隷属姉妹
MIN:作

■ 第4章 突き付けられる選択9-6

 警察が帰った後、笠原は愛美を手すり代わりにして、身体を支え車椅子に乗ると、廊下を進み玄関前に移動する。
 近所の者に謝罪した恵美と好美が玄関を開け、待ち構えた笠原を目にし、土間に立ち尽くすと、笠原は寝間着の前をはだけ、ひっかき傷で血だらけに成った身体を晒し
「さぁ、コレについての落とし前…。どう着ける気だ?」
 淡々と問い掛けると、恵美は改めて笠原の身体を見る。
 自分がした事とはいえ、酷いひっ掻き傷が笠原の胸や喉に走っていた。
 中には、皮膚が抉れ血が滴っている傷も少なくない。
 恵美は、自分のしでかしてしまった事に、追い詰められ、或る事に気付いていなかった。
 そう、それは恵美と笠原の腕力の差で有る。
 トラック運転手だった笠原と看護師といえど華奢な恵美との腕力の差は、かなりの開きが有った。
 笠原がその気に成れば、恵美の腕を掴んで完全に攻撃を回避できたのだが、笠原は敢えてそれをしなかった。
 目などの爪が食い込めば取り返しの付かない場所への攻撃だけを避け、後は恵美の好きにさせたのである。
 そう、反抗の証としての傷跡を笠原は恵美に着けさせたのだ。

 自分が嵌められた事にも気付いていない恵美は、ブルブルと震えながら土間に平伏し
「も、申し訳御座いません!気が動転して、自分でも良く覚えて無く…」
 謝罪しようとすると
「へぇ〜っ。気が動転すりゃぁ、何しても許されるんだ…。覚えて無けりゃぁ、責任は取らなくて良い…。そう言う事か?」
 笠原が恵美の言葉を遮り問い掛けると、恵美はグッと言葉を呑み込む。
 何も言えなく成った恵美に、笠原は携帯電話を翳し
「それじゃぁ、俺は出て行くわ。こんな目に遭わされる所に居たら、おちおち夜も眠れ無ぇ。3億円で何処か静かに暮らせる所に、引っ越すわ。んじゃぁ、おまえ達は、どこかの国で生を満喫してくれ」
 プラプラと揺らしながら言い、掌に取って手首を返し携帯電話を開く。

 その瞬間、恵美の身体がバッと起き上がり、そのまま笠原の腕に飛び付いて、携帯電話をひったくる。
 余りに唐突で素早い恵美の動きに、笠原も反応しきれず呆然とすると
「お願いします!許して下さい!今度こそ!心の底から誓います!笠原様に危害を加えた事も、心の底から謝罪します。どのような罰も、甘んじて受けます。二度と…、二度と…、逆らいません…。ですから…、ですから…。海外の方に…、お売りになる事は…。お許し…願えないでしょうか…」
 恵美が涙ながらに笠原に懇願すると、好美は恵美の懇願に呆然とし、愛美は笠原の後ろで蒼白に成りながら、ガタガタと震える。

 恵美の涙ながらの必死の懇願に、好美は理解が追いつかず呆然とする中、愛美が笠原の足にしがみつき、引き攣った愛想笑いを浮かべ
「おじ様。愛美、これからもいっぱい頑張るし、おじ様の事、いっぱい気持ち良くさせるし。何でも言う事聞くから、お姉ちゃん達をどこかにやらないで!お願いします!」
 涙をボロボロ流しながら必死に懇願する。
 2人の必死さが、笠原の告げた海外での扱いから来ていると察した好美だが、その非合法性や現実感の無さから、笠原の告げた扱いを殆ど信じて居らず、内心で[何を騙されて]と思いながらも、ここは同じように懇願した方が、場が収まると考え同じように平伏し懇願した。
 こうして、スナッフフィルムを見た恵美達と、見ていない好美の意識に温度差が生じ、徐々に大きく成って行く。

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