夢魔
MIN:作
■ 第29章 暗転7
狂はエレベーターで、管理棟3階に有る新生徒会室の扉を開く。
そこは、ワンフロアーに会議室、寝室、浴室などが作られ、生徒会専用の空間になっている。
生徒会執務室には、豪華な調度品が置かれ、さながらラウンジのようになっていた。
狂はユックリと窓際の生徒会長席に座ると
(ちっ、あの爺…この部屋は、絶対俺用に用意したモンじゃねぇな…。まぁ、俺のポジションは、良い所副会長だろう…。それでも構わねぇ…、こんな所の肩書きに何の意味もないし…、俺には、向いてない…)
三々五々集まりだした、今日の補習や部活に参加する生徒達を見ながら、今後の対応を考え始める。
稔が排斥される事は決まっていたため、プログラムの補正は終えていたが、どうやっても稔のコントロールする80%程しか効果が望めなかった。
その上、実際の運用でどう言ったリスクが発生するか、全く解らない状態である。
(大体6割近く目覚めたが、稔が居ないと安定処置も完璧にならねぇ…。あの爺さん何急いでんだ…)
狂は急遽態度を変え、稔の排斥を命じた伸一郎の行動に、頭を捻った。
伸一郎が急遽稔を排斥したのは、田口の振り込んだ7億円が原因である。
田口が計画参加時に要求して居た、稔達の調教した奴隷の引き渡しを求めて来たためだった。
当初伸一郎は直ぐに、対処出来るとタカを括っていたのだが、実際蓋を開ければ、総合病院のいざこざで、森川家の奴隷3人は姿を隠し、沙希も行方が知れず、弥生を差し出せば医薬品が精製出来ない。
誰1人として、田口の手に渡って居らず、田口が痺れを切らしたのだ。
伸一郎も7億の金を受け取った手前、田口の要求を無碍にも出来ず、森川家の行方を知っている稔を締め上げるつもりだったのが、これにもアッサリ逃亡され立場を危うくする。
田口の激昂を押さえるため、取り敢えず24人の奴隷教師を自由にさせる事で、納得させたのだ。
そんな密約の存在を知らない、狂には伸一郎が急いでいるようにしか見えなかった。
伸一郎は奴隷達の監視者として、稔の代わりにキサラを送り込んだが、キサラの実力も素性も深くは知らなかった。
ましてや、キサラが全く別の意志を持って、計画に参加しているなど、夢にも思っていない。
金に目が眩んで、稔を排斥した伸一郎は、自分の思い描いた計画をユルユルと壊して行く。
そして、田口の要求を知らなかった佐山も、激昂した田口が怒鳴り込んで来て、始めて自分と同じ目的を持つ人間の存在を知った。
佐山は表立っての行動が取れなくなり、闇で暗躍し始める。
沙希を竹内家の使用人棟の地下に隠し、催眠術と薬物で洗脳しようと企んでいた。
その為に庵を襲撃した記憶を取り除き、狂気の縁から引き戻す事に必死になっている。
佐山にとって、最早沙希は無くては成らない存在になっていたのだ。
恋愛や思慕の対象でなく、女達を支配する道具として、沙希程、高性能な道具を佐山は知らなかった。
さらに、それ以上の存在である、弥生や森川一家に対する執着も、ますます強まっていく。
◆◆◆◆◆
一方狂が思案を巡らせている頃、黒澤が由香を連れて地下に降りた。
キサラの待つ一番奥の部屋に行くと、キサラはスーツに白衣のまま、黒澤達を迎え入れる。
黒澤が訝しげに、キサラを見ると
「あら、私が女王様の格好でもしてると思ったの? 私があの格好をするレベルの奴隷なんか、この学校には居ないわ」
キサラは鼻で笑いながら、由香に対して顎をしゃくる。
キサラの仕草に由香が視線を向けると、そこには産婦人科の診察台のような椅子が、置かれていた。
由香はその診察台を見て、不安そうに黒澤に視線を向けると、黒澤が頷き由香を促す。
由香は覚悟を決め、洋服を全て脱ぎ、全裸に赤い首輪だけの姿になると、キサラの前に平伏して
「奴隷の由香で御座います。どうか宜しくお願い致します」
深々と頭を下げて、挨拶をした。
キサラは平伏した由香の背中に、足を掛けると体重を乗せる。
由香がピンヒールが食い込んで行く痛みにも、微動だにせず耐え抜くと、由香の背中から足をどけ、診察台に進むように告げた。
由香は一度額を床に押しつけ
「はい、畏まりました…」
返事を返し、スッと高足の四つん這いに成ると、お尻を振りながら診察台まで進み
「2本足で立っても宜しいでしょうか?」
平伏して、キサラに問い掛ける。
キサラは頷いて、由香に許可を出すと
「2点ね…」
キサラの口から点数が告げられた。
黒澤は思わずその点数の低さに、驚いたが
「最初の割には、躾が行き届いてるわね…」
キサラが、バインダーに何かを書き込みながら呟くのを聞いて、それが最高点だと知る。
由香は診察台に足を掛け、腕置きに手を置いてキサラの指示を待つ。
キサラは由香に近づくと、手足をそれぞれ固定し
「柔軟性を見ます、堪えられ無くなったら、直ぐに申告なさい」
由香に命じると、操作パネルに指を走らせる。
由香の固定された足の膝が真っ直ぐに伸び、左右に開き始め、股関節が170°程開くと
「ぎぃ、い、痛いです」
由香が申告する。
キサラは直ぐに機械を止め、次の操作をすると、そのまま下半身と上半身が上に持ち上がり、身体が折りたたまれた。
「あだだだ、い、痛いです〜」
由香がまた悲鳴を上げると、キサラは直ぐに機械を止め元に戻す。
一旦元の形に戻ると今度は逆に、エビ反りの形に由香の身体が曲げられる。
「ぐぅ〜…く、苦しい…」
由香の手足が半円を描いた所で止まり、元に戻された。
最後に肩関節の稼働域を調べ
「ふ〜ん…、身体の柔軟性は1点ね…一般人だと柔らかい方だけど、まだまだ固いわ。これじゃ、特殊な縛りをされる方には堪えられ無い…」
キサラはそう言いながら、またバインダーに書き込みながら呟いた。
どうやら、審査と言うのは文字通り、奴隷の全ての能力チェックのようだった。
その肉体のポテンシャルから、躾け全般に至るまで、細かくチェックをする。
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