夢魔
MIN:作

■ 第4章 主人12

 稔に嘲るような笑みを見せ、狂は個室の入り口に座り込み、下から睨め上げるように、沙希の裸身を値踏みして
「でけぇ乳だな…お前こんな所で、素っ裸晒して恥ずかしくねえのか…」
 片方の頬を吊り上げ、笑いながら沙希に言った。
 沙希は震える声で
「こうして無くちゃ…大切な方が、向かえに来てくれないもん…約束だから…命令だから…こうして、なくちゃいけ無いの…」
 狂に答える。
「へへへっ…オ○ンコもパックリ口を開けて、ヒクヒクしてるぜ…お前よっぽどの淫乱なんだな…」
 狂が下卑た笑いを浮かべ、沙希に告げると
「違うもん…沙希…淫乱じゃない…約束だから…してるだけ…本当は、凄く恥ずかしい…」
 沙希の言葉を聞いて、稔の眉が跳ね上がる。
(おかしい…この反応は、植え付けていない…言葉も態度も違う…)
 稔の身体が、壁から離れ個室に近付きかけると
「嘘付け…お前は、淫乱なマゾだろ…こうしているのが、大好きな筈だ…」
 狂が沙希に言葉を投げかける。

 稔が狂を止めようとした時には、既に遅かった。
 沙希に掛けていた、暗示が暴走を始める。
「ち、違う…違う…違う、違う。違う! 私はマゾなんかじゃない…私は淫乱なんかじゃないわ!」
 頭を強く左右に振り、狂の言葉を否定する。
 沙希の変化に狂は驚き、言葉を掛けようとする。
 しかし、その言葉が出る前に、狂は稔が背中を預けていた、背後の壁に張り付いていた。
 稔が狂の襟首を持ち、後ろに向け強く引いて転がし、それと入れ替えに、今まで狂の居た場所にしゃがみ込んで
「そうです…沙希は、淫乱じゃない…マゾでもないよ…大丈夫…落ち着いて…大切な方が来なくなるよ…」
 稔が落ち着いた声で、静かに優しく語りかける。
 すると、沙希の興奮が収まり、泣きじゃくりながら
「違うもん…沙希…淫乱じゃないもん…マゾじゃないもん…」
 小さな声でブツブツと、呟き始める。
 稔は沙希の表情を見ながら、その変化を伺い
(不味いな…暗示が吹き飛んでる…このままじゃ、沙希の調整は失敗してしまう…)
 稔が沙希の摺り合わせ方を考え始めた時、稔の後ろから、低く落ち着いた声で
「そうだ…沙希は約束してここに居るだけだ…沙希は、淫乱なんかじゃない…約束を必ず守る…とても良い子だ…」
 一人の男子生徒が、声を掛ける。
 その言葉を聞いて、沙希は途端に安定を取り戻し、またトランス状態に戻った。

 稔はその声を聞き、ユックリと振り返りながら
「帰って来てたの…僕はてっきり明日だと思っていたのに…お帰り遠征はどうでした?」
 稔の後ろに佇む、大男に声を掛ける。
「この国に、俺の相手が出来る、アマチュア選手なんて居ませんよ…。片手間で充分足りました…」
 大男は、頭をボリボリと掻きながら、はにかんだ微笑みを稔に向け、明るく話した。
 その男子生徒に、後ろから一生懸命、狂が蹴りとパンチを当て
「木偶! 邪魔だどけよ! 稔、何しやがるんだ! もう少しで、その女のケリが、付く所だったのに!」
 怒鳴りまくっている。
「ああ…結果は出そうでしたよ…この2ヶ月の下準備が、全て台無しになるような、結果がね…」
 稔は全ての表情を刮ぎ落として、全くの無表情で狂を見詰める。
 狂はそれでも、稔に掴み掛かろうとして、大男の身体を回り込もうとする。
 それを、大男は僅かに姿勢を変えるだけで、阻止しながら
「まあ、まあ、…二人とも止めて下さい…。お二人の喧嘩は、俺には辛いだけですから…お願いします…」
 大男が、稔と狂の争いを止めた。

 大男の名前は、垣内 庵(かきうち いおり)と言う、身長185p95sの鍛え上げた巨躯の持ち主で、幼少より実母に性的虐待を受け、無痛症になるも、その変わりに得た触覚の鋭敏化と、空間把握能力の特化と、身体操作能力の正確さにより、精密機械並みの工作や体術を得意とし、道具の開発と侵入に長けた現代の忍者である。
 庵は有る理由により、稔と狂に深い尊敬と従属の心を持っている。
 そのため、二人が争う姿をとても嫌っていた。
「もう、お二方とも止めて下さい…昔のようにとは、言いませんから、少しは仲良くお願いします」
 庵がそう言うと、狂はふてくされ、稔が言葉を掛ける。
「僕は怒っても居ませんし、何の遺恨もありません…ただ、狂が僕のテリトリーを踏み荒らすのは、効率が悪いと言っているだけです」
 稔の言葉に、ふてくされていた狂が
「へっ、お前みたいな感情のない化け物が、リーダー面してるのがムカ付くんだよ! 俺は!」
 吐き捨てるように、言うと
「だったら、好きなように出て行けば、良いじゃないですか…私は別に狂がここに居なくても、この計画は出来ると思っています」
 稔が狂に、自分の考えを言った。
 狂が稔に言い返そうとした時、庵が沙希を指さし
「稔さん…不味いんじゃないですか…あれ…」
 稔に話しかける。

 稔が沙希に、視線を向けると、沙希の瞳に意識が芽生え始めていた。
(この格好で、目覚めるのは不味い…どうする…)
 ほんの一瞬稔は考え、庵に視線を向けると
「庵。仕方ない…」
 短く、言った。
 庵は稔の言葉に頷くと同時に、その拳を沙希の鳩尾に軽く当てる。
 沙希は庵の当て身で、あっけなく昏倒する。
 稔と庵が沙希の下着と制服を着せ、男子トイレから出し、2階の階段室まで運ぶ。
 稔達は沙希を囲み、階段室でこの後の処置を考える。
「目覚めた時に、意識が混濁している筈だから、ここで倒れた事にする。そこから先は状況に合わせてだ…」
 稔がそう説明すると、狂がフッと鼻で笑って
「行き当たりばったりのゴリ押しかよ…心理学者が笑わせる…」
 稔を揶揄する。
 稔の表情が、スッと仮面のように無表情になると
「解りました…じゃあ、取り敢えずこの女が、目が覚めてからの事ですね…」
 庵が慌てて、言葉をかぶせる。
 稔が庵に頷くと、狂はそっぽを向いた。

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