夢魔
MIN:作

■ 第15章 奴隷8

 稔は旅行の準備を済ませると、森川家を訪れる。
 ピンポンと呼び鈴を鳴らすと、玄関扉の奥から
「お待ち申しておりました。どうぞお入り下さい」
 梓の声が届いてきた。
 稔が玄関を開けて、中に入ると梓と美香が、玄関の土間に全裸で平伏している。
 稔が脇を通り、玄関の上がりがまちに腰を掛けると、梓と美香がにじり寄って靴と靴下を脱がせて、足の指を一本一本舐め上げる。
「この礼儀の示し方は、何処で覚えたんだ?」
 稔は梓に向かって問い掛けると、梓は口を離して
「はい、ネットの中の、あるM女さんのブログを読んで参考にさせて頂きました」
 稔の目を見て、ハッキリと答えた。
 稔はジッと梓の目を見詰め
「うん、僕は今の受け答え方の方が、好きですね。梓の目には気負いも、何も感じられない。自然体で奉仕する気持ちが出ている、それは僕好みの仕え方です。それにこの奉仕の仕方も、気に入りました」
 梓の頭を優しく撫でる。

 稔は美香に目を向けると
「美香も同じように、僕には振る舞って下さいね」
 礼儀の示し方を、美香に告げた。
 しかし、美香はこの時胸にズキリと突き刺さる。
(稔様…身近に接する事が出来て…、ママのように立場が変わった奴隷が居て…初めて解りました。私と稔様の間には、まだ溝がある…美紀と私の間以上に、私達とママの間には、大きな隔たりが有るんですね)
 美香の心に突き刺さった物は、美香が思うとおりの物であり、稔にとっての心の距離を示す物だった。
(ママは、稔様のお心の直ぐ横に居る。それは、稔様の信頼の強さを顕して居るんだわ…。どうすれば、ママに近づけるの…どうすれば、稔様の心の側に行けるの…)
 美香は平静を装いながらも、必死に頭の中で模索した。
 稔はそんな美香の心の動きを、ジッと見詰めて観察する。
(そう、自発的に考えなさい、何をどうすれば今の自分の立場が変わるか、それを自発的に考え行動する。それが一番大切な事なんだよ美香…)
 稔にとっては、美香の思いを読む事など、造作もない事だった。
 心理学を学び、脳生理学を修めた稔にとって、他人の考えを読み取るのは、まさに得意中の得意だった。

 稔は立ち上がり、リビングに向かうと、リビングの入り口で
「美香今日は調教はしませんよ。これから梓の身体を解して、直ぐに眠りますから、貴女も休んで下さい」
 美香に自室に戻るよう告げた。
(さて、この言葉にどうします? すんなり、部屋に戻りますか? それとも…)
 稔は美香に向かって告げた言葉に、美香がどう反応するか観察する。
(ここで、指示通り部屋に行ってしまったら、何も変える事が出来ない…。でも、稔様に逆らうような事はしたくない…)
 考え抜いた、美香の行動は、素早かった。
 廊下に平伏すると
「稔様、美香はママ…いえ、梓様の事を女性として、先輩として尊敬しております。ですから、少しでもお側で学ぶ事をお許し下さい」
 堂々と折り目の付いた言葉で、懇願する。
(グッド! そうです、その真摯な考え方が道を開くんです。美香…貴女はとても良いです…)
 稔は頷いて、美香に告げる
「良いでしょう。梓の事を学ぶのは、とても勉強に成る筈です。許可しましょう…美香は、これからは梓の世話をするペットにして上げましょう。解ったかい? 梓」
 稔の言葉に、梓は頷き
「美香、これからお願いね…」
 美香に微笑みながら、優しく告げた。

 稔は美香に向き直ると
「これから、梓のマッサージを始めます。美香は蒸しタオルを作りなさい」
 稔は美香に初めて、命令形の言葉で告げた。
「は、はい! 只今お作りいたします」
 美香は弾かれたように、立ち上がりお風呂場へ向かって走って行く。
(いま、稔様…私に命令してくれた…。嬉しい…嬉しい…良かったんだ…こんな風に、全てを投げ出してしまえば良かったんだ…)
 美香は真っ赤な顔に、満面の笑みを浮かべ、母親のペットになる事を喜んだ。
 稔に全てを投げ出し、稔の思いのままに自分の身体、心、人権、全てを委ね、行使して貰う事に美香は快感を覚えた。
 それは肉体の快感などでは無く、魂の快感だった。
 身体を震わせる絶頂ではなく、心を震わせる幸福感に、美香は震え上がる。
 かつて、母親である梓が感じたあの至福感に比すると、遙かに小さな物だが、間違い無くそれは同じ物だった。
 こうして、美香は稔の所有物への階段を、一歩上って行く。
 稔は宣言通り、梓のマッサージを開始した。
 梓の身体を、蒸しタオルで包み、筋肉を解して筋を伸ばすようにマッサージしてゆく。
 稔の手が梓の肌をすべり、筋肉を伸ばして乳酸を追い出す。
 稔の優しいタッチや少し痛みを伴う刺激が、梓の官能をくすぐり恍惚の表情を浮かべさせる。
 マッサージで、梓が数回絶頂を迎えたのは、決して稔の意図するところではない。
 美香はその一部始終を見詰め、自分の役目を完遂する。

 稔はマッサージを終えると
「さあ、終わりましたよ。梓お前はそのままベッドに行きなさい、用意は明日の朝でも充分です。美香、僕達は眠ります、部屋を出なさい」
 それぞれに指示を出した。
 梓はベッドに入り、美香はタオルを持って、部屋を出る。
 梓の部屋のふすまを閉めると、美香はタオルを洗濯機に入れ、また梓の部屋の前に戻って来た。
 そして、そのまま梓の部屋の前で、踞ると眠りにつき始める。
 美香に許された主人に最も近い場所、それが梓の部屋の前だった。
 母親の梓は、稔の腕の中で眠り、美香は部屋の外。
 これが、自分と母親との主人に対する、距離の差だった。
 美香はこの差を埋めたかった。
 しかしそれは、稔に認めて貰う以外方法はない。
(どんな状態でも構わない…少しでも側に…稔様の側にこの身体を置く…。その為にはどんな所にでも居れる。どんな風に扱われても、本望です…)
 美香はジッと考えながら、いつの間にか眠りについた。

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