新・売られた少女
横尾茂明:作

■ 逃れの章7

「英次さん起きて! もーいつまで寝てるの」

「……………………」

「聡美ちゃん……兄貴は?」

「もー英次さんたら、浅田は組長さんが来て何処かに連れて行ったわ」

「組長が来てくれたのか…あーよかった…しかし痛い、あっ! 歯が折れてるヨー」

「さー東京に帰ろ、組長さんがまたあのお家に住みなさいって言ってくれたの」

「聡美ちゃんよかったね、でも俺は…浅田の兄貴に不義理した身…東京には…」
「それと…もうヤクザにはこりごりしたから田舎に帰ろうかな……」

「…………その方がいいよね、でも聡美…寂しいな…」

「なーに、こちらで高校をやりなおしたら東京の大学に行けばまた逢えるよー」
「僕も聡美に逢えないのは寂しいけど……携帯もメールも有るし」

「そーだよね、寂しいときは私も電話するね!」

「しかし親になんて言って謝ったら家に入れてくれるかナー……」

「英次さん、本当の親だったら…何も言わなくったって解ってくれると思うよ!」

「そ…そうだよね」
「じゃぁ行こうか、東京までは行けないから…駅まで送るよ」

「うん…」

二人は駅に向かった、途中何台ものパトカーとすれ違った。

「じゃぁ聡美ちゃん元気でね」
「うん…英次さんも、絶対電話してね」
「するとも!」

英次は去っていった…、聡美は駅舎の木陰に身を寄せ過ぎ去った悪夢の日々を思い返した…
(あんな事…もう一生経験することはないよね…)

改札を告げるアナウンスが構内から洩れ聡美はふと我に返る…
(あぁぁお尻が痛いな)
少しガリ股で少女は改札口に向かった。

終わり


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