内側の世界
天乃大智:作

■ 第3章 不良2

「あう」
 女は、上品な口を開けて、溜め息を漏らした。切ない声である。僕は右手で左乳房を捏ねた。掴んだ。握った。摩った。揉んだ。その肌は僕の掌に吸い付いた。なんとも言えない感触であった。その乳房は僕の手に握られ形を変えるが、手を放すと、プルンと元に戻る。その美人の女に、僕は見覚えがなかった。物凄い美人で、ダイナマイト・ボディをしている。ほっそりとした体に、不自然な程のバストをしている。僕の掌を白い柔肉が押し返してくる。僕の掌に、女体の鼓動が伝わってきた。仰向けに寝そべっても、形が崩れない張り詰めた乳房であった。その上に乗っかった桜色の乳首を、摘んで、引っ張って、回して、乳房の中に指で押し込んだ。指の腹で摩って、挟んで、捏ね繰り回す。その女は、ストレートの栗色の髪をポニーテールにしている。乱れた髪が、色っぽかった。僕は右手をその滑らかな素肌に滑らせて、股間まで到達した。栗色の陰毛は濡れ、艶々していた。陰毛を掌で撫でる。グッショリとした粘液の様な柔らかな感触であった。
「あ、あ、あ、あ、あーっ」
 女は、甘い声で喘いだ。僕の勃起した男根が、頭を擡げ、首を左右に振った。僕は女の股間に体を入れると、顔を近付けて、舌で嘗め回した。肛門から上に向けて、舐め上げる。 熱い液体が、湧き出した。花弁が開いたのである。
 蓮曼荼羅であった。曼荼羅の中央に八葉蓮華(八枚の花弁を持つ大蓮華)が生じ、その花心に大日如来が居る。四方の花弁には四仏が取り囲み、四隅の花弁には四菩薩が位置する。八枚の花弁を押し開いた形の、立体の蓮の花であった。それが、女陰である。女尊の立体曼荼羅であった。興味深い事に、この蓮華は花弁が開いたり、閉じたりする。
「ううーん。はうっ」
 そのまま、舌を花心の中に挿入した。ドンドン奥まで伸ばした。舌は別の生き物の様に動いた。子宮まで辿り着いた。僕は、子宮を嘗め回した。僕は、舌を大きくして、そのザラザラした舌を膣壁に擦り付けた。物凄いスピードで動いた。やはり、夢であった。
 こんな事、あるはずがない。
 でも、最後まで見させて下さい。
 僕は祈った。
 僕のものは、巨大であった。亀頭が拳ほどもある。その握り締めた拳が、僕の胸に閊えていた。僕は舌を引き抜くと、腕に白い脚を抱えた。女体を二つ折りにして、腰を浮かせた。垂直に勃起した男根を、無理矢理前に倒し、滑る、女体の花心に沈める。花心には、主尊が居る。女体が収縮して、僕を圧迫する。秘肉が擦り切れるほど、僕はピストンさせた。僕は、暴れた。女体の中で暴れまわった。女尊の立体曼荼羅は、八枚の花弁に八女尊を備え、僕のものを飲み込んだ。八女尊が、八体の肢体で、僕に奉仕してくれた。そして、僕は、夢の中で夢精した。
 神との対話方法には、二つある。その一つは、戒律を守った、禁欲による修行、その修行から得られる悟りである。もう一つは、男女合歓法である。人はセックスの最中に神の領域に到達するのである。誰もが経験するあの気持ちである。寝屋の会話―あれは神との会話を終えた男女の悟りなのである。
 僕は、第二の方法で、神と対話をしたのである。女尊の立体曼荼羅は、神の国への誘いであった。

 そんな僕が、夢中になれたのは、バイクだけであった。
 盗んだバイクを走らせるのは、気持ち良かった。ホンダ・CB七五〇、永遠の名車である。僕は、風になり、無心になれた。排気音は、雷鳴を思わせた。スピードは、快感であった。誰にも邪魔されたくはなかった。
 道路にも、縄張りがある。最初は、独りで走っていたが、道で喧嘩する度に、仲間が増えた。しかし、僕は、暴走族の抗争に興味はなかった。ただ、走れればそれで良かった。それでも、僕の周りには争いが絶えなかった。
 そういう奴らは、ほっといてくれないのだ。世間から食み出した奴らは、小さな自己主張をする。小さな奴らが、群れて、世間に迷惑を掛ける。寂しいから集まる、怖いから群れる。そうする事によって、寂しい自分達を慰めている。群れる事によって自己防衛をする。まるで、弱い草食動物のように・・・
 自分たちが弱いと思われたくはないので、暴力に走る。思い通りにならないと、暴力に訴えて、相手を怖がらす。それを見て、満足する。
 だから、本当の団結心もないし、人を思い遣る心もない。薄っぺらな友情。虚しさだけが残った。
 バイクは、大人社会への反抗の道具じゃない。
 若者の寂しさ、虚しさ、理由なき反抗、大人社会への失望、疎外感、そう言う思春期特有の感情は、バイクでは消せないし、ほんの束の間、忘れられるだけである。
 実は、僕も、そうだった。
 しかし、この思春期特有の感情は、いずれ、生きる為に社会に慣らされてしまうが、本当は正しい。正義が、青臭いと言われる社会の方が、歪んでいる。少年の主張として聞いて欲しい。
 バイクは、楽しいはずなのに―
 僕は、バイクを感情の捌け口として使っていた。その事に気付くと、僕は、だんだんと嫌気が差してきた。
 それは、峠を流していた時の事であった。
 一台のバイクが、カーブを曲がり切れずに、ガードレールを飛び越えて、谷底に落ちて行った。それは、ブレーキの故障が引き起こした事故であった。ブレーキのワイヤーが、突然切れたのである。落ちて行くバイクのヘッドライトで、それが確認できた。谷底に落ちていく仲間は、最期に何を思ったのだろう。
 何を感じたのだろう? 
 バイクで死ねた事に、彼は満足していたのだろうか?
 バイクは危ない。だから、乗ってはいけません。大人たちは言う。体が剥き出しだから、転倒したら、大怪我である。体に障害が残ったら、あなたは、後悔する事になる。
 バイクを知らない人の論理である。僕たちは、たとえ車椅子の生活になっても、バイクに乗った事は、絶対に後悔はしない。車に乗った人が、車に乗った事を後悔しないのと同じである。
 あの時、もっと注意深ければ、もっとスピードを抑えておけば、もっと安全確認をしていれば、あの道を通らなければ、もっと整備しておけば、そんな後悔である。バイクに乗った事に、後悔はしない。
 僕は、谷底に落ちていく流星のような光が、本当に綺麗だと思った。仲間の魂の光であった。
 僕は見惚れた。仲間は死に、仲間は泣いた。それを期に、僕は、暴走族を解散した。仲間は、これからどうしたらいいのだと嘆き悲しんだ。きっと新しいリーダーが現れて、彼らは小さな抗議を始める事だろう。
 純粋な気持ちで、また風になる事が出来るまで・・・僕は、バイクを降りる事にした―

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