オカルト教師
二次元世界の調教師:作

■ 3

「今俺は古代エジプトに伝わる、ファラオの秘術と言う黒魔術を研究している。いいか岡田、古代の人間は、科学技術の発達した現代人には及びも付かぬ強力なスピリチュアルパワーを持っていたのだ。お前はまともな建築技術も機械もない大昔の人間が、どうやって巨大なピラミッドを作ったのか、不思議に思ったことはないか? それこそが、現代人の失った人間の潜在的なスピリチュアルパワーを活性化させる、黒魔術と呼ばれる秘術なのだよ……」

 バカバカしい。何が「黒魔術」だ。「スピリチュアルパワー」だ。僕はこの時、誰かに似てると思っていた「オカルト教師」鎌田が、テレビでバカ女達をだましている詐欺師タレントによく似ているんだと思い当たっていた。もう少し太らせて頭をハゲにすればそっくりではないか。そうか、さしずめ鎌田の前世はガマガエルだったに違いない。そのガマガエルの説明によれば、今研究しているファラオの秘術とやらを蘇らせるには、どうしても若い男女の陰毛が必要なのだと言う。何てイヤらしい、えっちな秘術なんだ。

 鎌田は、イッヒッヒと口にはしないが、文字にすればそう形容出来そうな下品な笑いで僕の気持ちを萎えさせながら、この件を伏せて欲しければ僕と姉貴の陰毛を寄越せと脅迫して来た。正に噂通り、いやそれ以上の「ヤバい」キモオタぶりだったが、精神的に追い詰められていた僕はしぶしぶ同意するよりなかった。そして、どうせこんなのわかりゃしないだろうと、近所の飼い犬のチリチリの毛を拝借し陰毛だと偽って差し出した所、すぐにバレてガマガエルの逆鱗に触れ、二度と俺を欺すな、その時は容赦なくお前の変態行為を暴露してやる、と最後通牒を突き付けられたというわけだ。さすがに犬の毛では無理だが、僕の陰毛を小分けにして2人分だと偽装することも考えた。だが鎌田は男と女のシモの毛は明らかに違うと言う。ニオイをかげばすぐわかるそうだ。それこそ犬じゃあるまいし、いかにもマユツバだったが、一度偽装工作に失敗して窮地に陥った僕には、もうこれ以上危険を冒す勇気はなく、ついに正真正銘の姉貴の陰毛までコイツに差し出してしまったのだ。

 さて貴重な昼休憩時間を割いてここまでガマガエルと話し込んだ僕が、ようやく許しを得てホッと胸を撫で下ろしながら理科室を出ると、何たる偶然か、姉貴がこの部屋に向かって来るのにバッタリ出くわした。いや偶然ではないだろう。鎌田がわざわざそのように計算して、姉貴を部屋に呼んでいたのだ。一体どこまで下劣な上に計算高い、イヤらしい男なんだろう。

「一樹、アンタ、ガマガエルに何か用?」

 案の定姉貴は、何の接点もないはずの僕が自分の担任である鎌田の部屋から出て来たのを不思議に思ったようだ。僕は仕方なく、イヤ、何でもないよ、と答にならぬ言葉でケムに巻こうとしたが、いつもなら何でもないはずの姉貴に対して、まるで片思いしている女の子に対するがごとく緊張ししどろもどろになってしまった。廊下を颯爽と言う言葉が
ピッタリの感じで歩いて来る姉貴は僕より頭1つ高い長身で、これまで意識したことはなかったが、スタイルの良い子が好みの僕には、理想的と言って良い容姿だ。顔だって整っているし、実際うちの学校の看板である女子バレー部のエースである姉貴は、アイドル並に皆の憧れの対象になっている。

 これと言って取り柄もなく内気で目立たない存在の僕が、学校の看板娘みたいな有名人である姉貴岡田真央の弟だと知った友達は、皆例外なく僕を羨ましがった。そりゃそうだろう。バレーコートでは長身のエースアタッカーでビシビシと豪快なスパイクを叩き込む姉貴は、こうしてセーラー服を着てもまるで脚の長い外人女性みたいで、メチャクチャ格好良いのだ。ハッキリ言って自慢の姉だ。

「あ、姉貴こそ、ガマガエルに何の用だよ」
「知らないわよ。たぶん進路の話じゃないかな?」

 僕はごまかすため、反対に姉貴に質問した。まさか本当のことを告白するわけにはいかない。すると姉貴もなぜ自分が呼ばれたのかわからない様子で小首を傾げる仕草が妙に女っぽく、僕はまたまたうろたえてしまった。姉貴ってこんなに色っぽい女だったろうか?いや、これは僕の方の姉貴を見る目が変わったからに違いない。ガマガエルに渡すため、姉貴がはいた直後の衝撃的なセクシーショーツを検分して、付着していたわずか数本の陰毛を拝借した時、僕はガラズ扉の向こうでシャワーを浴びている音をさせていた姉貴を想像して頭がクラクラする程興奮し、ぬくもりが感じられる湿っぽいパンツの匂いをかぎたいという誘惑と懸命に戦わねばならなかったのだ。そうだ。あの時から、気が強くて跳ねっ返りだが明るくサッパリした性格で、何よりバレーが上手な自慢の姉は、スタイル抜群で美形と言う僕にとっては理想的な女性として、ハッキリ異性を意識する対象に変わったのだ。

 そう思ってしまうと、目の前で珍しく女の子っぽい仕草を見せている姉貴の伸びやかな肢体があまりにも眩しくて、弟なのに不自然なまでにドキドキと胸をときめかせている自分がいた。背が高くてやせており、まるで男みたいだねと嫌がらせを言ったことのある姉貴は、今見るとセーラー服の胸元も腰も女らしい丸みがハッキリ感じられ、そのカモシカのような長い脚の付け根に今もセクシーな下着を着用してるのだろうかと思うと、カチカチになっていた僕の股間はますますいきり勃った。

「全くあの先生、一体何考えてんだかわかんないのよね。あ、又宿題出たから、英語、今晩頼んだわよ。じゃ」

 担任のガマガエルに呼ばれたのに僕と長話しているわけにはいかない姉貴は、そう言い残して理科室に入って行った。スポーツ推薦でこの高校に入学した姉貴は1学年下の僕に宿題をやらせるくらい、勉強は大の苦手だ。でも、今ハッキリ分かったことがある。僕は姉貴のそんな情けない所も含めて大好きなのだ。幼い頃はよくきょうだいけんかして、気が強く体力も上の姉貴にいつも僕の方が泣かされ、呆れた母さんが姉貴を叱ったものだ。そう言えば母さんも僕より背が高いし、かなりの美人だ。きっと僕だけが、幼い頃に離別してほとんど記憶に残っていない父親に似ているのだろう。

 この頃では姉貴とけんかするなんてことはほとんどなく、毎日ハードな練習で疲れて帰って来る姉貴のために、苦手な英語や数学の宿題をやってあげるのが日課になっている。でもそれは少しも苦にならず、乱雑な僕の部屋と違いキチンと整理整頓された姉貴の部屋で宿題を代行してやり、姉貴が感謝の意味で持って来てくれるコーヒーやお菓子を一緒に食べて、学校生活を初めいろんなたわいもないことをダベって過ごすのに幸せを感じている。そう。僕は気付かぬうちに、この学園のアイドルである姉貴に恋をしてしまっていたのである。そうでなければ、この胸の高鳴りと股間の張り切りぶりの説明がつかぬではないか。

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