夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊81

 アメリカのある都市に有る、摩天楼の会議室で、4人の白人男性が話し合っていた。
「全く…。この、2年間で20億ドル以上の損失だぞ…。一体何を考えている」
 禿頭の老人がブツブツと、しかめっ面で呟くと
「この損失は、完全に会社を私物化しています。彼の興した会社が母体とはいえ、今では我々が買収した企業の方が、群を抜いて多いんです。子供のお遊びに付き合うのも、もう止めませんか?」
 綺麗な白髪をオールバックにまとめた、鷲鼻の老人が意見を言った。
「私も、同感です。あんな東洋の島国に、これだけの投資をするなら、[それなりの場所や企業をターゲットにするべきだ]と、進言したが全く聞き入れ無かった…。これでは、彼を庇う事など、到底出来ませんな」
 かなり太った身体の、眼鏡の老人が大げさに手振りで、同意の意見を言う。
 「それじゃ、皆さんの意見は[彼には、ついて行けない]と言う事ですな…。これだけのメンバーに、不審を抱かれては、彼もこのグループの社長としては、退陣して頂く他は無い…。そう言う、意見で宜しいですな」
 3人の老人がそれぞれ意見を出すと、枯れ木のように皺深い老人が意見をまとめた。

 禿頭の老人モーリス・H・マグダエル、ジェネシス社不動産担当副社長。
 白髪オールバックの老人ジョージ・W・ヤコブ、ジェネシス社流通担当副社長。
 太った眼鏡の老人クリス・D・サイモン、ジェネシス社営業担当副社長。
 痩身の老人マーシャル・J・フォックス、ジェネシス社金融担当副社長。
 4人の副社長はジェネシス社が、吸収合併した企業グループの代表であり、ジェネシス社に残っても、副社長としてその経営を任されていた。

 4人の企業グループはそれぞれに問題を抱え、衰退の一途を辿っていたが、ジェネシス社に吸収合併され、皆、飛躍的に営業実績を上げ始める。
 そのお陰で、彼らの企業グループは持ち直し、倒産の危機を回避したのだ。
 言わば、純は彼らにとって[恩人]以外の何物でもない。
 だが、彼らはそれを由としなかった。
 東洋人の少年に、顎で使われ頭を下げる事を苦痛に感じ、いつ寝首を掻くか、虎視眈々と狙っていたのだ。
 そのチャンスは2年前に訪れる。
 純が日本の片田舎の企業を、買収し始めたのだ。
 それも、会社の金を自分名義で湯水のように使い、買収し始める。

 4人の副社長はこれを[暴挙]と見て押し黙り、付け込む隙を探す。
 そして、その半年後にその社長は突然訪日して、行方を眩ませた。
 4人にとって、これは好機以外の何物でも無かった。
 本国内で根回しをし、純をジェネシス社から、追い出し自分達の物にしようと暗躍を始める。
 そして、1年半の時を掛け、それが実時期に来た。
 4人は大義名分を並べ、純の社長解任の会議を招集する事に成功する。
 招集日は週明け月曜日の17:00、日本時間の火曜日の09:00であった。

◆◆◆◆◆

 佐山は催眠術で操った自分の部下、伸一郎の部下、田口の部下を総動員で使い、メイド達の行方を捜させる。
 だが、その姿は全く見あたるどころか、行方の形跡さえ見つけ出せない。
 一切の目撃者が無く、いつ消えたのかすら、掴めなかった。
「一体全体、どう成ってるんだ! お前達は何を監視してるんだ!」
 激しい怒声を撒き散らし、佐山が怒りをぶつける。
 報告に来た監視要員は、首を竦め只小さく成るだけだった。

 その報告は一晩経っても、全く同じ物だった。
 佐山は一睡も出来ずに、土曜日の夜を過ごし、日曜日の朝を迎える。
(どうする…。22億円なんて払えないぞ…、いや、それだけで済むとは、絶対に思えん…。何とかして、奴隷を見つけなければ…。奴隷を…)
 ジッと考え込んでいた佐山は、有る事を思いつく。
(そうだ、奴隷が居れば良いんじゃないか…。あいつ等に渡す奴隷…。クックックッ…、居るじゃないか…たんまりと…、何もあいつ等じゃなきゃ、駄目だなんて事は無い…。変わりに、もっと上玉を渡せば良いんだ…)
 佐山が思いついた事、それは当然、学校の奴隷達を身代わりにする事だった。

 佐山はそれを思いつくと、直ぐに実行に移す。
 伸一郎の名前で、学校関係者全員に、直ぐに登校するよう命じる。
 学校関係者が、登校を始める前、佐山は自分の部下60人を連れ、先に学校に移動した。
 佐山達が学校に着くと、佐山は自分の部下に命じる。
「良いか、誰1人逃がすなよ! 反抗する奴は、半殺しにしても構わない。但し上玉は、余り傷つけるな。値段が落ちるといけない、後は、見せしめのつもりで、何をしても構わん。この1週間で、徹底的に反抗心を消せ! 解ったな」
 佐山の命令に、男達は虚ろな返事を返す。
 そんな男達に向かって、佐山が指を鳴らすと、男達の視線は意志を取り戻した。
 だが、その瞳は悪意に染まっている。
 それは、佐山の催眠により、自制心を押さえられた者達だった。

 伸一郎連絡は、瞬く間に関係者全員に行き渡り、日曜日の通学路は、早朝だと言うのに賑わいを見せた。
 全員が何の用事で呼び出されたか、皆目見当が付かなかったが、理事長の恐ろしさが勝り、渋々登校する。
 正門を潜ると、そこには見慣れない黒服の男達が立ち、教職員も含め、全員が携帯電話を没収された。
 訝しみながら、それぞれがクラスや職員室に散ると、正門は固く閉ざされ、一斉放送が流れる。
『今日から来週の土曜日まで、この学校を一歩でも出る事は禁止する。全員監視者の指示に従い服従する事。さもなければ、命の保証はしない』
 一斉放送の終わりと供に、男達が牙を剥く。
 先ずは職員室に雪崩れ込んだ一団に、校長、指導主任を含む、職員室内の全ての男子教師が拘束された。
 そして、男達は各クラスにも雪崩れ込む。

 しかし、そんな男達の一部に動揺が走る。
 男達が入った数個の教室が、もぬけの殻になっていたのだ。
 1年A組とB組、2年のB組、3年のA組とB組の5クラスは、誰1人として居なかった。
 昨日の今日で、おかしな感じを受けた悦子や弥彦が、地下の調教スペースにいち早く移動させたのである。
 地下1階と2階は、5クラス分の人間が、避難していた。
 弥彦は男達の侵入を防ぐ為、エレベーターを地下1階で使用不能にし、点検口も塞いだ。
 階段室の扉の前にも、バリケードを作り、侵入を阻む。

■つづき

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