真梨子
羽佐間 修:作
■ 第9章 肉人形5
− 新たな監視者 − 8月26日(金)
梶が入院してからは、オフィスで真梨子に淫らな命令を下す者はいない。 服装も従来のシックな装いに戻し、肌を露にして羞恥に頬を染める事もなくなった。
それは菅野久美も同じはずなのだが、未だに肌を露出した扇情的なファッションに身を包み勤務している。
今日もキャミソールの下にはブラジャーを着けていないようで、どうしてなのか真梨子は気掛かりだった。
しかし梶に嬲られ、あずみと3人、女どうしで絡み合い淫らな痴態を晒したげく、久美の秘貝に注がれたザーメンを舐め啜らされた民自党奥様会の後の慰労パーティーからは、以前のように屈託に話すことが出来ず、仕事上の必要な会話しか交わせないままでいる。
それぞれの担当の仕事で外出することも多く、オフィスで二人きりになることは滅多にないのが救いだったが、今日は秋山が外出してからは、久しぶりに久美と二人きりになり、それぞれがパソコンに向かって重苦しい時間を過ごしていた。
「ただいま〜」
「あっ、お帰りなさい」
「お疲れ様でした」
気詰まりな空気は帰社した秋山の明るい声で一気に払拭され、真梨子はホッとした表情を浮かべた。
「羽佐間さん。 久美ちゃん。 ちょっと来てくれますか?!」
二人は秋山のデスクの前に立つ。
「これ、新しいIDカードです」
秋山がパスケースに入った真新しいカードを二人に差し出した。
「あ、はい」
「新セキュリティーシステム、いよいよですね」
「ああ。」
ICチップが埋まったカードを使ったセキュリティーシステムは、真梨子達のプロジェクトのシステムの一つで秋山が担当している。
真梨子は、カードを手にすると、裏面に自分の陵辱画像が貼り付けられた梶が細工したカードを勤務の間中首に掛け、人前で裏返ってしまわないよう腐心して過ごした日々を思い出す。
「来週からこのカードに切り替えるよ。 今のカードは月曜日から使えなくなるからね。 旧いカードは今日退社するときに返却してください」
「あっ、はい、、、」
真梨子は首に下げているカードを秋山に渡すことを考えると不安になった。
梶が入院し、真梨子の赴任期間中の復帰が難しいとわかってから、裏面の画像を消そうとしたが、表面がコーティング加工されていて削り取る事が出来なかった。
やむなくマジックで黒く塗りつぶし、その上に市販のシールを貼ったものを使っている。
厳密には恥ずかしい画像はシールの下に残っているわけで、秋山に渡すのは何とも不安を覚えた。
――失くした事にしちゃおうかしら、、、
「どうしたの、羽佐間さん。 何だか憂かない顔して、、、何か心配事でもあるの!?」
「あっ、いいえ」
「そう!? ならいいけど」
「あっ、そうだ。 久美ちゃん。 吉岡専務秘書の裕美さんが仕事が終わったら専務室を覗いてくれって言ってたよ。 急ぎの用がないなら今日はもうあがっていいから。 最近彼女とは仲良しみたいだね」
「あっ、、、はい、、、 時々食事をご一緒してます、、、 じゃあ、お先にあがらせていただきます」
裕美の伝言を聞いた久美の顔が、一瞬妖しく輝いたように真梨子には見えた。
デスクに戻り、システムの終了作業をしている久美を横目に秋山が声を潜めて真梨子に囁いた。
「羽佐間さん。 もしかして気にしてるのはIDカードの事かな?」
「えっ!?」
――ま、まさか、、、
「いいえ、、、 どういうことでしょう?」
「わかんないの!? ふっ、まあ、いいや」
「じゃあ、お先に失礼しま〜す」 帰り支度を整えた菅野久美が、二人に挨拶をした。
「はい。 おつかれ〜。 久美ちゃん、素敵な週末を!」
「はい。ありがとうございます」
久美がプロジェクトルームを出て行き、秋山と二人きりになった。 真梨子を言い知れない不安が包み込む。
「さてとっ、、、 今夜は僕達も早仕舞いしませんか?! 羽佐間さん」
「はい?!」
秋山が意味ありげに口にした”僕達”という言葉が真梨子の心に棘のように突き刺さった。
「久しぶりに一緒に食事でもどう?!」
「あっ、、、 今日は、、、」
「ふふっ。 連れないこといわずに少しだけ付き合ってよ。 梶さんから引き継いだこのプロジェクトも、羽佐間さんのおかげで何とか無事に終われそうな目処もついたしさ。 、羽佐間さんにお礼をしたいんだ」
「そんなぁ、私、お礼だなんて、、、」
「まあ、まあ。 今日からはお返しにもう一人の羽佐間さんの病気のケアもしてあげようと思ってね」
「は、はい?! もう一人の私の病気、、ですか、、、!?」
「ああ。 いや、本当の羽佐間さんというほうが正しいかな!?」
真梨子の血の気がひき、唇が震えて止まらない。
「なっ、何のことを、、、」
「うふっ。 梶さんの仕事を引継いだ時さあ、あの人のパソコンの中にパスワードが掛かっててどうしても開けないファイルがあったんだけど、昨夜やっと解読出来たんだ。 中身を見てぶったまげちゃったよ、羽佐間さん」
「うっ、、、」
――うそ、、、 まさか、、、 そんな、、、
「ねっ、羽佐間さん。 これって知ってる?! 東京支社の梶さんのロッカーで見つけたんだ」
秋山がディスプレイの陰から真梨子の前に置いたのはドール・ユリのミニチュアだった。
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