなら、大体自治体の名前が付いている高校は進学校と相場は決まっているので、進学校狙いで市外処か県外の公立に行くというのは有名私立に行くよりもインパクトがあり、それでみんなに見送られた程だった。
そんな遥が退学をして此方に帰って来て時々ブラブラしているとか、隣町のコンビニでバイトをしている所を見たとか、そういう噂が一年半前、高校一年の秋位からチラホラと出ていた、という事だった───。
遥本人から電話が掛って来た事には驚いたが、噂の事を思い切って聞いてみたら遥は即答で肯定した。
「彼女に何があったのか、聞ける範囲でだけでも聞いておくのも悪くない」
友近は眼鏡を人指し指であげる動作をして呟いた。


次の日、約束の時間に遥は来た。遥が友近の母に挨拶すると、
「まあ、こんなに可愛い彼女をいつの間に───」
とからかった。友近は、
「いや、彼女じゃないから」
とあくまでもクールに答えていた。遥はそのやり取りを笑顔で聞いていたが、心の中では、
「ごめんね、萬田君───。私は萬田君に好かれてたとしても、彼女の資格はないんだよ……」
と思っていた。遥が今一番欲しいもの───それは小夜子とそのグループ全員の自宅の位置であり、勿論その中には真由羅も含まれた。それは遥の力で調べるのは不可能だった。
今そうやって一人ずつ探っていたら時間が掛る上万が一、青山遥が探りを入れているなんて小夜子に気付かれたら、どれだけ居るか分からない仲間を使って叩きのめされるかもしれない。少なくとも行動を実行に移すまではあの高校の近辺には不用意に近付く事は出来なかった。
もう一つは、裏サイトというものが存在するのか───もしあるのだとすればかつて自分がやられていた事も残っている筈だった。真由羅が言っていた。
「写真撮ってたから」
と───。その写真をネットにアップして皆で楽しんでる可能性は充分にあった。
最後に知りたいのは、今でもいじめの犠牲者は出ているのか、という事だった。

これらの事を調べるなら、萬田友近以外には頼めない。遥はそう思い昨日友近に電話を掛けたのだった。
友近は自分の部屋に遥を案内した。友近が先を歩き遥は後ろをついて行った。友近より遥の方が背が高かった。友近は160台前半で小柄な部類だった。遥を部屋に入れるとお茶を入れて出した。
「召し上がれ。僕はこういう時に女性に何を出せばいいか分からないが気にしないでくれ」
と言った。遥は、
「ありがとう」
と笑顔を見せた───。

「いきなり本題だけど───調べて欲しいの」
遥はお茶を半分程飲んだ所で話を切り出した。内容はかつて一ヶ月だけ通った高校の、いや、正確にいうと、その高校の裏サイトと新潟小夜子達の現状だった。
「その人達を調べる───という事は、君はいじめか何かで退学したって事でいいんだね」
友近は念押しをした。こういうところはズバズバ聞いてくる。あまり根掘り葉掘り聞いて欲しい事では無かったが、頼む内容が内容なので話さない訳にはいかなかった。遥は頷き、
「ごめんね、こんな事頼んで。でも───どうしても……」
と言ったが言葉が詰まった。どうしてもその先『許せなくて』が言えなかった。言ってしまえば自分がこれからやろうとしているのは暴力事件であり、最後まで言い切れば、友近を巻き込む───まあ既に頼んでる時点で巻き込んでいる訳だが、まだその言葉を言わない分、友近は暴力の片棒を担いだ事に対する言い逃れは出来る余地はあった。
「解った───丁度退屈していた所だ。調べよう」
しかし友近は快諾した。そして直ぐにパソコンの電源を入れてインターネットに繋ぐと同時に別のソフトを起動してキーボードを叩き始めた。
そして画面には何個も窓が出る───。そこの窓の一つを選択してエンターキーを叩いた。するとプログラムが起動し、プロテクトが掛っていて入れない筈のあるホームページに入った。これが遥が通っていた高校の裏サイト───。トップは表のサイトとほぼ同じつくりで、恐らくコピー改変したのだろう。
「この手のサイトを立ち上げる奴は、どうしてセキュリティが甘いんだろうね」
友近は言った。甘いと言ってる割にはいくつも窓を開いてプログラムを走らせていたが、そういった手間の事を言ってるのでは無いのだろうと遥は思った。
そして後は普通のホームページと同じ様に閲覧すればいいだけ───。メニューから色々なページに飛べるので遥は、
「ギャラリーへ……」
と言った。少し指が震えている様だった。

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