走狗
MIN:作

■ 第3章 覚醒17

 俺に料理を運んだ乙葉は、踵を返して立ち去ろうとした。
「何処へ行く…。俺は、さっきなんて言った…」
 乙葉の手を捉まえ、引き止める。
 乙葉は、俺に向き直ると
「一緒に食事を…取ると、仰られました…」
 俯き呟く。
(美加園の奴…、何かを吹き込んだのか?…変わりすぎる…)
 今の乙葉からは、あの独特のフェロモンが出ていない。
 それと、美加園を殴ろうとした時、乙葉が止めに入った事も気になった。
 訝しんだ俺は、乙葉を問いつめる。
「乙葉。お前、美加園に何を言われた…」
 俺の言葉に、乙葉が顔を上げる。
「ご主人様は…。仕草の可愛らしい、女性が好みだと…教えられました…」
 乙葉が俺に答える。
(美加園の野郎…。要らない事ばかり、教えやがる…)
 俺は、頭を抱えながら、乙葉の方に椅子ごと向き直る。
「俺の好みは、どうでも良い…。お前は、それが本来のお前か?」
 俺の質問に乙葉は、素直に答える。
「あそこまで、媚びを含むような事は御座いませんが…。家に居る時は、大体あんな感じです…」
 真っ直ぐ俺を見詰めて、答える。

 すると俺の目を真っ直ぐ見ていた、乙葉に変化が現れる。
 乙葉の瞳が潤み始め、頬に薄い朱が入ると、唇が少し開いて艶を増す。
 全体から、あの妖しい雰囲気が立ち上り始める。
 俺は、その変化を目の当たりにして、正直驚いた。
「乙葉…。今、お前は心の位置が、変わったな…」
 俺は、乙葉に問い掛けると
「はい…、ご主人様…。ご主人様の目を見ていると…。どうしても、こちら側に…引き込まれます…」
「こちら側とは?」
「はい、奴隷として…。仕える側としての…心の位置です…」
「それは、具体的にどうなるんだ…」
「身体中が、熱くなり…。ズンズン騒ぎ出します…」
 乙葉は、陶然とした表情を浮かべ、俺に自分の身体の変化を伝える。
(そうか…こいつは気持ちの位置で、持ってる雰囲気がガラリと変わるんだ…面白いな…)
 俺は、この女がどれだけ変わるか、試してみたくなった。
(千恵は、発情したが…。乙葉は、どうだろ…)
 俺は、ニヤリと笑い、乙葉に向かって話し出す。
「乙葉。俺は、旨い食べ物が大好きだ、それを作った人の努力を感じるからだ…」
 そう言って乙葉に、跪くよう命じる。
 乙葉は、何が起きるのか、解って居らず黙って従う。
 俺は、スプーンに掬って、乙葉の口に運んでやる。
 乙葉は、ビックリした表情で、一瞬戸惑ったが、照れた真っ赤な顔で、口を開きシチューを食べる。

 しかし、乙葉は熱いのが苦手なようで、ハフハフと口を動かし、涙を浮かべる。
「乙葉お前猫舌か?」
 俺は、乙葉の仕草を見て聞いた。
「は…ひ…、熱いのは…苦手…です」
 乙葉は、涙を浮かべ、舌を出してヒーヒー言っている。
「先に言いなさい…。こっちに来い」
 俺は、そう言って乙葉を引き寄せると、出している舌を俺の唇に引き入れた。
 俺は、乙葉の舌を自分の舌で擦る。
 乙葉は、事態が判断できず、目を点にして俺を見詰める。
「どうだ…痛みは取れたか…」
 俺は、唇を放して、乙葉に聞いた。
「は…は、はい…。はい…取れました…」
 乙葉は、コクコクと首を縦に振った。
「手は後ろに回せ…俺が飯を食わせてやる…」
 そう言うと俺は、自分の口に入れたシチューを乙葉の口に流し込む。

 乙葉は、うつろな表情に成り、俺の流し込むシチューを貪る。
 乙葉の口から、溢れたシチューは、顎を伝いメイド服や胸元を汚す。
 俺は、それを指で掬うと、乙葉の口に持って行く。
 乙葉は、その指に舌を絡め、唇に含み一心に舐め上げる。
 指を放そうとすると、その指を見詰め、上体を動かし追いかけてくる。
 俺は、そのまま誘導し、また唇を重ねシチューを流し込む。

 顎を伝って流れた、シチューを今度は舌で綺麗にする。
 顎、頬、首筋、胸元、乙葉の頭を掴み少し乱暴に、俺が舌を這わせ易いように、揺さぶり動かす。
 乙葉の口から、押し殺した喘ぎが漏れ、俺の舌は首筋を通って、また唇を塞ぎ乙葉の舌を嬲る。
 乙葉の瞳はもう、何も見ていない。
 瞳孔が開き、焦点は何処にも合っていないからだ。
 俺は、耳元に唇を寄せると、囁いた。
「旨いか…?丁度良い温度に成ったろ…」
 乙葉は、震える掠れ声で
「は…ひ…、ごひゅじん…さま…おいひゅ…う…ござい…まふ…」
 おこりを起こしたように震えながら、答える。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊