内側の世界
天乃大智:作

■ 第1章 想念2

近くで見ると、地球も変わった様である。
砂漠が増え、人間が増えた。人間の街が増えた。

僕は、何しているのだろうか。
見るだけ? 風に流されるだけ?

でも、最近は、する事がある。
いろんな所を、見て回る。
海、山、平野、人間、動物、植物・・・
いろんなものに、近付いてみる。
僕は人間の姿である―勿論、これはイメージである。
僕の退化した感覚が、直感的にそう告げているのである。僕には実体はない。思考の僕は、無である。人間には見えないから・・・人間には僕の声も聞こえない。
僕は、地面に触れずに歩く。滑るように地面から少し浮いている。それが、僕の概念である。

僕は、物体を素通りできる。岩や壁を通り抜けることが出来る。僕の存在と物体の存在が、どこか異次元の存在で、互いに干渉しないように思える。
でも、僕にも、行けない所がある。
まず、火山の中の溶岩。
一度、近付いたら、消えそうになった。
あれには、吃驚した。
あと、地下の深いところ。密度が高いのか、入り込めない。
それと、月へも行こうとしたが、地球の引力に引き戻された。
でも、あのまま月に行っていたら、地球に戻れたのかな? 
もし、宇宙空間に行ってしまったら、きっと、今よりも退屈になる。
何もないから―
それは、困る。
人間の大人に近付いても、ほとんどの大人は、気付かない。どれ程話し掛けても、手を突き出しても、その手は人間の体を突き抜けてしまう。
子供は気付く事がある。
僕の事を、じっと見ている。僕の声を、じっと聞き入ってくれる・・・それも、希である。
僕の声は、人間には聞こえないみたいであった。
じっと、テレパシーを送ってみる。語り掛けるのだ。
通じる時もあれば、通じない時もある。
ある時、子供が川に落ちそうになっていた。「危ない」とテレパシーを送ったら、危ういところで気付いてくれた。
 それを、人は「直感」と呼ぶのかも知れない。
 僕が耳元で囁くアドバイスを、人は「ひらめき」というのかも知れない。僕が知らせる危険を、人は「予知」や「虫の知らせ」と呼ぶのかも知れない。
あと、ほとんどの赤ちゃんは、僕の存在に気付いてくれる。
僕が話し掛けると、笑ってくれる。赤ちゃんには、僕が見えるのだ。
それなのに、人間は、大きくなるにつれて、僕が分からなくなるみたいであった。
動物は、僕が近付くと怖がってしまう。
でも、狼と犬と鼠と鳥は、怖がらない。
だから・・・、仲好しであった。
いつまでも一緒に居たいのに、直ぐに死んでしまう。
すると、遺体から、輝く光の砂が巻き起こり、上に向かって上っていく。
・・・僕を、置いて。
人間もそう。
赤ちゃんのときは仲良しだったのに、段々と気付かなくなって、やがて、年老いて死んでしまう。
僕を、置いて。
上っていってしまう。
あとを追うと、すぐに、跡形もなく消えてしまう。
中には、ずっと大人になってからも、僕の事を忘れない人間も、極稀に存在する。
巫女。
霊媒師。
祈祷師。
陰陽師。
 魔術師。
 僧侶。
 そんな連中である。

一人って、寂しい。

時折、言葉が聞こえてくる。
「イエス様」、「仏様」、また、「憎い」、「殺してやる」、「悲しい」
なんと言っても多いのは、「愛してる」という言葉であった。
僕も誰かを、「愛したい」・・・けど、愛せない。

僕は何故、ここに居るの。
何の為に?
僕なんて、居なくても、どうって事ないじゃない?
どうして存在する必要があるのだろうか?
・・・何してるのだ?
時間は、たっぷりある。

よく考えよう。
何を・・・

地球を見て回るのにも、近頃では、飽きてきた。

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