特別授業−現場主義
百合ひろし:作

■ 10

夏奈子はゆっくりとブラジャーを着けて靴下を履いてから鞄の中から制服を出してワイシャツ、ネクタイ、スカート全て着た。すると道代は、
「車暖めてるわ。準備出来たら来なさい」
と笑顔で言った。夏奈子は首を振った―――もうあんな運転されたら敵わない―――と思ったから。道代はそれを読んでニコニコ笑いながら、
「私も疲れたからやらないわ。あれ、集中力要るから」
と言った。確かに本当に集中力は要るがそうでは無かった―――。道代はおしとやかだが時々サーキットに行ってレースに出場したりする程であり体力や集中力は長く持つ。つまり本当の理由は違うところにあった。もし連れて来る時に夏奈子が言う事聞かずにシートベルトを締めなかったとしても、危険な目に合わせて置けばシートベルトを締める様になるし、締めれば逃げられなくなる。また、恐怖心を与えて置けば逃げる気力も無くなると考えたからだった。でも今はそんな必要は無かった。特別授業をやる目的は果たせたし、夏奈子は疲れ果て、最早道代から逃げようなんていう気力は無かったからである―――。


来る時とは逆に恵子は後部座席に、そして夏奈子を助手席に乗せた。帰りの運転は来る時とはうってかわって丁寧な運転だった。ギヤを入れる時も殆んどシフトショック等無く快適だった。
道代は色々話したが、夏奈子は左に視線をやり、生返事で答えていた。すると道代は、
「そんな顔で帰ったら何て言われるかしら?この事は他言無用よ―――解ってるわよね?」
と言った。ニコニコしながらも少しドスの効いた声で―――。つまり、普段通りに生活しろという事で、話したらただではおかないという事だった―――。
「はい―――」
夏奈子はそう返事したが、そんなにすぐ気分が晴れる訳が無い。一生ものの傷を負った訳であり、自殺したいと思っても不思議でない状態だった。そう思わなかっただけでも幸い―――、幸いというこの言い方は適切ではないが、夏奈子はそれだけの心の強さは持っていた。


幸い夏奈子が家に帰った時は両親共に出掛けていて一人だった。その為夏奈子は着ていた物は直ぐに洗濯機にかけて風呂に入った。そして体を丁寧に洗った―――。その時下腹に触れると痛みが走る事からやはりさっきまでの事は現実だと思い知らされた。
「くっ……」
夏奈子は目を細めて歯を食い縛り、ギリッと歯を鳴らした。悔しさに目からは涙が出てきて、シャワーを浴びながら静かに泣いていた。
そして風呂から出るといつもの様に、髪を乾かし真っ先にツインテールにまとめ、色違いのピンクの縞パンティを穿き、脱衣所から出てベランダの側の椅子に腰掛けてボーッと外を見ていた。まさか、この様子を正面にある遠目のマンションから見られていたとは思ってもいなかった。
いつもは暫くそうしていた後自分の部屋に戻って服を着るのだが、精神的にも肉体的にも疲れてしまっていたので座ったまま眠ってしまっていた―――。

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夏奈子はその後、普通に学校に通い、そして変わらない日々を送った。恵子や道代と廊下ですれ違っても変にへり下ったりせずきちんと挨拶していた。毎日変わらずに生活する事が「特別授業」を秘密にする事に繋がる―――。おお事にすればそれは自分に返ってくる。
かつて特別授業を受けた他の生徒はそれを恐れたが為に普段通りの生活を心掛けたが夏奈子はそれだけでは無かった―――。確かに泣き所である勿論未成年喫煙が露見するというのは恐れていたが、それ以上に、体は完全に屈し快感をむさぼったが心は折れてない―――あの時の悔しさは忘れない。という事を忘れない為に普通に暮らした―――。

具合が悪くなって保健室に行った時、道代に適切に処置をしてもらったが、その時も道代を恐れずに普通に接した。道代はそんな夏奈子が益々気に入ったが道代自身理由も無いのに特別授業等やる気は無かった。その代わり、他に休んでる者は居なく一対一だったので、夏奈子が椅子に座る瞬間縞パンが見えたのと、ワイシャツから透けて見えるブラジャーを見て
「あら、今日はお揃いでブラも縞なのね。そうしてれば(外されず)良かったのに」
とニコニコ笑顔で言った。夏奈子は目線をそらし、
「そうですね……」
とだけ答えた―――。


夏奈子はそれから一月後、特別授業があった事を知った。恐らく恵子が初めての特別授業をやったのだろう―――。その時下腹がズキンと痛んだ。痛む原因など何もないので、自分が犯されたその時に刻まれた心の傷が原因だとすぐに解った。その痛みを感じる度にいつも思う―――。兎に角卒業するまで絶対にあのような隙は見せてはいけないと今一度心に誓った。
その次の日―――、夏奈子は志望大学の指定校推薦の権利を得た事を生活指導部から聞いた。


特別授業-現場主義 終わり

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