お姉さんの種
一月二十日:作

■ 6

「女の人はね、褒めてあげるものなんだ。」
「褒める?」
「そう、褒めてあげるとずっとずっと綺麗になっていく。」
「どうして?」
「さぁ、どうしてだろう?」
そんな会話をしながら男と二人でじっとお姉さんのもうひとつの種を眺めていた。
それはとても神聖な時間に思えた。
お姉さんのもうひとつの種…小さな生まれたてのネズミの頭は、時々ジュルジュル湧いて来る水の中に溺れそうになっていた。
そのたびに男が口を当てて水を吸い取った。
その時ネズミの頭は目一杯口を突き出して、男の口に「もっと吸ってもっと吸って」と言うようにおねだりした。
当のお姉さんは「あっああっあったあたったあ…」と赤ん坊の言葉みたいな声を上げながら、上半身をあちこちへひねっていた。その手はふたつの突起を痛いくらいつまんでいた。
「かわいいって。君の弟がかわいいって言っているよ。」
男はお姉さんに話し掛けていた。
「うん、姉さんのあそこかわいい。」
僕は男が言うように褒めてみた。
「そう、それでいい。もうおしっこだけじゃだめだよ。」
そう言うと男は長い舌を出して、真面目な顔をしてお姉さんの腿を舐め始めた。僕はただ黙って男の動きを眺めていた。

大人はどうして体を舐めるんだろう?
「ねえおじさん、どうして体を舐めるの? なにか味するの?」
男はさっきからぺろぺろぺろぺろお姉さんの腿ばっかり舐めていた。僕はどうしてもニワトリの太股を舐めているようにしか見えなかった。
男は舐めるのをやめた。そして僕の方を見た。
「味…そうだな、味と言えば味だけど、辛いとか甘いじゃないんだ。」
「じゃ、どんな味なの?」
「すっぱいかな?」
「姉さんはすっぱいの?」
「いや、すっぱい所を探してるんだ。」
「え? どういうこと?」
「わかんないな。なんて言うのかな? …なぁ坊や、嫉妬って言葉知ってるか?」
「しっと?」
「あぁ、嫉妬だ。」
「知らない。」
「好きな人いるか?」
「う〜ん、いない。…あ、今はお姉さんが好きかな?」
「なぁ、僕は好きか?」
「う〜ん…」
「君の姉さんを舐めてるんだぞ。」
「それはなんかいやだ。」
「悔しいか?」
「う〜ん、ちょっと悔しいかも。」
「それが嫉妬だよ。さ、続きをするよ。」
悔しいのが嫉妬って言うのか…
でもそれと舐めることがどう関係あるんだろう?
男はまたお姉さんの腿から膝を舐めて、そして脚を掴んで上げて、踵をぺろぺろ舐めて、反対の脚上げて、また踵舐めてる。
すっぱい所、見つかったかな?
「ねぇ、すっぱい所あった?」

「ある。」
「どこどこ?」
「この辺かな?」
男が教えてくれたのは踵の辺りだった。
なんかとても無造作にお姉さんの脚を片方持ち上げて男は説明した。
お姉さん、ロボットみたいに脚を上げられた。
僕はお姉さんの脚の裏側にいた。
お姉さん、恥ずかしくないの?
だって、あそこ丸見えになってるよ。
さっき見たネズミの子供のあるところ。
あ、なんか垂れてる。
お姉さん嬉しいの?
「ここに微かなすっぱさがある。」
「それがしっと? とどう関係があるの?」
「お姉さんの嫌な部分だろうな。」
「どう、嫌なの?」
「まだ子供だなぁ。」
「え?」
「女の人は綺麗好きなんだ。すっぱい匂いはね、汚れた所に黴菌が寄って来て出す匂いなんだよ。」
「じゃ、汚いの?」
「そう、汚い。だから嬉しい。」
「わかんないよ。」
「いずれ分かるさ。」
と言って男は今度は丸見えのあそこに顔をやった。

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