新・売られた少女
横尾茂明:作

■ 逃れの章2

「兄貴には恩義が有ったんだ…こうして生きていられるのも兄貴のおかげ…」
「それを裏切ってしまった…」

「ごめんなさい…私のために…」

「い…いや…いいんだ、兄貴が悪いんだもの…前はあんな人じゃなかったのに…」

「それより…浅田の兄貴がなぜ聡美ちゃんを監禁しようとしたのか…まだ聞いていなかったね…よかったら教えてくれる?」

「う…うん…」
「浅田さん…私がお父さんの実印と貸金庫の鍵を隠し持ってるって言うの…」

「んんー分かんないナー…若頭の所有物を聡美ちゃんが持っててどうして監禁するの?」

「お父さんの財産を手に入れたいからだと思うんだけど…」

「それじゃー強盗といっしょじゃないか!、浅田の兄貴…恩有る若頭に対して何て事するんだろう」

「でっ…兄貴の探してる物…聡美ちゃんは持ってたの?」

「…それがまったくわからないの…でも書類は有るの…英次さん見てくれる」


少女は武雄の鞄を渡した。

「んんーこの登記簿に書かれてある物件…聡美ちゃんと若頭が住んでた住所だよね、でも名義は若頭になってるよ、ほら!」

「えっ! 本当だ、浅田さん…あの家は組の名義だって言ってたのに…」

「浅田の兄貴…聡美ちゃんに嘘をついたんだよ!…」

「あれー…この鞄の底…なんか変」

少年は鞄の底を叩いてみた…軽い音がする。

「二重になってるみたいだよ…」

もぞもぞと底の端を捲ってみると蓋のようなものが取れた…。

「あっ…印鑑と鍵が入ってる!…」

「……………」

「浅田の兄貴…これを探してたんだナ」
「しかし…この鞄を持って我々は逃げたわけだから…浅田の兄貴は鍵と実印の在処を聡美ちゃんが知ってると踏んで…今頃は血眼になって探し回っているんだろうな…」

「どうしよう…見つかったら確実に殺されるよね」
「浅田の兄貴は元は暴走族のヘッドだったんだ…あの人が一声掛ければ何十人という凶暴な仲間が集まると聞いたことがあるけど…」

「僕の故郷が長野の高遠だってこと知ってるから…もしかするともう近くに来ているかも知れないな…」

少年は言ってからブルっと震えた…。

「どうしよう…まずいなー」
「俺ってどうしてこんなにバカなんだろう…よりによって故郷に帰って来るなんて…」

「…………そうだ!…こうなったら室田の頭にすがろう…相談すれば判ってくれるはず…」

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