オカルト教師
二次元世界の調教師:作

■ 4

 失礼します、と礼儀正しくお辞儀をした姉貴がガマガエルの待つ理科室に消えてから、僕は猛烈な不安に駆られた。ガマガエルのやつ、まさか姉貴に僕の行為を話したりしないだろうか?そして僕に対してチンピラヤクザのように脅迫して来たように、姉貴まで脅迫する、と言うことは?弟の変態行為をバラされたくなかったら、俺の言うことを聞くんだ、イッヒッヒ……なんていかにもあいつのやりそうなことではないか。いやいやそれならわざわざ僕に姉弟の陰毛を入手させるような回りくどいことをする必要はないだろう。姉貴に直接要求すればいい。僕はどんどん膨らんで来る不安を打ち消すために、そう都合良く解釈することでガマガエルが僕の行為を姉貴に話さないでくれることに望みを繋いだ。僕はまだこの時「オカルト教師」鎌田の本当の恐ろしさも、姉弟の陰毛を要求して来た真意もわかっていなかったのである。いや正確に言えば、ハナから信じていなかったのだ。古代エジプトより伝わり、現代に蘇る「ファラオの秘術」の恐ろしさを。

「2年1組、岡田一樹君。理科室まで来て下さい。もう一度連絡します。2年1組……」

 その日の放課後、放送で再びガマガエルに呼び出された僕は、大きな不安に押し潰されそうな気分で鉛のように重い足を理科室に運んでいた。「オカルト教師」鎌田のいかがわしい研究のため、恥を忍んで姉貴と僕の陰毛を差し出し、これでもうあのおぞましいガマガエルから解放されると思ったのは、やはり甘い期待だったのか。が、白状しよう。僕は同時にガマガエルの言葉を思い出して、ゾクゾクするような興奮を覚えていたのだ。

「……お前にもいい思いをさせてやるからな、期待してていいぞ」

 女子の体操着の匂いをかいでいた僕を「ムッツリスケベ」と罵倒した後の言葉だ。実はまだ股間の昂ぶりが解消していなかった僕が、いかがわしい期待を持ってしまったのも仕方のないことだ。まだ信じる気にはなれなかったが、「ファラオの秘術」が完成したのだろうか?僕と姉貴の陰毛を使用して完成する「秘術」なんて……僕はそこまで考えて姉貴の姿が脳裏に浮かび、その邪念と理性で懸命に戦っていた。弟なのに、大切な姉貴に対していかがわしい妄想を抱いてしまうなんて、人として到底許されないことだ。だが、そんな僕の妄想をはるかに上回るとんでもない事態を、「ファラオの秘術」を完成させたガマガエルは用意していたのだ。

「失礼します」
「おう。良く来たな、岡田」

 う。教師と生徒とは思えないぞんざいな言葉を掛けて来たガマガエルだったが、僕はそんなことより部屋に入った途端に何か重苦しい空気が張りつめているような雰囲気を感じて、脚が竦んでいた。部屋の中は昼休みの時と同じでガマガエルも自分の机の椅子に座って入口を向き、特に変わった様子はない。だが、確かに何か異様に粘り着くような空気の汚れのような雰囲気が感じられるのだ。そんなこと信じたくもないが、下卑た笑みを唇の端に浮かべた「オカルト教師」鎌田が、その醜悪な体の周りに目に見えない結界を張り、邪悪なオーラを醸し出しているかのようだった。そしてそのおどろおどろしいムードに呑まれた僕が入口ででくのぼうみたいに立ち尽くしていると、ガマガエルは例の陰毛を摘んで鼻で匂いをかぎながら、何やら早口で呪文のような言葉を唱え始めたのだ。途中でハッキリと、ファーラオーと言う言葉が聞こえたから、これが「ファラオの秘術」なのだろうか?

 僕はさすがに恐ろしくなり、その場を逃れようとしたのだが、その時にはもう手遅れだった。何だか体が急激に重くなって、自分のものではないかのように自由に動かせないのだ。

「せ、せん……」

 先生、と口にしようとしたのもそこまでで、どうやらガマガエルが呪文を唱え終えると、僕はその場に立ち尽くしたまま、しゃべることも動くことも出来なくなっていたのだ。

「どうだ岡田。ファラオの秘術は良く効くだろう。お前さんは自分から術を発動させる陰毛を差し出して、俺のあやつり人形になったと言うわけだ……」

 僕はガマガエルの恐るべき説明を聞きながら、実に奇妙な気分に陥っていた。別に痛くも痒くもないし、呼吸だってしている。それに目をキョロキョロさせたり、ガマガエルを睨み付けようと精一杯の努力をして表情を変えることは出来るのだ。だが、それ以上の手足や首を動かす動作は一切出来なかった。もちろん何か言葉を口にすることも。一体どういうことだ!僕はガマガエルの言葉がウソでもハッタリでもないことが実証されるに連れて、情けないことに凄まじい恐怖に襲われて、立ち尽くしたままの全身に冷や汗が拭きだしワナワナと慄えてしまっていた。

「お前はもう俺が命令しなければ何も出来ない。その替わり俺の命令なら何でも言うことを聞く。では、ズボンを脱げ」

 そんなバカな、と思ってもコイツの言う通りだった。僕はガマガエルがどっかと椅子に座って見ている前でズボンを脱ぎパンツ一丁になっていた。もちろんこんな卑劣な男の前で醜態を晒すことには猛烈な嫌悪を感じているのだが、抵抗しようとか、そういう次元ではない。自分の手足が意志とは全く関係なく、独立した意志を持っているかのごとく勝手に動いてしまうのだ。それは正しく「あやつり人形」にされた状態だった。

「パンツも脱いで、そこの床に背を付けて座れ」

 僕はカッターシャツで下半身だけ裸と言う無様な格好で言われた通りに座りながら、理性や感情はそのままで四肢の動きだけあやつられることの恐ろしさに慄然としていた。ニタニタ笑いながら無慈悲な命令を下すガマガエルのおぞましさに、猛烈な嫌悪と怒り、そして底知れぬ恐怖を感じ、さらに下半身を露出して羞恥と屈辱が胸を締め付け顔面が真っ赤になったのがわかった。自分の意志を喪失し、知らない間にあやつられるのなら、どれだけ気が楽だっただろう。
 
「何だ岡田、包茎なのか。結構デカいなお前」

 ガマガエルがそんなことを言いながら僕の股間に手を伸ばしても、逃げも隠れも出来ない僕は、脂ぎって湿っぽい分厚い手にムンズと掴まれてもどうしようもない。それどころか僕のペニスはあり得ないような恥ずかしい反応を示していた。

「わはは、気が早いぞ岡田。よっぽど溜まってたみたいだな」

 ガマガエルが手を離しても、僕の股間の肉塊は硬度を失うことはなかった。それどころかグングンと膨らむ一方で、コイツの秘術のもう1人の犠牲者のことを考えて興奮してしまったことを告白しなければいけない。

「では約束したように、お前へのご褒美を連れて来てやろう」
(やめろっ!)

 口が利けたらそう怒鳴っていただろう。いや、それは本当か?僕は自問自答した。その人のことを考えて僕は股間を恥ずかしく張り切らせているのではないのか……

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