緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第四話15

遥はボブカットの髪をグシャグシャに乱し、その髪に隠れて表情は見えなかったが口からは一筋のよだれを流していた───つまり気絶していたのだが、希美に太股を蹴られて飛び起きた。
「す、済みません」
遥は口元を拭い、足を前に投げ出したまま後ろ手を着き、
「やっぱり、全然敵わないですね……」
と呟いた後、フラフラとゆっくりと立ち上がって、
「ありがとうございました」
と深々と礼をした。希美はそれに合わせて自分も礼をした後、
「真由羅さんの所に行くわよ」
と言った。しかし、遥は服を拾って胸を隠す様に前で持った後顔を赤くしながら首を振り、視線を斜め下に落とした。
「先に……行ってて下さい……」
遥はボソッと言った後服を持ったまま川の方へ走った───当然桜流の教え通りに音を立てずに風の様に。

遥が来たのは河原より少しばかり上流に行った草むらの中、とはいっても何故か人が一人だけ入って寝転がれるスペースが有り、遥はそこに座った後隣に服を置いた。
「……ふぅ」
遥は顔を赤くしたまま一息ついた。そして漸く自分が自由になれた事を心の底から実感として湧いてくるのを感じた。それと同時に、左手を左の乳房の上に乗せた。

真由羅は小屋から出て口をゆすぐ為川の流れている所まで来た。ここの水は飲むのに充分に綺麗な水なので飲んでも大丈夫です、と書き置きがあったので口に含んだ。その時川上の方から何か聴こえて来たので気になった。
「……」
真由羅は口をゆすいだ後、ゆっくりと立ち上がった。普段は全く気にならない事だったのかもしれなかったが、さっき希美と霞姉妹を見るまではここに来てからずっと独りだったので聴こえてきたものが人の声に感じられた。それは風が草木に吹き付ける時に発する単なる振動かも知れなかったが───。

遥は服を横の草むらの上に置き人一人入れる位の草の無い所に腰を下ろした。そして左手を乳房に当てがいゆっくりと円を描く様に優しく刺激した。
「……」

真由羅は河原の石に足を取られ乍も、ゆっくりと川沿いに上流に向かった。そういえば自分が寝ている時に小屋の外でガシャガシャと石が鳴る音が聴こえたかも知れないしそれ自体夢のなかのワンシーンだったのかも知れないとの多少の混乱も抱えていた。
誰にも会っていないから何かの音を聞く度に誰かがそこにいて何やらやっているのでは───?と考えていた。


手が股間に伸びた。そして目標をしっかりと捕えると指先で前後に擦った。
「ん……あっ……」
遥は声を上げていた。指先にはネットリとした感覚が伝わって来た。あの日と同じ様に愛液が少しずつパンティを濡らし、染みとなって広がりそれが指に絡まった───。
いや、同じでは無い。決定的に違った。見世物として絶望感にうちひしがれ乍も、体だけ快感をむさぼったとは違う。今の遥はそれらから解放された快感───。実はその快感は今に始まった事では無かった。
「全ては自然な事よ……」
かつて希美が霞を叩きのめした時パンティを濡らしていた事を思い出した。遥は濡らす───までは行かなかったが小夜子を追い掛け叩きのめしていた時、それに近い感覚に支配されていた。

ヒトヲタタキノメスノハ───キモチイイ

そういう意味では小夜子が自分や真由羅、そして和歌子等をいじめて壊してしまう事も理解できた気がした。方法が違うだけでやってる事そのものは同じ事だったから。
この忍術には倫理も誇りも無い───ただ有るのは、相手を効率良く潰す事だけである。もっとも昔は暗殺等を生業にしていたのだから忍術とはそういうものなのかもしれない。いや、だからこそ誇りを持っているのかもしれなかった。どちらにせよ、今の遥にとってはそんな事はどうでもよかった───。
「ん……あっ、ああ……っ」
遥の右手はパンティの上からマ○コをいじっていたが、手を離したと思ったら今度はパンティの中に突っ込んだ。陰毛を掻き分けてクリトリスに到達し、撫でる様にいじるとその快感に、
「あ………………っっ!!」
と鋭い声を出すと同時に腰が跳ねた。それから左手も乳首から腰を伝って股間へ伸びた。パンティの中で動く右手をパンティの上からそっと沿えた。

今の声は真由羅に届いた。
「あ……青山……さん?」
真由羅は呟いた。真由羅は遥の普通に話す声、笑い声、苦しそうな声、それだけでなくあえぎ声も知っていた。小夜子の傍でずっと遥を監視していたのだから当然だった。
真由羅は先を急いだ。何故こんな山奥で遥はあえぎ声を出しているのか、いや、声は結果に過ぎない。何故オナニーなどしているのか───?と思った。ここにはそれを強制する人間など居ない筈なのに───と思った。
しかし今はそんな事より兎に角遥に会いたい。自分を救ってくれた遥と話がしたい───。そう思い乍ら前へ進んだ。遥の様に常に自然の中で鍛え続けた訳では無かった真由羅は河原を進むのは楽では無く、息を切らせていた。

そして河原は終わった───。

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