隷属姉妹
MIN:作

■ 第2章 支配の檻20

 好美は恵美の呟きで、笠原が自室に戻った事を理解し
「もう寝たの?」
 眉を顰めて嫌悪感を顕わにして、顎で両親の寝室を指しながら、恵美に問い掛ける。
 恵美はコクリと顎を引いて頷き
「ええ…さっき…」
 泣き腫らした自分の顔を、好美に見せたくなかった恵美は、そのまま項垂れて小さな声で答えた。
 好美はそんな恵美の仕草を見て、笠原が何か酷い事をしたと理解し
「お姉ちゃん…何かされたの?…その…酷い事や…えっと…、エッチな事とか…」
 心配そうな顔で、口ごもりながら恵美に問い掛ける。
 恵美は好美の質問に、ビクリと肩を震わせ強張り、直ぐに力無く首を左右に振り
「何も…。何もされてないわ…」
 弱々しい声で答えた。

 だが、好美は恵美の答えで、疑念を確信に変え
「う、嘘よ!じゃなかったら、お姉ちゃんがそんな風に泣く訳、絶対にないわ!」
 詰め寄って恵美に問い掛ける。
 恵美は弾かれたように頭を上げ、泣き腫らした顔を好美に向けると
「本当に何もされて無いのよ…。お願いだから、それ以上聞かないで…」
 必死な表情で好美に告げた。
 明日の朝になれば、一目瞭然に知られる事だったが、恵美は笠原の命令をどうしても好美達に教えたく無かったのだ。
 好美は恵美の懇願で、自分の追求が姉を更に追い詰めている事を知り、言葉を呑み込み顔を背けて項垂れ
「ご、ごめんなさい…」
 小さな声で恵美に謝罪する。

 そんな遣り取りをオロオロとしながら見ていた愛美が、堪らず恵美の肩に抱きついて
「おねぇちゃん!」
 恵美を呼びながら、ギュッと腕に力を込めてしがみ付き、心配そうな顔で覗き込む。
 恵美は愛美を心配させてしまっている事に気付き、優しい微笑みを浮かべると
「愛美今日はもう遅いし、貴女達は寝なさい。お姉ちゃんは、今日は用事が有るから自分の部屋で寝るのよ…」
 愛美の頭を撫でながら、優しく伝えた。
 両親を亡くして不安を感じていた愛美は、いつも理由を付けて恵美のベッドで、一緒に眠っていたのだ。
 愛美は恵美を心細そうな顔で見詰めたが、コクリと頷いて無言で答える。
 愛美をいたわり、気持ちが落ちついた恵美は、好美に視線を向けると、好美は強張った表情で恵美の右手を見ていた。
 恵美は好美の視線に気付き、咄嗟に右手を背中の後ろに隠して
「好美も早く眠って。今日は、色々有ったから疲れたでしょ…」
 笑顔を取り繕って好美に告げる。

 好美は強張った表情を浮かべたまま
「お、お姉ちゃん…それ…」
 恵美に問い掛けようとしたが、恵美の表情を見て気持ちを察し[犬の首輪?]と言う質問の言葉を呑み込んで項垂れた。
 頭の回転が速い好美は、全てを語らずとも恵美の態度で、笠原の命令を半分まで理解する。
(お、お姉ちゃんに…[犬の首輪をしろ]って言ったのね…。ううん…、それだけなら、お姉ちゃんはあそこまで泣かない…。多分、それ以上の恥ずかしい事…もっと酷い条件を付けられてるんだわ…。可愛そうなお姉ちゃん…)
 好美は唇を噛んで、笠原の横暴に怒りを覚えながら、その矛先を向けられた大好きな姉を心配そうに見て
「お姉ちゃん…、愛美は今日は私が面倒見るから…」
 笑顔で恵美に告げた。
 その好美の笑顔はぎこちなく強張り、引きつった物だったが、恵美の気持ちを理解している事が、痛い程伝わる物だった。
「好美…。ごめんね…。有り難う…」
 恵美は好美の微笑みに目頭が熱くなり、声を詰まらせながら謝罪と感謝を告げる。

 好美は頭をブンブンと左右に振り
「愛美、今日はお姉ちゃんと寝よ…」
 恵美にしがみ付いていた愛美に手を伸ばす。
 愛美は好美の差し出した手を見詰め、恵美の顔に向き直り
「おねぇちゃん…、今日は好美ちゃんと寝るね…」
 小声で伝えて恵美から離れ、好美の手を掴んだ。
 愛美も恵美と好美の態度から、今が只ならぬ状態だと理解し、好美の言葉に我が儘を言わず従う。

 三姉妹は供に人を気遣い、思いやりを大切にするように、両親に育まれていた。
 そして、三姉妹は両親の愛情や思いを真っ直ぐに受け止め、とても利発で優しい人間として育ったのだ。
 恵美は愛美の頭を優しい笑顔を浮かべて撫で、好美の頭を肩口に引き込んで、ギュッと抱きしめ
「有り難う…」
 好美の耳元に、心からの感謝を告げる。
 好美は恵美の背中に手を回し、同じように抱きしめ返すと
「お姉ちゃん…私も頑張るね…」
 恵美に涙声で告げた。
 愛美はそんな姉達に抱きつき
「愛美も、もう我が儘言わない。なんでも我慢するね」
 幼いながらも決意を固める。

 三姉妹はその姿のまま、暫く抱き合いお互いを慰めた。
 そして、恵美が抱きしめた腕の力を抜き
「もう、遅いわ…。貴女達は、早く寝なさい…」
 優しい落ちついた声で、好美と愛美に告げる。
 好美と愛美も落ちついたのか、恵美の言葉に素直に頷くと
「うん。それじゃ、お姉ちゃんもう寝るね…。愛美、行こう…」
 恵美に答えて2人で恵美から離れた。

 好美と愛美が恵美に背を向ける。
 その途端、恵美の中で笠原の命令が蘇り、また涙が込み上げた。
 恵美は、リビングを出ようとした好美の背中に
「好美…、お姉ちゃんを軽蔑しないでね…」
 思わず心の声を伝えてしまう。
 好美は恵美の身を切るような声を聞いて、勢い良く振り返る。
 好美の目に、涙をうっすらと浮かべ、苦しそうな表情をする恵美が映った。
 それは、いつも自分を優しく諭すように見詰める[年の離れた姉]の顔では無く、1人の懊悩する儚い女性の顔だった。
 好美はそんな恵美の表情で、心が引き裂かれそうに成ったが、グッと唇を噛みしめ力強く頷く。
(大丈夫よ!私は絶対にお姉ちゃんを軽蔑なんかしない!)
 好美の表情と仕草には、そんな強い言葉が込められる。

 恵美は好美の表情と頷く仕草を見て、心の中に多くの感情が渦巻いた。
 それは、頼もしさで有り、嬉しさだった。
 それは、安心感で有り、信頼感だった。
 それは、喜悦で有り、安堵だった。
 そんな様々な感情が奔流として溢れ、混沌と混ざり合いながら、恵美の心を暖かい物で満たす。
 恵美は思わず両手を合わせ、好美に頭を下げる。
 好美は涙を流し自分を拝む姉を見て、胸が締め付けられ、涙が溢れそうになった。
 姉の抱え込んだ、その辛さや悔しさ、屈辱を思い浮かべると、何も出来ない自分が情け無かった。
 だが、好美は自分がここで涙を流し取り乱すと、愛美を不安にさせるだけだと気付き、グッと涙を堪え
「さぁ…、行こう…」
 愛美の手を引き、出来るだけ明るい声で促した。
 愛美は小さく頷き、拝み泣く恵美に目を向ける事無くリビングを出て行く。

 好美の心遣いを感じながら、安堵の溜め息を吐いた恵美は、手の中に残る感触で現実に戻る。
 現実に戻った恵美は、リビングに1人残った自分の状態を振り返った。
 自分の小便で汚れたスカートとブラジャーを身に纏い、入浴すら許されない惨めさ。
 パンティーを脱がされ、捨て去られた情けなさ。
 アナルを押し広げられる異物感。
 そして、これから自分が取らなければ成らない事に対する、激しい屈辱と羞恥。
 それらを思い出した時、途端に恵美は孤独感を感じ、自らの身体を両手で固く抱きしめる。
 だが、恵美は悲嘆に暮れている訳には行かない。
 笠原に出された指示を終わらせていなければ、明日の朝には自分の身に降り懸かるだけでは無く、今自分を力づけてくれた、愛する妹達にも及ぶのだ。
 恵美は項垂れてノロノロと立ち上がり、リビングの出入り口に向かう。
 壁際の照明スイッチを切ると、リビングを出て行った。

 いつも家族の笑いが絶えなかった暖かなリビングは、この日を境に過去の物となってしまう。
 笠原に背負ってしまった、莫大な借金。
 笠原と交わしてしまった、法的な契約。
 笠原が持っている、深い裏家業との繋がり。
 笠原の示す、圧倒的な暴力。
 そして、全てを操るような、笠原の狡猾さ。
 それらが、幾重にも折り重なり、恵美達を雁字搦めに縛り上げ、自由を奪い、見え隠れする暴虐性が、反抗心を押し潰して行く。
 笠原はこうして、初日に恵美達の立場を浸透さ、支配を構築する。
 笠原の支配により、この日を境に、家族の団らんの場だったリビングは、恐怖の対象へと変わり、自慢だった洒落た洋風の自宅は、恵美達姉妹の檻と化した。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊