Netに舞う女
羽佐間 修:作

■ 第1章 投稿小説「ちなみ 陵辱」8

――来た! 綾? あれは綾ちゃんだよな?!
 ニットキャップを目深に被り、ロングスカートの女が窓ガラス越しに目の前を通り過ぎ、駅に向って歩いていく。
 真介は、少しドキドキしながら女の子の行く先を見詰めていた。
 やがてニットキャップの女は、証明写真機の前で立ち止まり、辺りの様子を伺ってから写真BOXの中に入ってカーテンを閉めた。
 BOXに入る直前、照明に一瞬きっきりと照らしだされた顔は、やはり綾だった。
――あ〜〜… やっぱり綾だった! 

 真介は、驚いたのと同時に、綾に抱いていた清純な少女のイメージが崩されたようで少しガッカリした気分だ。
――やっぱり牝なんだよなぁ… と言ってもまだ命令を実行するのか分からんか、、、 ん?

 コンビニと証明写真機の中程にある街路樹に足をかけて柔軟体操していた赤いジョギングスーツの女が、証明写真機の近くに場所を移し、中の様子を伺うような素振りでまた体操を始めたのだ。

――誰だ?! もしかして… 香?!
 頭が混乱している。
――やはり亜久里 香が小説を利用して綾に命令しているのか… それともあの女は、俺と同じように小説の世界が現実に行われているのを知っているのか…?
 証明写真機のカーテンの隙間からストロボの光が洩れた。
――少なくとも綾の行動は、あの小説とリンクしている事は確かだ!

 また光った。
――もっとも綾があの中でそんな写真を撮っているというのが前提だが、、、 しかしMr.Mはいるのか? あの女がMr.Mなのか? 
 探偵ごっこのようで少しはしゃいでいる自分に気付き、真介はおかしかった。

 カーテンが開き、綾が出てきた。
 顔は俯いたまま、早足にコンビニの前を通り過ぎた。
 ジョギングスーツの女に目を移すと、綾の後姿を目で追っているようだ。
 やがて、証明写真BOXに近付き、写真の取り出し口を見詰めている。

 真介は、慌ててコンビニを飛び出した。
――くぅ〜〜! 悩むぜ! どっちを追跡する?! 
 綾の家も確かめたい! しかしあの女の素性も確かめたい。
――綾はいずれまた会うことが出来る事を考えればこの女をつける方が正解だな。
 そう考えた藤堂は、女を追う事に決めた。

 きっと写真を取り出すだろうと思っていたら、何と女はBOXの前から立ち去り、走り出したのだ。
「げっ!何で? 勘違いか…」
 とにかく真介は証明写真BOXに向って駆け出した。
 女の姿はまだ数十メートル先に見えている。
 BOXの写真取り出し口には確かに何かあった。
 取り出してみると、証明写真風の写真が1枚あった。
 真介はそれを見てドキッとしたが、直ぐに笑いが込み上げてきた。
「くっくっくっ 綾!」
 自分でロングスカートを茶巾のように捲り上げ、サイドが紐の白い小さなパンティを穿いた下半身が6枚焼き付けてあった。
 目を凝らすとフロントのレースから微かに陰毛が透けて見えているのだ。
――綾ちゃんの一番いやらしいパンツなんだね

一瞬迷ったが、真介は写真を元に戻し、ジョギングスーツの女を追いかけた。 
 女が香であってもなくても写真を持ち去ってしまうと、小説の進行に支障が出そうな気がしたのだ。

 走り出してまだ3分程だというのに、日頃の酒びたりの不摂生のせいで息があがってきた。

「ひぃ・・・ もうだめだ・・・」
 諦めかけたところ、女がマンションの中に消えた。
 真介は気力を振り絞ってエントランスに駆け寄った。
 新しいとはいえないマンションは、集中ロックシステムではなかったので難なく中に入ることが出来た。
 エレベータは上昇し、5Fで止まった。
 タイミング的にあの女が乗っているに違いない。
 エントランス横にある郵便受けに回ってみた。
「5階、5階と…」

――6部屋かぁ、、、 あの女が「亜久里 香」だとしても、本名のわけはないなぁ。 う〜ん… あの女、どう見ても所帯持ちには思えない…

 ファミリーを想起させる書き方をしているネームプレートが3件あった。
 残る3件の内、1件は外人の名前が書いてある。
 後の2件は、501号 菊池と、505号 佐藤とどちらも苗字しか書いていない。
「おそらくどちらかだろうな…」
――とりあえず今日は引き上げるか… そうだ!写真だ!

 真介は、噴出す汗を拭い再び駆け出した。
 誰かがあの写真を回収にくるはずなのだ。
 小説では、それがMr.Mのはずだが…
――誰なんだ? Mr.Mは…

 悲鳴を上げる身体を鼓舞して駅までの道を必死で駆けた。
――何をバカやってんだろ?!俺は、、、
 苦しいのに、何故か笑みがこぼれてしまう。
 知らない人が見たら、変な親父に見えるんだろうなぁと考えると、余計に可笑しくなり真介は、笑いながら駆けていた。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊