夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊62

 稔は大きな溜め息を1つ吐き
「良かった…。美香が掠われました、携帯は今所持していませんが、居場所を突き止められますか?」
 稔が用件を純に早口で告げた。
『んだと! 馬鹿野郎。そう言う事は、もっと早く言え! 今自宅に戻る。学校のPCはぶっ壊したから、もう使えねぇ、自宅のPCを使って探す。10分待て、絶対探し出してやるからよ!』
 純は稔に捲し立てると、通話を切った。
 稔は通話の切れた携帯電話を両手で額の前に掲げ
「頼む…。純、君だけが頼りだ…」
 硬く目を閉じ、小さく呟く。

◆◆◆◆◆

 榊原は署長室から出ると、ニヤニヤと笑いながら、梓達の身柄を受け取りに行く。
(へへへっ、これでまた、たんまりボーナスが貰えるぜ…)
 榊原は皮算用しながら、階段を下りると廊下がなにやら騒がしく成っていた。
「馬鹿野郎! 身柄の確認が第一だろう! お前等何年警官してんだ! 一生警邏がしたいのか」
 この警察署の刑事が、巡査達を怒鳴りまくる。
 榊原はその刑事の背後に近付き
「よう、揉め事かい? ちょっとよ、その前にこれの処置頼むわ」
 刑事の肩を叩いて、引き渡し書を刑事に見せる。

 刑事はしかめっ面を榊原に向けると
「なんだこれ…。お前、またろくでもない事やろうとしてるんじゃ無いだろうな…」
 ジロジロと榊原を睨み、問い掛けた。
「はん、何の事だか皆目分からんが、お前とこの署長も、合意してるんだ。とっとと、身柄を渡して貰おうか」
 榊原は横柄な態度で刑事を促す。
 刑事は[ちっ]と舌打ちを鳴らすと、取調室の扉を開け
「おい、そのお嬢さんに聞く事はもう終わりだ。さっさと、切り上げろ」
 中の若い刑事に告げる。

 その時、榊原の正面に有る、庵が降りてきたエレベーターの扉が開き、溝口と1人の老人が降りて来た。
 榊原はその老人を見詰めて、顔色が青くなる。
(や、やべぇ〜っ! あの爺…、弁護士の高山じゃねぇか…。なんて、大物連れて来やがる)
 その弁護士は、元検事で警察関係者に多大な影響力を持つ、全国区の有名弁護士だった。
「あっ、君は垣内君じゃないか、どうしてここに?」
 溝口が庵を見つけて問い掛けると
「いえ、病院に森川さんを訪ねて行ったら、何故かこんな風に成りましてね。拳銃まで構えられそうに成って、びっくりしましたよ…」
 庵は転院する時少ししか見ていない、溝口に両手を見せて手錠を晒した。

 高山はツカツカと歩み寄り、庵の側に立つと
「つまり君は、何もしていないのに、手錠を掛けられた…。そう言う事かね?」
 庵に問い掛ける。
 庵は高山の言葉に頷いて
「ええ、ここに来る間中、警棒で腕を押さえられて、パトカーを降りた時は、確かあんたとあんた…、腰の拳銃に手を添えてたよね…」
 庵を連行した警察官2人を指さし、問い掛けた。
 庵に指摘された警官は、俯いて目線を反らす。

 高山は大きな溜め息を吐き、頭を掻きながら
「一体ここは、どう成ってるんだ? 銃の使用規制で、拳銃に手を掛ける事が、威圧行為だとハッキリと載っている事をまさか、知らんとでも言い張るのか?」
 警察官に鋭い眼光を向け、問い質す。
「垣内君は、確かまだ高校生じゃなかったか? その少年に、いきなり手錠を掛けるのも、おかしくないか?」
 溝口が警察官に更に詰問すると
「おいおい…、ここの警察署はどう成ってる。青少年保護法という物が、この国に有るのを知らないのか? 取り敢えず、署長を呼んできなさい。じっくりと話をする必要が有る…」
 高山が若い刑事に告げると、若い刑事は慌てて飛んで行った。

 高山は若い刑事の行方を目で追いながら
「さて、その手に持っている書類…。見せて貰おうか…」
 スッと刑事に右手を差し出す。
 手を差し出された刑事は一瞬躊躇したが、この弁護士を敵に回した時の恐ろしさを知っている為、直ぐに諦める。
 書類を手に取った高山は、マジマジと見つめながら、刑事に書類を返して
「今すぐコピーを取って来なさい。この書類が、裁判の時に紛失して提出出来ないとも限らない。コピーを頂いておこう、何なら正式な手続きを踏んでも良いぞ。そう成って困るのは、どこの誰か知らん訳では有るまい…」
 巧妙な脅しを入れて、刑事にコピーを取らせた。

 刑事がコピーを取り、高山に持ってくるのと、署長が署長室から降りてくるのが、ほぼ同時だった。
 高山は署長に書類を見せ
「1つ質問するが、この書類…。これは、被疑者にのみ発行される筈じゃな? この書類に記載されている両名の、検事局からの出頭命令書を出して貰おう」
 静かに告げると、署長は刑事に顎をしゃくって、指示を出す。
 刑事は俯いて、署長の目を見ない。
 その刑事の反応を見て、署長の顔が蒼白になり、書類を持って来た榊原を捜すが、その姿は何処にも無かった。

 署長は一瞬で理解する。
(こいつら、俺に隠れて何してやがる! 俺を冤罪事件に巻き込むつもりか)
 署長は刑事を凄い目で見ながら
「おい、お前。この件は絶対忘れないからな…」
 震える声で、刑事に告げる。
 署長は一瞬で表情を変え、ヘラヘラと笑い出すと
「いや、申し訳有りません。どうも、手違いが有ったようで…。謝罪のしようも御座いません」
 署長は高山に深々と頭を下げた。

 高山はパンと1つ署長の頭を叩くと
「頭を下げる場所が違うだろ!」
 署長を一喝する。
 署長は梓と美紀と庵にペコペコと頭を下げながら
「この謝罪は、後日改めましてお伺い致します。どうか、平に平にご容赦下さい」
 3人に謝罪した。
「もう結構ですわ。それより、垣内君の拘束を速やかに解いて下さいませ。それと、娘の携帯電話も返して下さい」
 梓は署長に鋭い声で、ぴしりと告げると、刑事は携帯を取りに行き、警察官は急いで庵の拘束を解く。
 時刻は22:20、梓と美紀は絶妙のタイミングで、庵と出会いその身を守った。

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