夢魔
MIN:作

■ 第6章 陥落(弥生・梓・沙希)4

 沙希は稔の無表情が、自分に対する拒絶に感じてしまい、次の言葉を飲み込み、打ち拉がれる。
(やっぱり…駄目なんだ…稔君も私を愛しては、呉れないんだ…義父と同じ…身体だけなんだ…)
 沙希は自分の過去の記憶に襲われ、息を飲み身体を震わせ始める。
 稔はそんな沙希を見詰め、沙希のパーソナルデーターを思い浮かべる。
 前田沙希は、小学生の頃からテニスを始め、中学時代は全中3位の好成績を収めるが、家庭の事情から高校では、継続が断念させられていた。
 両親は幼少の時に離婚しており、沙希は母親に引き取られていたが、中学校1年の時に母が再婚して、その再婚相手が沙希のテニス継続を疎ましく感じていたようだ。
 中学3年生の時、母親が変死と呼べるような事故に遭い、沙希の身の回りはガラリと変わった。
 沙希自身高校への進学すら、絶望視していたのだが、この学校から特待生として声が掛かり、学費寮費の免除を条件で入学した。
(全く不自然すぎるデーターですね…理事長の強引すぎる、やり方が手に取るように解る…)
 稔は沙希のデーターを思い浮かべながら、大きな溜息を一つ吐く。

 稔は沙希の頭に手を置いて、軽く撫でると
「沙希…僕の話を聞くかい…君も、かなり波乱に満ちた経験をしてきただろうけど…僕達もそれなりに、茨の道を歩いて居るんだ…奴隷に成った君になら、話しても構わないと思う…」
 静かに沙希に問い掛ける。
 沙希はビクリと震え、恐る恐る稔の顔を見詰めると、涙の浮いた顔をコクリと倒して頷いた。
 そして、稔はその口から、自分の出生から生い立ち、今に至るまでを沙希に話した。
「こんな具合だから、僕には感情が解らないんだ…正確に言えば、感情を表す理由が分からない…。僕はそれを探して居るんだ…」
 稔がそこまで話した時、沙希は突然泣きだし、稔の身体をぶった
「何で…何でそんな嘘を吐くのよ…私の事が…私の身体が目当てなら、そう言えば良いじゃない…私は、あんた達の奴隷に成ったのよ…そんな嘘で、誤魔化す必要ないじゃない!」
 沙希は稔に縋り付き、叩きながら慟哭を漏らす。

 そこに、別の声が響いて、沙希の動きを止める。
「嘘だったら、こんなに楽なこたぁ〜ねぇよ…こいつの言った事は、全部本当さ…こいつの、生みの親は化学室にある、フラスコと同じようなもんだ…。何たって、俺はこいつと9歳の頃から一緒に生活してるから、こいつの事は誰よりも良く知っている…」
 狂がフラフラと沙希の視界に入ってくる。
「どうしたんですか狂…、私はまだ、当初の目的を果たしていませんよ…」
 稔は後ろの狂に、背中越しに言葉を掛ける。
「ケッ! おめぇが遅いから、様子を見に来てやったんだろ…偉そうに言うんじゃねぇ…。どのみち、お前の説明じゃ誰も納得しねぇよ!」
 狂は吐き捨てるように言うと、沙希に向き直り
「庵のチ○ポは見たな…あいつが俺らの所に来たのは、11歳だった…それまで、さんざん実の母親にいびられてた…」
 沙希はテニスコートで見た、庵の身体を思い出し、ブルリと身体を震わせる。
「俺はよ…これでも、良い所の坊ちゃんなんだ…親父もお袋も、音楽家で名が通ってた…そんな家庭で、毎日音楽付けにあって、純がキレちまってな…純の頭ん中に俺が出てきた…そしたら俺の親は、稔の養父に俺を預けて好き放題さ…今じゃ何処に居るのかも、解らねぇよ…」
 狂は肩を竦めて、沙希にそこまで言うと、ジッと実の背中を見詰める。

「俺達も相当イカれた人生送ってるけどよ…こいつの、背負ってるモンは俺でも別物だって解る…。まぁ、何はどうアレこいつが言った事は、本当の事だってのは、保証してやる…じゃなきゃ、こんな変な人間が説明できねぇからな」
 狂は稔の身体をポンポンと叩きながら、沙希の視界から外れ始める。
「僕の携帯を持って…、何処へ行くんです…」
 稔が狂に問い掛けると
「俺は別のオモチャで遊ぶよ…これがなけりゃ、始まらないんでな…。お前は好きにしろや…」
 そう言って稔のポケットから抜き取った、携帯電話をプラプラと振って、扉を開いて便所から出て行った。
 稔は扉が閉まるのを確認すると
「そう言うわけです…だから僕には、人の感情を理解する事が、出来ないんです…。だから、あの時君と付き合う事を、承諾出来なかった…。こんな僕を、人として見てくれますか…?」
 稔の問い掛けに、沙希は固まったまま動けないで居た。

 黙り込む沙希に、稔は肩を落とし視線を外して、立ち去ろうとする。
(そんなの…分かんないよ…どうして良いか…分かんない…稔君が抱えてる事なんか………分かんない…)
 沙希の頭の中に、自分自身ですら理解できない感情が、沸き上がり、立ち去ろうとする稔を見詰める。
 そんな沙希の目の端に、小麦色に焼けた腕が映り込み、稔の服の裾を掴む。
 そして、聞き慣れた声が、稔を呼び止める。
「柳井君…沙希の事…好き…?」
 沙希の言葉に、稔は動きを止め、視線を外したまま、静かに答える。
「僕にはその答えを、出す事が出来ないんだ…。どう答えれば良いかは…解るよ…でもそれは、多分君の望む意味では無いと思う…」
 稔の答えに、沙希は項垂れて更に問い掛ける。
「じゃぁ…柳井君は、どうして私にこんな事するの…」
 消え入りそうな沙希の声に、稔は暫く考えると
「僕が選んだ訳じゃないけど…多分、こうなる事は必然だったんだと思う…」
 沙希は驚いた表情で、顔を上げると
「ど、どうして…そんな事が言えるの…何でそんな事が、解るのよ…」
 稔に食って掛かる。

 稔は沙希に向き直り、メガネを外して沙希の瞳を覗き込み
「だって、沙希は僕の目を見詰めて…感じただろ…。そして、逃げられなかった…」
 静かにユックリと、告げた。
 稔の切れ長の鋭い視線が、沙希を射抜くと、沙希は息を飲んで動きを止める。
「サディストはマゾヒストを見ると、解るんだ…。ううん、マゾヒストが反応するって、言った方が良いのかな…」
 稔の言葉通り、沙希の身体は反応を示す。
 乳首が固く立ち始め、オ○ンコがヒクヒクとうごめき始める。
 沙希は真っ赤な顔をして、身体を隠すが視線を稔から外す事が出来ないでいる。
(や、やだ…嘘でしょ…目線が外せない…身体が…ゾクゾクする…)
 沙希は狼狽えながらも、反応する身体を、必死に止めようとする。
「駄目だよ…意志ではどうにも成らない…もっと深い所からの、声だから…」
 沙希の瞳を見詰め、その心の動きを悟ったように、静かに稔が語りかけると、沙希の力が抜けた。

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