夢魔
MIN:作

■ 第15章 奴隷2

 稔達は三人にそれぞれのドレスを選び、アクセサリーを揃えた。
 梓はその金額を、正確ではないにしろ確認し、目を白黒させながら、自分の持っている、カードの限度額を計算する。
(無理! 絶対に無理よ…こんな金額、私払えない…)
 ガックリと肩を落とし、梓は泣きそうになっている。
「それじゃぁ、僕達のブラックタイを揃えたいんだけど」
 稔の一言は、梓を更に打ちのめす。
 老紳士が稔と庵の前に、タキシードのフルセットを持ってくると、稔はろくに見もしないで
「うん、有り難う。直ぐに着るから、特別な包装は要りません」
 老紳士に告げた。
「では、お会計の方宜しくお願いします。締めて415万円に成りますが宜しいでしょうか?」
 老紳士がキャッシャーを叩いて、金額を告げると梓は、蒼白になる。
 ガタガタと震える梓の横を、スッと稔が横切り、財布の中からカードを取り出し老紳士に渡す。
 梓は稔の行動に、呆気に取られた。
(えっ? 何? どう言うこと?)
 梓は全く理解できずに、呆然と稔と老紳士のやり取りを見詰める。
(全く…稔さんって、どうしてこう言う所、気にしないんだろ…。梓の奴壊れちまいますよ…)
 店内に入って、一部始終を見守っていた庵が、大きく溜息を吐き梓に近付くと
「この店の払いは、稔さんの奢りだ…この後も、全部出すはずだから、金の事は気にするな…。あの人は、それ位の小金は持ってる」
 小声で梓に教えた。
 梓は庵の言葉にビックリして、改めて自分の主人を見詰める。
 カード伝票にサインする稔の横顔を見詰め、主人の事を梓は何も知らない事に気付く。
(知りたい…もっとこの方を…。もっと、もっと深く…)
 梓の子宮の奥深くで、稔に入れられたバイブを、ギュッと締め付け、体の芯を熱くしながら、梓は切に願った。

 衣装を購入した5人は、隣のビルの3階に移動する。
 6階建てのビルの3フロアーを占有する、会員制の美容サロンの受付で、稔が名前を告げた。
 梓は、この美容サロンに、一度医師としてスカウトされている。
 1年ほど前、外資系のこの店がオープンする時に、梓はスタッフとして誘われていた。
 かなりの好条件を出されたにも係わらず、当時はまだ外科部長の柏木と不倫関係で有ったため、踏ん切りも付かず。
 サロンのコンセプト自体、高級志向過ぎて絶対に潰れると思っていた。
 それが今や、この市内だけ成らず、近隣の都市からも会員権を希望する声が、ひっきりなしだという。
(あ〜ぁ…あの時、ここに転職していれば、今みたいに深夜勤が続かなかったかも知れないのに…)
 梓は受付に立ちながら、そんな事を考える。
 受付の女性が内線で連絡すると、直ぐにスーツを着た、中年の女性が現れ、頭を下げた。
「柳井様ですね、ご要望は伺っております。どうぞこちらに」
 そう言いながら、稔を案内する女の整った顔に、梓は見覚えがあった。
(あ、あの人は…私をスカウトに来た方…確か店長って言ってたはず…)
 梓が女に気付くと、女も梓に気付き、パッと明るい微笑みを見せて
「これは、これは、森川様。過日は非常に残念でした…、私どもとしては、森川様のような優秀なお医者様を、お招きしたかったのですが、残念でありません…。あ、失礼いたしました、今日はお客様でしたね。スタッフに腕によりを掛けさせますので、どうかおくつろぎ下さい」
 捲し立てるように言うと、深々と頭を下げる。
 梓も釣られて頭を下げると、店長はクルリと踵を返して、稔を案内した。

 稔と庵は別室に通されタキシードに着替えると、スタッフのヘアメイクを断り、ただひたすら待たされた。
 40分ほど経った時、梓達の準備が終わり、ドレスを着込んで現れる。
 3人はそれぞれ異なる雰囲気のメイクとドレスで、見違えるようになっていた。
 梓は、深紅のドレスに髪をアップに結い上げ、首には稔の奴隷の証の、黒いチョーカーを着けている。
 露出した肩は柔らかな丸みを帯び、大人の女の豊満な艶を滲ませていた。
 伏し目がちに見詰める目には、妖艶な色香が漂い、見る者をゾクリとさせずには居られない。
 美香は清楚な雰囲気の薄めのメイクで、淡いピンクのドレスに、首に梓と同じチョーカーで、飾りのない物を着けている。
 整った顔立ちに、慎み深さを漂わせ、初めてのドレスに気恥ずかしさが有るのか、背中を少し丸め俯いていた。
 しかし、楚々とした仕草が、その羞じらいを愛らしさに変える。
 その羞じらいは、決して穢してはいけないと思わせると同時に、穢し尽くしたいと思わせる、相反する心を掻き立たせた。
 沙希はパステルグリーンのドレスで、ハッキリとした目鼻立ちを際だたせる、薄めのメイクを施されている。
 沙希も美香と同じ、飾りのない黒のチョーカーをしていた。
 パステルグリーンのドレスの胸を持ち上げる、豊満で張りの有る乳房はその谷間を強調し、視線を釘付けにする。
 テニスで鍛えた大きなお尻は、ヒールを履いているためクッと上に持ち上がり、存在を主張していた。
 挑戦的な瑞々しい身体に、物怖じしない屈託のない笑顔が、アンバランスさを演出する。
 2人とも、少女の面影を残しながら、女の雰囲気を滲ませるような、上品な仕上がりだった。

 自信満々で3人の仕上がりを自慢しようとした女店長は、稔達の格好を見て、眉を曇らせ2人の女性スタッフに、叱責の目を向ける。
 稔はそれを軽く手を挙げ、制止すると
「僕達が断ったんです。怒らないであげて下さい」
 女店長に、静かに告げた。
「3人とも綺麗ですよ」
 にこやかに3人を見た稔が、ウェット仕上げのハードタイプワックスを手に取り髪に馴染ませる。
「じゃあ、行きましょうか」
 呟きながら、稔が髪の毛を一気に後ろに向かって、撫で上げた。
 稔の髪型は、一撫ででオールバックになり、手のワックスを拭った後、メガネを外して蝶ネクタイを止める。
 稔が顔を正面に向けると、その場にいた梓、美香、沙希、女店長と2人の女性スタッフの口から、溜息が漏れた。
「これもらうぜ」
 溜息を吐く、女性スタッフに庵が一言言いながら、ハードタイプワックスを馴染ませた髪に、黒いプラスチックのカチューシャを嵌めると、女達は息を飲む。
 ジャケットの襟を整え、姿勢を正すと女達はそこに、知性と野生の匂い立つ二匹の雄を見て固まった。

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