夢魔
MIN:作

■ 第16章 絵美5

 店を飛び出した絵美は、涙を堪えながら家路に付いた。
 家に着く前に、絵美は有る事を思い出す。
(あっ、コンビニの店長にお願いして、シフトを入れて貰おう…それしかないわ)
 絵美は気を取り直して、一路コンビニへ向かった。
 店に着いた絵美は、いつもと違う雰囲気に戸惑いながら、店長を捜す。
 店の裏手の勝手口に、店長は煙草をイライラした表情で吸っていた。
 絵美が店長に笑顔で話し掛けると、店長はムッとした視線を向ける。
 いつもはとても優しい店長と、余りにもかけ離れた態度に、絵美が表情を曇らせると
「西川君…君の悪い噂が、苦情で流れてきたんだけど…心当たり有る?」
 ジロリと睨むような目線を向けて、店長が問いつめて来た。
 絵美は、店長の言葉に、ビクリと震え固まってしまう。
 その態度を見た店長が、煙草の煙を溜息と共に吐きだし
「信じてたんだけどな〜…。どうやら、本当のようだね…」
 ボリボリと頭を掻きながら、呟くように言った。
 絵美は店長の言葉に俯き、何も言えない。
 店長は煙草を灰皿にねじ込み、首を数回ならして、絵美に向き直ると
「ウチも客商売なんでね、問題の有る店員は雇えないんだ…。もう来ないでくれ、給料は振り込んどくから…」
 そう言って、勝手口のドアを開けて中に入って行った。
 呆然と店長の消えたドアを見詰め、絵美の頬を涙が伝う。
(どうして…どうしてこんな事になるの…)
 絵美は肩をガックリと落とし、とぼとぼと歩き始める。

 絵美の頭の中には、今月の支払いがグルグルと回り始めた。
(どうしよう…これから、どうやってお金を作ろう…。もう一軒のコンビニだけじゃ絶対に無理…)
 絵美の頭に浮かんだ勤めている、もう一軒のコンビニが浮かぶ。
(ま、まさか…)
 絵美は身も凍るような思いを浮かべ、もう一軒のコンビニに向かった。
 急いで向かったコンビニエンスストアーは、前の店と同じ反応を見せる。
 何か腫れ物に触るような視線。
 重い空気。
 奥から現れた店長の、暗い目線。
 何も言われなくても、それだけで理解できた。
 絵美は全ての職を失った。
 項垂れて、家路に付く絵美。
 心はズタボロに引き裂かれ、歩みは遅々として進まない。
 そんな絵美に車が近付き、窓を開け男が声を掛ける。
「ねえ、どうしたの? 暗い顔してさ…。俺とどっか行こうぜ」
 絵に描いたような軽いナンパに、絵美は顔を向け
「私お金が要るの…貴方と遊んでる暇なんて無いの…」
 陰鬱な表情で、告げた。
 男は、口笛を鳴らし、軽い口調で
「何だよ、金で片が付くなら、話は早い。君なら5万円でもOKだぜ」
 絵美に金額を示す。
 絵美は金額を聞いて、ビクリと震え男の顔をマジマジと見詰める。
 男が頷くと、絵美は車の助手席に、身体を滑り込ませた。

 絵美は繁華街に居た。
 男と別れて、2時間が経つ。
 手に入れたお金5万円。
 足りない、余りにも足りない金額。
 そして、別れ際男が言った言葉に、絵美は心を砕かれる。
「何だ、何でも来いなのかよ? 最初に言えよな…お前みたいな変態女なら、色んな事が試せたのに…また、やらせろよな」
 絵美の中のSEXは、間違いだったと初めて知った。
 自分がアブノーマルに染められている事を、3度目のSEXで知ったのだった。
(ふっ…馬鹿みたい…私、最初から汚れてるんだもの…今更、どうやったって綺麗には成れない…。お金もそうよ、どんな事をして作っても、お金はお金…)
 俯いて、考える絵美の瞳から、涙が溢れ止まらなかった。
 10時を知らせる、時計の音が聞こえると、絵美は顔を上げる。
(帰らなくちゃ…普段なら、この時間まで働いてるのに…。何か、リストラされたおじさんみたい…)
 自分の普段働いている時間まで家に帰れない、今の絵美の行動は本当にその通りだった。
 繁華街から、フラフラと歩いて家路に付く絵美。

 外灯の少ない市街地の公園に差し掛かった時、絵美の後方から足早に駆ける足音がする。
 絵美がそちらに気付いた時には、もう足音の主は、絵美を捉えていた。
 口を押さえられ、公園に押し込まれて押し倒された絵美は、手足をばたつかせる。
 押し倒した男が、絵美の前に顔をさらす。
 神田だった。
 絵美は顔を引きつらせ、暴れる動きを強めた。
「暴れるな! 仕事が全部無くなるぞ!」
 神田は鋭く小さな声で、絵美の耳元に叫ぶ。
 神田の言葉で、絵美はピタリと動きを止めた。
(な、何? 今なんて言ったの…仕事が全部無くなる? もう、無くなってるじゃない…。でも、どうしてこの人が…)
 そこまで考えた時、絵美は全て気が付いた。
(こいつ…こいつが全部連絡したんだ…。私を雁字搦めにするために…なんて卑怯な…)
 絵美の瞳に憎しみの炎が宿る。
 絵美の瞳に宿った視線を見詰めて、神田は薄く笑い
「その様子だと気付いたみたいだな…そうさ、俺が連絡した。俺からの金が入れば、収入はそんなに減らないはずだぜ」
 絵美にそう告げると、身体をまさぐり始めた。
 絵美が抵抗して、暴れ始めると
「本当に金が入らなくなるぞ、今日は早退扱いにしてやった。これがどう言う意味か解るか?」
 神田の言葉に驚きを隠せない絵美。
(何? 私まだレストラン首になってないの…でも、それはこいつのオモチャになるのが条件って事…)
 そこまで、理解した絵美は、一瞬迷うも観念して、身体の力を抜いた。

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