真梨子
羽佐間 修:作
■ 第3章 目覚め9
−秋 山− 5月24日(火)
目覚めると、心の暗雲を振り払うように勢い良くカーテンを開けた。
今日も良く晴れていい天気だった。
「う〜〜ん! ふぅ〜…」
思い切り伸びをする。
――それにしても昨日は、何という一日だったんだろう…
真梨子は目覚めのコーヒーを飲みながら、思い返していた。
朝、翔太に電車で痴漢され半ば求めるようにして快感に浸り、奈保子に連れて行かれたSMバーでは淫らな姿を晒して濡らしてしまった。
そして、何より翔太が真梨子の名前を知っていた事が気に掛かり頭から離れない。
いくら思い出そうとしても翔太に繋がる記憶には辿り付けなかった。
ドレッサーに向かい化粧をしながら、淫らな言葉が頭をよぎる。
『明日はパンティを穿き忘れてきてください。 ま・り・こ・さ・ん!』
翔太の声が鮮やかに蘇る。
チェストの引き出しを開け、幾日か前に会社帰りに浩二との時間を想いながら買ったローズピンクのブラ・ショーツセットを手にした。
奈保子に言われたワイヤーのないタイプのブラジャーだった。
揃いのガーターを留め、少し濃い目のベージュのストッキングを合わせた。
昨日と同じように、椅子に片足を乗せ、股間を鏡に映す。
浩二のラビアリングをそっと外した。
まだ指定された3両目に行って翔太に身を委ねるかどうかを決めている訳ではない。
止めようと思えばいつでも止められる。
指定された電車に乗らなければいいだけだ。
淫らで理不尽な要求に苛まれているその事を、真梨子の身体が悦んでいるのを未だ自覚していない。
しようとしていなかったといった方が近いかもしれない。
真梨子の無毛の秘貝はすでに潤んでいて、花園には恥かしい液体がたっぷりと滲み出しているのが判る。
クローゼットからグレーのボックススカートと薄いピンクのブラウスを選ぶ。
――ショーツはどうしよう… 穿かないでいくの?… でも、もうあんな事はダメだわ… そのうちきっと周りの人にばれてしまうわ…
合せ目からこぼれ出していた淫汁をティッシュで丁寧に拭き取り、ショーツに足を通した。
ショーツはフロントに薔薇模様のメッシュがあり、バックはTバックタイプで白磁のような尻肉のほとんどが露になったセクシーなシルエットが鏡に映る。
「いってきます…」
写真立で微笑む浩二に挨拶した。
シューズボックスを開け、濃いこげ茶のパンプスを選び静かに床に置いた。
「ふぅ…」
少し考え込むような仕草をした後、真梨子はおもむろにスカートの中に手を入れ、ショーツを下ろし始めた。
足を上げ下げする度に、股間のピアスが内腿に触れ存在を意識させる。
くるっとショーツを小さく折りたたみ、バッグにしまう。
――あああ…私、何をしようとしてるの!? こんな事して… ショーツも穿かずに電車に乗って、しかも従属の証のピアスまでラビアに付けて… 何でこんな淫らな事に従わなきゃいけないの…… 浩二さんに叱られる… やめなきゃ!… 止めないと大変な事になってしまうかも… やめなきゃ…
淫らな誘惑に押し流されようとする自分を懸命に叱る真梨子…
そう思いながらも、動きは止まらず、震える爪先をパンプスに差し込んでゆく。
少し震える指でドアチェーンを外し、鍵を回しゆっくりドアを開けた。
――ああああぁぁぁ… ダメ! やめなきゃ… わたし…
暫く立ちすくんでいたが、やがて廊下へ身体を移した。
後ろ手に閉じたドアが、ガチャンと鳴った。
駅へと、物憂げに歩く真梨子は、頬を染め、目は潤んでいた。
駅から流れ出てくるオフィスに向かうサラリーマン達が怪訝そうに真梨子を見ながらすれ違っていく。
体調不良をおして無理に出勤するOLと見えなくもなかった。
◆
――どうしよう…
ホームに向う階段の中程からホームに立つ翔太の姿を見つけた。
真梨子にはまだ気付いていない様子だ。
――マ・ゾ・お・ん・な
昨日、翔太の口がそう動いた瞬間に感じた衝撃を思い出した。
――ああぁぁ… 今日は貴方の望み通りショーツすら穿いていないのよ、わたし…
翔太が、真梨子に気付いたようだ。
――あぁぁ… 見つかっちゃた… どうしよう…
魅入られたように真梨子は翔太に向かってゆっくり歩きだしていた。
真梨子は指定された隣の車両の位置で立ち止まる。
――ああぁぁ… 止めるのは今しかないわ…
翔太が真梨子をじっと見ている。
ホームの上で10メートル程離れた位置で見詰め合う形になった。
逡巡する仕草を見せる真梨子に向かって、翔太の口が動いた。
(マ・ゾ・お・ん・な)
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