夢魔
MIN:作

■ 第20章 恋慕24

 絵美は狂に奇声を発しながら抱きつき
「凄〜〜〜い! 凄い、凄〜〜〜い。全然気付かなかった! ご主人様! 凄〜〜〜い! 良かった〜! お話聞けて本当に良かった!」
 絵美は狂に抱きつき、身体を擦りつけ、全身で喜びを表す。
「おいおい、ちょっと待て…。絵美はそんなに喜んでるけど、その老夫婦はどう思うか解らないし、会社に確認を取った訳じゃないんだろ? それに、上の階の上司が気難しかったら、摩擦を起こすぜ」
 絵美を宥めながら、狂が落ち着かせると、絵美は納得しながら
「どこから聞けば、良いですか?」
 狂にキラキラと光る目を向ける。
 狂は苦笑しながら
「筋から行けば、会社関係だろうが、上の階の上司の連絡先は知らねぇだろ? だったら、契約したおっさんに確認取って、隣の家だな…上の階は、事後承諾だ…」
 絵美に告げる。
 この時絵美は、狂が何故上階に、上司が住んでいる事を知っていたか、全く気にしていなかった。
 絵美はブンブンと、頭を縦に振りながら貰ったばかりの携帯電話をコールする。

 絵美は支社長との電話を切ると
「ご主人様! 問題ないって。お隣でお世話に成ってた人なら、信頼できるでしょうし、妹達を見て貰えるなら、都合が良いですって。いやん、ご主人様、どうしよう…。あと、あとどうすれば良いですか?」
 絵美は喜びで興奮して、身をくねらせながら、狂に問いつめる。
「後は、お隣さんの老夫婦だが、実際会って頼むのが一番じゃねぇか? そん時は、[お願いだから、一緒に住んで]って姿勢を崩さない方が、相手の気持ちを動かし易いぞ。妹達と一緒にお願いするのも手だし、実物を見せても良いかもしれん…」
 狂の言葉に、絵美は[ほぉ〜]と感心する。
「今、7:30前だ…今から帰っても、そこに行くだけの時間は、充分にある。で、どうする? 俺の言葉に従うのか?」
 狂は時計を見ながら絵美に告げると、ブンブンと首を振りながら
「従います! 今から説得します〜っ!」
 勢い良く立ち上がる。
 絵美の勢いにブルブルと絵美の乳房が揺れ、狂は苦笑混じりに
「ブラとショーツは着けて行けよ…何してたか、バレちまうぞ…」
 絵美に告げる。
 絵美は股間と胸を押さえ、真っ赤になりながら[は〜い]と明るく返事を返した。

 絵美は狂に送られ家の近くで別れると、急いで老夫婦の元に向かう。
 絵美は事情を説明し、老夫婦に是非とも同じ家に住んで欲しいと懇願する。
 老夫婦は最初は困惑するも、新居を見て家賃も光熱費も不要で、実質生活が楽になり、実の孫のように可愛がっていた家族と共に生活できると有って、心から感謝しながら同意した。
 これで絵美にとって、心の憂いは、上階に住む実質上の上司のみとなった。

 妹達を連れて、マンションに来ていた絵美達は、マンションのお風呂を使い、人心地付き団欒を楽しむ。
 妹達が寝入ってしまったので、老夫婦のみ今のアパートに帰る事となった。
 絵美が老夫婦を下まで送り出すと、今まで点いていなかった、上階の電気が灯っていた。
(あっ! 帰って来られたんだ…どうしよう…こんな時間じゃ遅いかな…。でも、早めにどんな人か知りたいし、お婆ちゃん達の事もお話ししなきゃ…)
 絵美は意を決して、上階を尋ねる事にした。

 絵美は一旦部屋に戻ると、鏡の前に立ち、洋服の乱れを整え、笑顔を練習する。
「初めまして、西川絵美です。宜しくお願いします」
 鏡に向かって、お辞儀をする。
 どことなく、ぎこちなく感じた絵美は、何度も繰り返す。
「あっ! でも、本社の人なんだから、始めは英語の方が良いかな?」
 ブツブツと独り言を言いながら、鏡の前で立ちつくしていると、鏡の中に映り込んだ時計が目に入る。
(あっ! もうこんな時間! 早く行かなくちゃ!)
 絵美は時計が10:30を指そうとしている事に気付き、急いで部屋を出る。
 エレベーターに乗り、携帯電話に[10F]と打ち込んで翳すと、エレベーターは上昇を始めた。
 ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、エレベーターの中で呼吸を整える。

 エレベーターの扉が開き、ドキドキと激しくなる鼓動を押さえながら、通路を進む。
 10階は絵美のフロアーと違い、ワンフロアーワンルームであり、目の前に直ぐ扉が有った。
 絵美の部屋の扉とは、素材から違うような、重厚な両開きの扉である。
 絵美は扉横に付いている、インターホンを押す。
 インターホンを押すと、絵美は一歩下がり
「ハ、ハロー…マ、マイネームイズ、エミ、ニシカワ…」
 監視カメラに全身像が写る様にし、片言の英語で扉に話し掛けた。

 暫くの沈黙の後、インターホンから流暢な英語が流れる。
「I’m glad you could come.Miss Nisikawa.」(ようこそいらっしゃいました。ミス ニシカワ)
 絵美はその声と言葉に同時に驚いた。
(ほ、本物の英語だ〜! で、でも…凄く若くない? この声の人…。それに…どこかで聞いた事があるような気がする…)
 絵美がオドオドとしていると、[カシャ]っと扉のロックの外れる音がした。
 絵美はその音に、ビクリと驚いてジッと見詰める。
(良いのかな…入って良いのかな…。ロックが開いたって事は、入って良いって言う事だよね…)
 絵美は丁寧に[ようこそいらっしゃいました]と招かれているのにも気付かず、オドオドと扉を開く。

 そっと、扉を開けながら玄関に入ると、絵美の部屋の倍以上の土間が有り、玄関ホールと呼べる空間があった。
(えっ? ここ、マンションよね…? 何、この無駄な空間の作り…)
 絵美は電気が消えている薄暗い玄関に入って、その大きさに驚く。
 物音がする方向を見ると、チカチカと光が明滅している。
 どうやらそこがリビングで、部屋の主は、テレビを見ているようだった。
 絵美は小声で
「お邪魔しま〜す…」
 言いながら、リビングに向かう。

 リビングに入ると大きなモニターの前に、高そうなソファーが並ぶ、30畳ほどの空間が拡がっていた。
 絵美はその調度品に、目を奪われる。
 黒と白と銀で統一され、どれも見るからに高級そうな、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
 その中で黒い一人掛けのソファーに、1人の男性が深々と腰を掛け、テレビを見ていた。
 絵美はその男性に後ろから
「ハロー、マイネーム…」
 そう言い掛けた時、ソファーの男性が、爆笑を始める。

 絵美はその笑いに驚き、その声の主に気付く。
 男性はユックリとソファーから立ち上がり、絵美に向かいながら、ニヤニヤ笑って
「お前の英語本当に酷いな…」
 ポツリと呟く。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜っ! な、何で!」
 絵美が大声で、質問すると
「俺がお前の上司、工藤純だ。何かご質問は?」
 狂がニヤニヤ笑いながら、絵美に告げた。

 絵美は真っ赤な顔をして、狂にぶつかって行き、両手を突き出して抱きつく。
 狂は絵美に押し倒されながら、優しく抱き止める。
「もう、何が何だか解りません! ご主人様の意地悪!」
 絵美は満面に笑みを浮かべた、膨れっ面で、狂の唇にむしゃぶりつく。
 狂は絵美に応えてやりながら、頬を持ち上げ絵美の目を見詰めると
「これくらいのサプライズは、有った方が楽しいだろ?」
 ニヤリと笑って、頬にキスをした。
 絵美は狂の首に腕を巻き付け
「もう…本当に意地悪なんだから…」
 甘えながら、抱きついた。

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