オカルト教師
二次元世界の調教師:作

■ 12

「お姉ちゃんにはまだ術を掛けてあるが、心配するな。
 今からお前の目の前で術を解いてやる。
 ……ついでに、ここで起きたお前との記憶も、全て、な」
「え!?」

 が、もう僕には質問が許されなかった。鎌田先生は、隣の部屋で待機している姉貴に声を掛けたのだ。

「真央さん、こちらに入っていらっしゃい」
「はい、わかりました、ご主人様」

 まだ術が掛かっている姉貴は抑揚のない声でその言葉を発すると、入って来た。服装はすっかり元に戻されていたが、脚取りはヨロヨロして危うそうだ。ブラウスやスカートの中の下着がどうなっているかは窺い知ることが出来ない。僕の方を一瞥した姉貴はすぐに真っ赤になったから、当然ここで起こったことの一部始終を記憶しているに違いない。僕の方もお尻の辺りがモゾモゾして座りが悪く、何ともいたたまれない気分だった。

ーー姉貴だけ、記憶を消す、だって?

 僕はそれがどういう結果をもたらすのか考えてみたが、頭の中はまとまらなかった。ただ、もうガマガエルなどとはとても呼べないオカルト教師鎌田先生が、何か意図を持ってそんな対応を取ろうとしているのだろう、とだけはわかった。それが僕に対する好意なのか悪意なのか、そして僕と姉貴の今後の人生にどんな影響をもたらすであろうかといくら考えても判然としない。

「……ファーラオウ……」

 ハッと気付くと鎌田先生は恐らく姉貴のわずかな陰毛を目の前にかざし、椅子に座った姉貴に向かって早口で小声の呪文を唱えていた。

「いいですか、真央さん。ここで起きたことは全て忘れるのです」
「はい、わかりました、ご主人様」
「では少しお眠りなさい」

ーーえ?

 姉貴が椅子に座ったまま崩れ落ちると、鎌田先生はフッとごくわずかな陰毛を吹き飛ばしてしまった。僕の陰毛は机にしまったのに。

「お姉ちゃんはすぐに起きるからな。俺と面接していて体調が悪くなり倒れてしまったので、弟のお前を呼んで連れて帰ることにした、とか何とか説明して、愛しのお姉ちゃんと一緒に帰るがいい」
「鎌田先生!」
「俺は隣で黒魔術の研究でもしておるよ」

 こうして今日まで気付かなかった想いをぶつけ、超えてはならない一線を越えてしまった姉貴を連れての帰り道。意識を失うほど体調を崩してしまったことにショックを受けているらしい姉貴は、まだ頭がクラクラするとずっとこぼしていたが、一見これまでの明朗快活な姉貴と何の変わりもなかった。処女を破ったのだから、歩き辛そうにしているかと言えばそうでもない。僕は次第に今日起こったことはオカルト教師鎌田先生が作り出したイリュージョンなのではないかと疑ってしまった。その晩も姉貴の部屋で宿題をしてやったが、それまで何でもなかった姉貴の一挙手一投足が気になって不自然にドキドキしてしまい、ふと気付くと、モミモミチュッチュしてえ、とおねだりした胸元や、鼻血が一生分出そうな眺めを堪能させてもらったスカートの奥からのぞく白い太股などに見とれてしまって、どうかしたの? と不思議がられてしまう有様だった。

ーーやっぱりあれは夢だったんだ。

「2年1組岡田一樹君。理科室まで来て下さい。もう一度連絡します。2年1組岡田一樹君……」

 僕がそう結論付けて、今だ断ち切れない姉貴への道ならぬ想いに苦しんでいた頃だ。僕はあれから何の接触もなかったオカルト教師鎌田先生に又もや呼び出されていた。

「よう岡田。
 姉ちゃんと仲良くやってるか?」
 
 相変わらず鎌田先生は彼女いない歴30年のような外見で、そんな教師とは思えないぞんないな口ぶりで話し掛けてきた。

「ええ。そりゃまあ、もともと仲がいいですから……」
「バカ、そんなことを言ってんじゃねえよ!」

 すると鎌田先生は手指で卑猥なジェスチャーをして見せた。全く性懲りもない人だ。

「あれから何もありませんよ! 当たり前じゃないですか、きょうだいなんですから」
「ケッ! お姉ちゃんと猿みたいにやりまくったくせに、よく言うよ……」
「先生、そんなことを聞くために、僕を呼び出したんですか?」

 すると又あの「ガマガエル」と形容するのが相応しいような下卑た笑いを口元に浮かべたオカルト教師鎌田先生は、声を潜めて僕にヒソヒソと打ち明けて来たのである。

「なあ岡田。
 お前んとこのお母ちゃんは未亡人だろ?」
「え? は、はあ、そうですけど……」
「何歳だ?」
「まだ三十代です」

 僕は次第に声がか細く慄えて来るのを感じていた。

「お姉ちゃんもいいけど、お母ちゃんもいい女だよなあ……」
「せ、先生……」
「なあ岡田。
 今度はお母ちゃんのシモの毛を手に入れて来てくれないか?」

ーーコイツ、よりによって何てことを言い出しやがるんだ! やっぱりコイツは人間のクズ、ガマガエルで十分だ。

 そう思った僕はしかし、ガマガエルの次の言葉に大いに気持ちを揺さぶられてしまった。

「お前さんにもいい思いをさせてやるからよ」
「先生、インポは治ったんですか?」
「バカ言え! 治るもんならとうに治してるさ」
「……母さんのシモの毛、考えてみます」

〜おしまい〜

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