右手の中指
田蛇bTack:作

■ 8

ジャージにすっぴん、足には突っかけサンダル。
こんな残念ないでたちで私は警察署にいる。時刻は2時をまわっていた。こんな年して言うのもなんだけど、オバケがでそうな時間だ…。

「パパ、なにしたの?」

一向に面会をさせてくれないので、とうとう私は問い詰めてしまった。
警察官は一瞬他の警察官に目くばせして、困惑した表情で私に信じられないことを言った。

「あなたのパパにね、人を殺したっていう疑惑があるんだ。」

夢だと信じて疑わなかった。いや、わかっていたけど、夢だと信じれば、夢で済む気がして、必死に夢だと思い込もうとした。

2時半…3時……5時…6時。
だけどこの夢はさめることなく、時間は経過して、朝がやってきた。
体が冷たい。どうしてこんなことになったんだろう。

パパは、やさしい人だ。血がつながっていない私を、こんなにもかわいがってくれた人だ。そんな人が、人を殺すわけな……

ゆっくりと考えていると、少し気になることが頭によぎった。

それは、あのパパの不思議な目だ。
タケシが私を襲った時と、同じ、目。

強姦にしろ、殺人にしろ、襲うのは同じ。だからきっと……。

パパは、誰かを殺したんだ…。
このとき私は、確実何かを悟った。



結論から言うと、パパは罪を認めた。
殺したのは、なんとパパの子供だった。つまり、血がつながっていない、私のお姉さん…。殺人動機などは、まだ聞かされていない。

「殺してから、遺体を冷凍庫にしまっていたようですね。数か月たった今も保存状態は極めて良好。」

人間は、死んでしまえば標本のような扱いをうけるらしい。「保存」? ひどい表現だと思う。

姉の葬式は、パパの元奥さんの親戚のみで開かれると聞いた。
だけど私はどうしても姉の顔を見たかった。
警察官に頼んだが、写真ひとつみせてくれなかったからである。

「斯波家 葬儀場」
斯波家の人たちが、黒い喪服に身を包む。生前の彼女の友達か、大勢の若い女の人が集まっていた。
それ以上にマスコミの数に驚いたのだけど…。

「女子高生殺人事件」「父は実の娘をレイプした後に殺人か!?」
「冷凍室の中の娘を愛でた鬼畜父親」
そういえば事件発覚後、週刊誌にあることないこと、書かれていた。
パパは純粋に殺しただけだと私は思っているのだけど…。

私は姉の友達のフリをして、葬儀場に紛れ込んだ。
せめて…せめてお焼香だけでもさせてほしい。

必死な願いは、神様に届いたらしい。すんなりお焼香ができた。
しかし、その姉の顔を見たとき、私の顔は凍りついた。


姉の顔は

月に宿ったあの男とも女ともとれる美しい顔の主だったのだ。



おわり。


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