転校生
二次元世界の調教師:作
■ 1
夏休みは8月いっぱいあるもんだと思っていたが、俺の通う高校でも今年から8月の最終週に2学期の始業式をやる事になった。しかも初日から、実力試験、ホームルーム、そして6限まで授業を終えた後に式があるという、息つくひまもないハードスケジュールである。
だが皆不満たらたらで登校して来たわが2年C組の教室は、朝のホームルームで担任のハゲが連れて来た見知らぬカワイコちゃんの登場で、一斉に色めきたった。
「今日からこのクラスに転校して来る事になった武市さんだ。」
「武市美菜子です。
よろしくお願いします。」
(オ、オイ、マジでこりゃヤベエよ……)
クラスの男子連中は全員一致でそう思ったに違いない。背は低いが、本物のアイドルみたいな正真正銘の美少女だ。まるで日本人形のような長い黒髪の武市さんは、緊張しているせいか表情が硬くニコリともしていなかったが、そんなの目じゃないくらいマジでかわいいのだ。
「詳しい自己紹介は、ホームルームの時だ。
席は……
取りあえずあそこに座りなさい。」
(よっしゃあ!
いいぞ、ハゲ……)
そこはたまたま1学期に中退したヤツの席だったが、何と俺のすぐ隣ではないか。心の中でガッツポーズを取った俺は、加齢臭で口の臭いハゲに今日ばかりは大いに感謝する気持ちになっていた。
「あ、俺、中山です。
よろしくお願いします。」
俺は他の野郎共の機先を制するつもりで、ガラにもなく緊張しまくりながらそう声を掛けた。が、武市さんは相変わらず無表情で、ポツリと一言「はい」と言うと席に座り、とりつく島もない様子だ。間もなくテストと言う事もあって他の生徒達も声を掛けず、実力試験が始まった。
英語と数学の試験の間、俺はほぼずっと絵に描いたような美少女に涎をこぼしそうな露骨な視線を送っていた。いつもならとうに爆睡している筈だ。他の男連中からもほとんど寝息が聞こえなかったから、きっと皆武市さんが気になって様子を伺っていたに違いない。俺はもう隣に座って彼女の美し過ぎる横顔を見ているだけで、股間がビンビンになった。もちろん胸や腰にも突き刺さるような視線を送り、武市さんの体の女の子らしい丸みを確認すると暴発寸前だ。
勉強は得意でないらしく、試験問題を一瞥してアッサリ諦めて筆記具を置き、長めのスカートに包まれきちんと揃えた両膝の上に手を置いてお人形さんのようにじっとしている武市さんに見とれていたおかげで、俺は唯一の得意教科である数学までほとんど出来なかった。何てこった。そして彼女を見ているとどこかで会った事があるような不思議な気持ちを覚えていた。こんな美人を知っているはずはないのに、なぜだろう。
試験が終わり大注目のホームルーム。武市さんは再び教室の前に立たされて、詳しい自己紹介を始めた。
「名前は武市美菜子です。小学校4年までこちらに住んでいましたが、父の仕事の関係で転校して、又こちらに戻って来る事になりました……」
(え、もしかして……)
俺はその時、まさかと言う記憶を呼び起こしていた。小学校4年で転校? 確かそんな女の子がいたような……
「えー、それでは転校したばかりの武市さんに学校の案内をしてあげる人を決めたいと思う。」
ハゲがそう言うと、はいはい! 俺がやります! 等とクラスの男子ほぼ全員が手を挙げる。素晴らしい団結ぶりだ。だがハゲは、うるさい! 黙れ! と怒鳴ると、武市さんの学校案内役として、学級委員のマサコを指名してしまった。野郎共は一斉にブーイングの嵐をハゲに浴びせるが、ここで誰か1人男子を指名しようものなら、血の雨が降りそうなムードだったから仕方あるまい。
だが俺にはやはりツキがあった。なぜならマサコは小学校からの幼なじみだからだ。さっそく武市さんを連れて女子連中と食堂でお昼をすませて来たマサコを、俺は人から聞かれない場所に呼び出した。
「なあマサコ。
武市さんって、ミーコだよな?」
「うん。
名前が変わってたから初めわかんなかったけど……」
彼女の父親は自衛隊だったはずだ。恐らくその関係で引っ越したが、両親が離婚して母親に連れられ戻って来たのではないか。俺とマサコは勝手にそう推測した。
「ミーコの世話係を俺に替わってくれ。」
「そう来ると思った。
中山君、ミーコちゃんと付き合ってたもんね。」
(はあ?
付き合ってただと……)
俺はマサコの意外な言葉に驚いた。
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