聖夜の贈り物
二次元世界の調教師:作
■ 4
ふと気付くと、空しく飾ってしまったクリスマスケーキとツリーの前で、還暦を目前にした私がショーツ1枚でアソコを弄っているという過酷な現実に、目から涙が溢れて止まりませんでした。一体何と言う辛く寂しいクリスマスでしょう。早く死んで主人の元に参りたいと思っても、生への妄執を断ち切れない私にはどうすることも出来ないのです。
その時です。インタホンが鳴って、宅急便の方が声を掛けて来られました。
(一体、何かしら?)
主人が存命中は、仕事関係で贈答品を頂いたりしましたが、今の私には宅急便を受け取るような心当たりはまるでありません。私は不審に思いながら慌てて身支度を調え、玄関に出ました。
「山本真澄さんのお宅ですね?」
「はい、そうです」
宅急便の若い男性はダンボール箱を抱えておられました。そんな大きな物が届けられるなんて、私の疑念はますます膨らみましたが、次の言葉を私は信じられない気持ちで聞きました。
「山本隆さんからのお届け物なんですが……」
お兄さんも不思議そうに首を傾げておられました。だってまだうちの表札には、その名前が大きく掛かっているからです。
(あの人が、私に?
一体、どういうこと……)
亡くなったはずの主人が天国から贈り物をくれたのでしょうか?私はそんなあり得ない妄想を抱きながら、宅急便さんが去られると、何か重たい物が入った箱を見ました。
(え?
何か、動いてる……)
正直な所とても怖かったのですが、私は勇気を出して主人の名前で送られて来た箱をおそるおそる開けました。すると……
「わんわんわん!」
何と中にはシーズーの子犬が入っていたのです。ずいぶん人なつこいわんちゃんで、初めて会ったと言うのに私に飛びついて来ると、ペロペロと顔を舐めて来ました。
「あ、ちょっとやめて、わんちゃん!」
私は抱き付いて来たその子を下ろすと、箱の中を探って手紙を見つけました。ドキドキしながら手紙を開けると、まるでミミズの這うような下手な筆跡が目に飛び込んで来ました。間違いありません、これは天国にいる主人の書いたものです!
「ますみさんへ……」
宅急便を受け取る時完全に拭いたはずの涙が新たに込み上げて来て、ますみ「さん」などと言う、主人が口では言ったことのない表現を読んだだけで、次の文字が滲んで読めなくなりました。私は再び涙を拭って、悪筆で字を書くのが大の苦手だった主人がくれた最初で最後の手紙を必死で読みます。
「この犬は僕がますみさんのためにしつけました。
僕がいなくなったら、かわりにかわいがってやって下さい」
たったこれだけでしたが、主人にすれば精一杯書いてくれたのに違いありません。
「わんわん」
「きゃっ!」
まるで私が手紙を読み終えるのを待っていたかのように、わんちゃんが飛びついて来ました。そして私の体を所構わずペロペロと舐めて来るんです。自分の死期が近いことに勘付いた主人が私に悟られないよう密かにしつけたと言う、このかわいい子犬に舐められて、私はもうそれを実行に移さずにはいられませんでした。テーブルにクリスマスの飾り付けをしたリビングに子犬を連れて入ると、服を脱ぎ捨て全裸になった私は、即座に名前まで決めてしまったシーズーのわんちゃんを呼びました。
「たかしちゃん、おいで」
「わんわんわん!」
ああ。フサフサのシーズーの毛はまるで主人の伸ばし放題のひげみたい。そして長いヒラヒラの舌がアソコに伸びると、今度は随喜の涙でクリスマスケーキとツリーが滲んで見えました。そして主人が贈ってくれた「たかしちゃん」は贈り主の魂が宿ったかのように、いつまでもいつまでもペロペロと私の股間を舐め続けてくれたのでした。
〜おしまい〜
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