夢魔
MIN:作

■ 第32章 崩壊90

 真達は山門を出て、一路ホテルへ向かう。
 その帰路で真は溜め息を吐いた。
(ふ〜…、上手く事が運びましたが…、厄介な事ですね…。先ずは、あの山の持ち主を捜す事から始めましょう…)
 真は自分が良く採取に出向く、山の持ち主を探さねば成らなくなった。
 それは、恐らく容易いだろうが、その後の交渉はかなり自信がなかった。
 真は基本的に口べたで、交渉事が苦手だったからだ。
 だが、自分の依頼を快く聞き入れ、[破門]されてもおかしくない事実に、目を瞑ってくれた恩には報いたい。
 真はそんな思いを胸に、ホテルへ急いだ。

◆◆◆◆◆

 昼を過ぎると、株価は更に上がり、ジェネシス社の占有率が、ジリジリと上がり始める。
 そこに田口が飛んで来て
「な、何じゃこれは! 一体どう成ってるんだ」
 伸一郎を捲し立てた。
「やかましい! 見て解らんのか…。俺の会社が、例の外資系に乗っ取られ掛けてるんだ!」
 伸一郎は田口に怒鳴り返すと、田口は蒼白な顔になり
「お前、会社を無くしたら…もう、奴隷達を作れなくなるぞ…」
 伸一郎に告げる。

 その言葉を聞いた佐山は、その事実を認識した。
(そうだ、この会社が無くなったら、学校も必然無くなる。奴隷を渡せなければ、俺は奴らに殺されちまう…)
 佐山は蒼白の顔に成りながら
「買え! 何が何でも買いまくれ! お前達の財産を全て注ぎ込んでも、死守しろ!」
 佐山は伸一郎と田口に命令すると、2人は虚ろな視線になって、命令に従った。
 伸一郎と田口は全ての資産、裏金を掻き集め、株を買い漁った。
 午後の取引終了時には、何とか株式の30%を占有できたが、その費用には莫大な借金が含まれていた。

 火曜日の朝が来ると、状況は激変した。
 前日の終値は、ジェネシス社の参入により、竹内グループの株は午前と午後の両方ストップ高に成り、平均の株価は20,000円迄上がった。
 そして、火曜日の市場も朝からドンドン株価が上がっている。
 そんな時、ニュースが流れた。
 ジェネシス・ユニバーサル・ネットワークは、現在の社長を解任しマーシャル・J・フォックス、ジェネシス社金融担当副社長が後任の社長と成った事を発表。
 解任理由は、現社長の専横的な投資による損害が原因であった。
 ジェネシス社は、情報・ネットワーク部門を切り離し、コングロマリットとして経営の見直しを行う、と発表する。
 このニュースの発表と共に、フォックスは日本に投資していた分の損失を全て、純の持つ情報・ネットワーク部門に押しつけた。
 これにより、不動産投資、株価投資で出ていた損益は、全て情報・ネットワーク部門の負債となった。

 この決定により、純は株の購入資金が消え売却を余儀無くされる。
 現在のジェネシス社名義の持ち株、25%を全て売りに出した。
 その売買価格は600億円で有ったが、株価操作に投資した、2,000億円の比では無い。
 この時点で純は1,400億円の損失を出した。
 そして、売りに出された、その株式を4人の外国人が買い漁る。
 マグダエル、ヤコブ、サイモン、そしてフォックス、4人とも純の情報力を知っており、竹内グループに何か価値が有ると読んでの行動だった。
 その行動は素早く、昼過ぎには4人はあっと言う間に7%ずつの株を買い占める。

 伸一郎達は3人の持ち株を合わせ、50%を僅かに越える占有率に成ると動きを止めた。
 いや、どうにも動けなくなったのだ、伸一郎達は持てる財産を殆ど使い、後は田口の所有する土地だけに成った。
 株式市場に流れた竹内グループの株式は、直ぐに4人の外国人に持って行かれる。
 4人はジリジリと占有率を上げ、その影響力を強めようとした。
 伸一郎達は忍び寄る、アメリカ人の驚異を、固唾を呑んで見守った。

◆◆◆◆◆

 真がホテルに戻ると、稔が慌て出迎える。
「真さん、待ってたんです。今朝から、美紀の様子がおかしいんです。少し見て頂けませんか?」
 稔は心配そうな顔で、真に依頼すると
「ええ、解りました直ぐに見てみましょう」
 真はコクリと頷き、後ろを振り返る。
 稔は、その時初めて3人に気付き、会釈をすると真が3人を稔に紹介した。
「えっと、この3人は私の弟弟子です。右から篤、整、悟です」
 3人は稔に頭を下げ、挨拶をすると
「僕は、柳井稔と言います。宜しくお願いします」
 3人に頭を下げて、挨拶をする。
 3人はこの時一目で、稔の事をただ者では無いと見抜いたが、それがどれ程異常な人間か迄は、解らなかった。
 この3人も稔達に触れて、大きくこの世界に足を踏み込んでしまう。
 そして、稔達の計画を陰から支える、重要なスタッフに成るのだった。

 真は3人に部屋を宛がい、稔の後に続く。
 森川家に宛がわれた客室に入り、横たわる美紀を見て真は目を細める。
(気脈が混乱している…。極端に流れが悪くなっていますね…)
 衰弱する美紀を見詰め、真は直ぐに診察に取りかかる。
 真は美紀の身体に手を翳し、その症状を読み取った。
(これは…。人為的な処置ですね…。と言う事は…)
 真は美紀の子宮当たりに手を添え、その症状を見抜く。
 美紀は真を心配そうに見詰め、泣きそうな顔で見ていた。

 真はニッコリと微笑んで、美紀に頷くと
「恐らく生理不順の酷い物だと思います。2〜3日安静にすれば、良くなると思いますよ」
 稔に向かって、説明する。
 稔はホッと息を吐いて、胸を撫で下ろし
「良かった…。美紀、安静にしてて下さいね…」
 美紀にニッコリ微笑むと、部屋を出て行った。
 稔が出て行くと、美紀は真の手をソッと握り
「真様…、有り難う御座います…」
 涙の浮いた目で、真に感謝する。

 真は美紀に向き直り
「どうしてこんな不妊処置をしたんです?」
 心配そうに問い掛けた。
 美紀は真に正直に話した。
 真は美紀の話を静かに聞き、大きく頷くと
「気脈の通りを整えましょう…。それで大分楽に成る筈です。生理不順ですからね」
 ニッコリと微笑んで、気を流し込んだ。
 美紀はその言葉で、心が随分と救われ、昨晩溝口に施して貰った、卵管結紮術による痛みが、真の処置で楽に成った。

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