人身御供
非現実:作

■ 怪奇伝6

そろそろ帰ってしまおうかとも考えていた頃、ようやく総布兵重が城に戻ってきた。
従う者は魏志四郎と、もう1人の老人。
(む?)
その老人は、私がここに来る前に軍師であった者で、名を風見甚五郎という。
私とは折り合いは悪い。

「えらく待たせたな」
「……ええ……随分と待ちました」
「色々と見て回らなければならなかったのでな」
「そうでしたか」
「で、軍師殿は何をしていたのだ?」
「最前線の考案を……」

私は、島の地図を押し出して扇子で海をなぞった。

「それはご苦労な事よ」
「じゃがな……その必要は無しじゃよ栄弦殿」

降格したのが恨めしいのだろう、この風見甚五郎は私を軍師とは呼ばない。
私の案に何かと突っ込む面倒な老人だった。
クダラナイ……そんな事で争う気など私には毛頭無い。

「何故に?」
「総布様……」
「うむ!」

わざわざ党首の口から云わせるつもりらしい。
(ほぅ、やけに自信有り気なものよ)
ゴホンとワザとらしい咳をした後、考えられない言葉を聞くことになった。

「これより可木家を攻める」
「……なっ!?」

絶句する私に、たたみ掛ける総布兵重。

「戦じゃっ、戦……報復戦を行うのだっ!!。
罪無き民の無念を晴らすのじゃっ!!。」
「…… ……」
「明後日、可木へと乗り込むので心しておけよ?」
「……」

何を言っているのか、一瞬思考が止まった。

「軍師殿には、攻め手の思案をして頂く」
「……」
「ふむ、栄弦殿なら良き手を考えるであろう」
「お、お待ち下さいっ!!」
「もう既に決まった事である」
「ぜ、前線は…… ……如何するおつもりか?」

ニヤリと笑う総布兵重。

「軍師殿が残ってやればよかろう?」
「……戦に私は必要無しと?」
「策さえ頂ければ……」

魏志四郎が始めて口を割って出た。
脳までの筋肉な魏志に話しても仕方ない、私は無視して総布へと向き直った。

「お待ち下さい、党首たる者がこの最前線を再築するのが一番なのですっ!」
「何故に?」
「この地を守護するお方が直々に行う事で、民は一層の忠誠を誓うでしょう」
「……ふむ」

それも悪くないという感じの党首。
もう一押し……。

「その必要は無いでしょう、むしろそれは栄弦殿にあるのでは?」
「っ!」

流石に頭脳を買われていただけある、絶妙な遮り方だった。

「そうだな、ワシは既に民から絶大の支援を得ている。
日が浅い軍師殿が行い、民の信頼を得ればよい。」
「……あ、有難き」
「よぅし、では決まりだ」
「もう遅い時間、そろそろお開きに致しましょうか?」
「うははっ、寝るかのぉっ!!」
「はっはっは、それがよろしいかと」

意気揚々に出て行く3人と、してやられた感で一杯の座ったままの私。
ふと視線を感じ、その行方と視線を送ると……。
最後に出て行く風見甚五郎が振り向いて、立ち止まっていた。
フフッと鼻で笑った後、ゆっくりと立ち去ったのだ。

「乱取り…… ……そうまでもして」

扇子を握り締めて呟いた。

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