悪魔のメール
木暮香瑠:作

■ 最後の命令6

 その時、ステージと音楽教室を隔てていた黒いカーテンが、突然開かれた。床に倒れた美樹を男子たちが見つめている。犯人は一人だと思っていた美樹は、見つめる十数個の目に驚いた。
「い、いやあああーーー。み、見ないで………」
 美樹は、床に蹲ったまま身体を丸くした。胸を隠すように両手で胸を覆い、膝を折り背中を丸くして股間を隠した。隠し切れない肉球が、二の腕に押され、プニュッとはみ出ている。肉付きのいいプックリとした丸いお尻は隠しようが無く、みんなの視線を浴びている。
「見ないで、見ないでください。恥かしい……」
「何言ってんだ。見てくれってメール送ってきたくせに」
「まさか変態女が美樹だったとはな。驚いたぜ!」
(えっ、なに?なに?)
 美樹は驚いて、見つめる男子たちを見上げた。
「いい物を見せてもらったな。見られて感じる変態女が巨乳の美樹ちゃんだったとは……、その胸、触らせてくれよ」
「見られながら、みんなに触られるともっと感じるんじゃない? 変態女の美樹ちゃん」
「えっ、わっ、わたし……、変態女じゃない! さ、触らないで……」
(ど、どうして?……、みんなが犯人じゃないの?)
 美樹のことを変態女と決め付けるクラスメートに、美樹は戸惑った。
「何言ってんだ。オナニーを見てくれって、メール送っておいて……」
「ち、違うわ……、わ、わたし……」
 美樹は、戸惑いながらも反論しようとするが、クラスメートの声に遮られる。
「見られながら、こんなに床まで濡らしちゃって。本当に変態だな」
 美樹は、床に視線を落とした。
(濡れてる……、床がこんなに……)
 床には、驚くほどの愛液が染みを作っている。
「胸なんか、プルンプルンさせちゃってよ。体育の授業でも、乳首立ててたじゃないか」
「あの時から、美樹が怪しいと思ってたんだよな。恥かしげも無くノーブラで胸、揺らしてたから……、見られながら感じてたみたいだったし……」
『変態女捜索隊』のメンバー達の言葉に美樹は反論することが出来なかった。

 美樹の言葉を失わすのに決定的だったのは、恋人である博史の言葉だった。
「最低な女だな、美樹は……。みんなに見られて気をやるなんて……。濡らすなんて……。最低だよ」
 博史は、軽蔑の眼差しを美樹に投げかけ、履き捨てるように言った。
(違うの……、違うのよ……、信じて……)
 信じて欲しい美樹は、博史に切ない眼差しを投げかける。しかし、博史は、その訴えかける眼差しを無視し、プイッと横を向く。美樹は、博史の後ろから覗いている由布子に虚ろな視線を向けた。助けを求めるような視線を、かばってくれる事を信じて由布子を見つめた。
「やだ、美樹ってこんな娘だったの? 信じられない……。最低……」
 由布子も、軽蔑の視線を美樹に返し、言い放った。その唇の端が僅かに微笑んだ。
(由布子……。私を信じてくれないの? わたし、変態なんかじゃないのに……)
 恋人にも、友人にも信じてもらえない失意の美樹を無視するように、由布子は博史に寄り添い、彼の腕を抱えるように抱きついた。
「クラスにこんな変態がいたなんて……、信じられない。やだあ……」
 博史の腕に抱きついた由布子が、甘えるよな声で言う。
(美樹、ごめんね。これで、博史君は美樹のことを嫌いになったみたい。私にチャンスが来たわ。私も博史君のこと好きになったの。このチャンスは逃さないわ。チャンスは自分で作るものなの。美樹には悪いけど……)
 由布子は、博史の肩越しに、美樹に微笑を返した。

≪完≫


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