「脱ぎなさい」「はい……」
ドロップアウター:作

■ 羞恥の舞い1

 私が裁断室にいるのは、別に頼まれたからではない。舞踊部の顧問として、少女にある事をさせるためだった。身体測定の補助をしているのは、そのついでだった。
 森川真由子という少女は、一言でいえば真面目で大人しい感じの生徒だった。八名いる部員の中でも、あまり目立つ方ではない。
 ただ、一生懸命な少女だった。一日も早く部の雰囲気に馴染もうと、よく努力していた。口数は少ない印象だったが、他の部員達と協調して活動に励んでいた。

 裸身の少女は、艶やかな髪を鏡の前で結い直すと、一瞬かすかに微笑んだ。おさげの髪は、少女にとって何か儀式的な意味があるのかもしれない。それでも、すぐこわばった表情に戻ってしまったけれど。
「森川さん」
 名前を呼ぶと、少女は一瞬びくっと体を震わせた。
「……はい」
 こちらに向き直ると、恥ずかしそうに胸の前で両腕を交差した。羞恥心の強い年頃だから、見られるのは同性であっても辛いのだろう。色白の頬が赤くなって、哀れに感じた。
「今から、あなたの技能チェックをするから」
「えっ、技能チェック……ですか?」
 技能チェックというのは、舞踊部が身体測定の後に行っている技能のテストだった。まだ服を着ていない部員達を集め、練習した動きができているかチェックする。もちろん生徒には嫌がられるが、裸だから体の細かい動きが見えるし、緊張する分本当に身に付いているかどうか分かるのだ。
 説明すると、少女はこくっとうなずいた。
「分かりました。頑張ります」
 少し痛々しいほど、健気な返事だった。少女が全く逆らわないのが、私には意外だった。いかに大人しい性格の子とはいっても、かなり抵抗感のある指示のはずなのだ。
 もう一つ、少女に追い打ちをかけることを告げた。
「始める前に……パンツ、脱ぎなさいね」
「えっ、ぱ……」
 少女はとっさに、内股の部分を押さえた。
「初めてだから、全身見せてね。一年生の子達は、今でもそうさせているから」
 珍しく返事もせず、少女はうつむき加減になった。さすがに動揺したのか、体中が小刻みに震え出した。人前で全裸になる……思春期の女子にとっては、耐え難い苦痛だろう。
「はい……」
 か細い声の返事を聞いて、驚いた。
 またも、少女はあっさり指示を受け入れた。逆らうどころか、理由を問うことさえしない。
 本当に少女は従順だった。こちらの気が引けるほど、何を言われても素直に従っていた。自分を辱める相手に敬意さえ忘れず、恥ずかしさに懸命に耐えていた。
 逆らっても仕方ないと、観念しているのだろうか。あるいは、「一年生の子達」という言葉が効いたかもしれない。生真面目な性格の子だから、自分だけ逃げるということは嫌なのだろう。
 背の高い私を見上げて、少女は尋ねた。
「今ですか?」
「そうよ、早く脱ぎなさい。もう始めるから」
「はいっ……」
 少女にしては珍しく、媚びるような返事だった。何をされるか分からない状況で、少し怯えているように見えた。
 それから、少女はためらいがちに右腕を下ろして、パンツのゴムの部分をつかんだ。この期に及んで胸を隠そうとする仕草が、ちょっと切なかった。
 ゆっくりと腰の辺りから露出させていくように、少女は下着を降ろしていった。だが、やはり恥ずかしいのか、途中で手を離してしまった。
「自分で無理なら、脱がせてあげようか?」
 意地悪ではなく、親切のつもりだった。実際、少女にとってかなり酷な作業に思えた。
「いえ、大丈夫です……ごめんなさい」
 別に責めたわけじゃないのに、少女は泣きそうな顔になった。
 そして、もう一度……パンツに親指を引っかけると、一気に膝まで降ろした。ためらう必要はもうなかった。少女は片方ずつ足を上げて、下着をつま先から抜き取った。

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