夢魔
MIN:作

■ 第8章 隷属(美紀)1

「美紀ー。朝よ〜もう起きなさ〜い」
 階下から呼ぶ母親の声に、制服に着替えている最中の美紀が返事を返す。
「は〜い、今降りる〜。ちょっと待って〜」
 美紀が明るい声で、答える足下には、愛液で汚れた下着が丸まっていた。
(だんだん酷くなってる…。今日も柳井君は、お休みなのかな…、早く聞かなきゃ…)
 明るい声で返事をした表面とは裏腹に、美紀の心は焦りに染まっている。
 鞄を手に取り、タンタンと勢いよく階段を駆け下りる美紀は、元気なのでは無く、早く学校に行って、稔の登校を確かめたかったのだ。
「もう、遅いわよ…お姉ちゃんは、10分も前に出て行ったわよ」
 深夜勤を終え、自宅に戻った梓は、朝ご飯を造り、娘達を起こすいつもの行動を取っていた。
 食堂に降りて来た美紀が、入り口で梓を見詰め、驚きで固まっている。
「マ、ママ…どうしたの…? 何か有ったの?」
 美紀が梓の顔を見詰め、驚きの声で梓に問い掛けた。
「えっ? なに? どうしたの、美香もさっき変な事聞いて来たけど、別に何もないわよ」
 梓はニコニコと微笑みながら、美紀に答える。

 美紀は食堂の入り口で、固まったままマジマジと、梓の足下から頭の先まで、首を上下させて見詰めた。
「何してるの、ご飯冷めちゃうわよ…、早く食べなさい」
 梓はニッコリと微笑むと、美紀を促す。
 美紀は一昨日の朝会った、自分の母親と記憶の中で見比べて、目の前にいる豹変してしまった母親に、驚いていた。
「ママ、何か良い事有ったの…ううん…そんな問題じゃない…。スッゴク綺麗よ…今日のママ…」
 美紀は目を丸くして、梓に素直な感想を告げた。
「フフフッ…、そんな事言っても、何も上げないわよ。ただ、スッゴク良い事は有ったわ…」
 梓は悪戯っぽく笑うと、美紀にウインクする。
 その表情を見詰めて
(ママ…スッゴク綺麗になってる…どうしたの? まさか、柏木のおじさまと…良い事有ったの…)
 梓の恋人の顔を思い浮かべて、ドキドキする。
 美紀は梓が同僚の、柏木と恋愛関係にある事を、目撃していた。
 それは、遅くなった学校の帰りに、偶然見かけたモノだった。
 それ以来美紀だけは、自分の母親が現役の女である事を知り、自分も性に対して深い関心がある事を認識した。
 それが、美紀の淫夢に対する順応性を示したのは、後に解る事になる。

 朝食を取って出かける美紀は、母親の変貌に驚きながらも、通学路を足早に急いだ。
 クラスについて、美紀はその雰囲気の騒然さに、戸惑った。
 ザワザワとクラスが騒がしく、大きな驚きの声が、響いている。
 その輪の中心にいるのは、郊外のファミレスのウエイトレスだった。
「ホントだって…凄かったんだから、変態って居るのよねぇ〜。最後なんて、テーブルの上に乗って、オシッコして。それを舐めちゃうんだから〜」
 絵美は昨日の夜、アルバイト先で見た変態女の露出プレーを、クラスのみんなに面白可笑しく、吹聴していた。
「あーん、もう、早く柳井君来ないかな〜。彼も、たまたまその店に居て、最初からずっと見てたんだから」
 美紀は思わず、自分の待ちわびる名前を聞いて、ドキリとその輪の方を振り返る。
 するとその時、偶然絵美と視線が合わさり、絵美はニヤリと微笑んで
「あら、森川さん貴女も、こんな話に興味があるの? まぁ私達の年頃なら、当たり前よねぇ〜。ねぇ、詳しく教えましょうか」
 軽い口調で、輪の中から飛び出し、美紀の元へやって来る。

 西川絵美(にしかわ えみ)は、文化系の特待生で、その類い希な色彩感覚で描く絵画は、高校生のレベルを遙かに超え、何度も大きな選考会で賞を獲得している。
 学校側は年4回の受賞で、学費や画材代を、一切免除するという破格の待遇を、彼女に与えていた。
 大きな少し吊り上がった目が特徴的で、見た目は気が強い子供のような印象を与えるが、その実は面倒見が良く、姉御肌でみんなから頼りにされる、クラスの人気者で、身長は148pと小柄だが、スリーサイズはB82W55H79で体重41sと申し分ない身体の持ち主だった。

 美紀は、勢いよく寄って来た絵美に、曖昧な笑みを向けて
「う、ううん…あんまりそっちの方の話は、良いの…西川さんの話の中に、柳井君の名前が出てたから…、気になって…」
 絵美に向かって、ポツリと囁くと
「え〜っ! 森川さん…」
 絵美は大きな声で驚き、自分の声がクラス中に響いた事に、自分で驚いて慌てて口を塞ぎ、まわりをキョロキョロ見て、美紀に小声で話し掛ける。
「森川さんも、柳井君の事、気になってんの? 確かに彼かっこいいわよねぇ〜」
 ニヤニヤと笑いながら、小声で話す絵美に、美紀は驚きの表情を向け
「で、でも…彼、恐くない? …」
 絵美に小声で聞き返す。
 絵美は美紀の言葉に、不思議そうな顔をすると
「恐い…? 誰が…? …もしかして、柳井君? ………どうして?」
 逆に美紀に問い返す。
 絵美に聞き返された美紀は、返事に困り、黙り込む。
(確かにそう…恐いと思ってるのは、私だけ…他の人に聞いても、誰も同じ答えを言った人は、居なかったわ…)
 美紀は過去に、友人達に聞いた、稔の印象を思い出しながら首を振り、絵美に笑いかけると
「う、うん…今のは忘れて。それに、私が気になった理由は、彼が得意な分野で、私のどうしても知りたい事が有って、相談したかったんだけど…。ほら、彼ここ数日休みじゃない…だからなの」
 美紀は作り笑いで、絵美に理由を話すと
「ふ〜ん…そうなんだぁ〜。じゃあ、森川さんは、柳井君を狙ってるって訳じゃないのね?」
 絵美は品定めするような目線で、美紀を見詰めて問い質す。

 美紀は困ったような顔で頷くと、絵美はニヤリと笑い
「まあ、私も関係ないんだけどね。だって、彼と並んだら、大人と子供でしょ? 身長差30p越えてるモン、相手にして貰えないわ」
 美紀に笑いながら、言った。
「そんな事無いわ。西川さん可愛いし、優しいし、しっかり者だもの…私が男の子だったら、絶対彼女にしたいタイプだと思うわ」
 美紀は掛け値無しに、自分の本心を絵美に告げる。
 絵美は照れくさそうに笑って
「学校のアイドルの、森川さんにそんな事言われると、冗談でも嬉しいわ。まぁ、私も今は、恋愛なんてしてる暇無いしね…」
 美紀に答えると、後半は肩を落としながら寂しそうに言った。
 絵美は病弱な母と3人の幼い妹との5人暮らしで、借金を作って逃げた父親の変わりに、家の生計を助けている。
 その為、学校が終わると、直ぐにアルバイトの梯子をしていた。
 学校側も特殊事情として、西川のアルバイトを黙認している。
 しかし、絵美は持ち前の明るさで、そんな雰囲気を、他人に悟らせる事はなかった。
 事情を知らない、美紀は急に元気の無くなった絵美を心配し
「どうしたの? 何か心配事?」
 真剣な表情で、問いかける。
「えっ!? あ、何でもない、何でもないの。急に嫌な事を思い出しただけだからへへへっ」
 ハッと顔を上げると、作り笑いで誤魔化した。
 その時、ちょうどロングホームルームの開始を告げるチャイムが鳴る。
 美紀の待ち人の稔は、この時丁度3階の男子トイレで、親友の沙希が放置された、個室の扉を開けていた。

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