三つの願い 〜男の夢〜
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■ 第一章「第一の願い」2

「堕落かぁ……」
 車に乗って歩くことが少なくなるのが堕落? そのくらいの堕落だったら別にしてもいいか。でももっと大きい堕落だったら……
「是非、契約してくださいよ。今なら、お二人にティッシュ五箱づつ差し上げます。あと、よみ○○ランドのプール ペアチケットを二組差し上げますよ。プール開くのは来月ですが今から夏が楽しみでしょう」
「ティッシュ下さるんですか。ちょうどコキティッシュがなくなりかけていたんですよ」
 すすむが言った。ノー天気な奴だ。
 でも僕も、いつの間にか“少しくらい堕落してもいいか”と思って願いを真剣に考え始めていた。
決して物に釣られたわけではない。

 僕は考えた。僕は、そしてすすむも、彼女いない歴が年齢と同じだ。お互い顔が悪いとは思ってない。ただ、踏み出す勇気が多分僕たちには足りなかったのかもしれない。
「彼女ほしいな。あいかさんみたいな子が彼女だったらなぁ……」

 すすむはちょっと笑った。
「お前、あいかさん狙っていたのか? さっきのせりふ返すぞ。せっかくの悪魔との契約だ、あいかさんを彼女にする、ではもったいない。あいかさんが期待はずれだったらどうする?」
「なるほど。すすむ、お前にしては良く考えてるな。」
「お前と一緒にいれば少しは伝染るぞ。それにこないだの就職講座でも言われたろう。“就活は会社に入るのが目的じゃない。同じように、何かやるときは、本当の目的を考えろ”って。彼女作るのは本当の目的か? お前は彼女作って何がしたい? 本音で」
 ……僕はちょっと考えた。
「一緒に食事して、デートして……やっぱり……セックスしたい」
 僕は、赤面しながら、それでもきっぱりと言った。
「そうだろう。だから、願いはセックスできるようにするのがいいと思うぞ。
セックスやり放題、というのはどうだろう?」
 すすむはそう言った。

 セックスやり放題……一瞬、僕はその考えに飛びつきそうになった。僕も、そして多分すすむも童貞だ。
 でも、すぐに考えて思いとどまった。
「そういって、たとえばソープ行き放題の券とか出てきてもつまらないだろ。僕はあいかさんとやりたいんだ。お前もやりたい子がいるだろう」
「おお、俺はしほさんとやりたい。」
 しほは、ちょっと男っぽい感じがするが、その分話していて緊張しない。女子にとってもそうらしく、男女共に人気がある子だ。すすむが狙っているのも聞いている。
 すすむは言った。
「じゃあ、いつでも、だれとでもセックスできること、とかは?」
 僕はちょっと考えた。
「それでは、きっと“いつでも”と“だれとでも”で二つ分の願いになってしまいそうだ。限られた願いを大切に使おう。
その内容を一つにまとめられないかなあ……セックスというもの自体を気軽なものにする……
悪魔さん、セックスを気軽なものにする、なんていうのはどうですか?」
僕は聞いた。
「お客様、どの程度気軽にするか指定していただかないと、こちらとしても難しいのですが。たとえば、何とかと同じ程度にする、ですとか」
 悪魔は丁寧に言った。もっともだ。
 僕らはあいかとしほと普段どんなことをしているか考えてみた。
 大学で会ったら、世間話くらいはする。
 帰りは四人で、大学から一緒に帰ってくる……あいかとしほは同じ学科だから授業が終わるのも一緒で、向かいの大学女子寮に住んでいるから方向が一緒、ということで自然に一緒に帰るようになっていた……そのときも普通に話しながら帰ってくる。
「セックスが話すくらい気軽にできるように!」
 僕とすすむは同時に言った。
 僕らは、これはいいアイディアだと思った。想像してもう棒が大きくなっていた。
「それだ、話す!! セックスが話すくらいに気軽にできること……でも、僕たちだけではきっと後でばちが当たる。
“セックスが話すと同じくらい気軽にできる世界”これでいこう」
「おお!」
「悪魔さん、第一の願いを決めました。“セックスが話すことと同じくらい気軽にできる世界”にしてください。この願いは大丈夫ですか?」
 悪魔はうやうやしく頭を下げた。
「かしこまりました。ただし、注意事項があります。このタイプの願いですといきなり世界を変えるとギャップが大きいので、他の方々に“きのうまでもそういう世界だった”という架空の記憶を植えつけることになります。お客様も、きのうまでもそういう世界だった、と思って行動してください。よろしいでしょうか?」
「はい」
 答えながらも、僕の棒はいっぱいに大きくなっているのを感じた。
 悪魔は言った。
「それでは、お客様、ここに願いを書き、ハンコをお願いします。」
 小さい紙を差し出された。三つの記入欄と捺印欄があった。僕は“セックスが話すことと同じくらい気軽にできる世界”と書いて、奥の引き出しからハンコを取り出し、強く押した。
 悪魔はまたうやうやしく頭を下げた。
「ありがとうございます。第一の願い“セックスが話すことと同じくらい気軽にできる世界”受け付けさせていただきました」
 ここでまた稲妻が走り、雷が鳴ったような音がした。
「では、次の願いお決まりの時に、またふたを開けてください」
そういって悪魔は、ティッシュ十箱と券四枚を残してやかんの中にもどっていった。

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