愛の妙薬
俊輔:作

■ 第2章 山田総合内科のあやめさん
第2節 サグラダファミリア9

第5話 マジックミラー

超豪華なスペイン風の円形ベッドが私達を待っています。
ここにも美しく、きらびやかな伽藍が天井からベッドを彩っています。

5つのスピーカーから、優しい音色が聞こえてきます。
13世紀のスペインの合唱曲です。
Cantigaのサンタマリアです。
アカペラの美しい混声4部合唱です。
さすが、ガウディの建築様式を誇る<ホテルパラダイス>です。

私、全裸のあずささんをベッドにそっと置いて、その美しい裸体に覆い被さります。
その途端に液晶テレビにスイッチが入ってメッセージが表示されました。

<藤棚ルームにようこそお越しくださいました。
このベッドルームでとても不思議な体験を楽しんで下さい。
このベッドのフロントパネルの真ん中にある『藤棚』というボタンを押して下さい。>
あやめさん『なんだろう?興味があるわ』と言って、そのボタンを押します。

その途端、二重窓の外側の大理石製の窓が静かに開き始めました。
そしてなんと、屋外の風景が見え始めました、外側の窓が完全に開いた時、長さ3mx高さ2mに渡って、屋外が丸見えになったんです。

外は都立公園の藤棚の一画のようです。
歩いている人も、ベンチに座っている人もいます。
私達から4m位しか離れていません。
私達、ビックリ仰天です。
何しろ全裸で抱き合っているのが丸見えだと思ったんです。
あわてて、毛布に潜り込みました。

その時、液晶テレビからチェレスタの音が聞こえてきました。
画面を振り向くと
<この大きなガラス窓はマジックミラーです。
このお部屋から公園は見えますが、公園からこのお部屋の中は見えません。
安心して大胆なプレーを楽しんで下さい。

勇気があるようでしたら、レースのカーテンも開けますと、更に大胆なムードを堪能できます。
なお、窓の上の方と下の方にある2つの手すりは、後背位用の手すりです。

それから、ドンスのカーテンを引きますと、普通の寝室になります。
たっぷりと、藤棚ルームを楽しんでください。それでは!』

私、安心して、全裸のあやめさんを抱きしめます。
あやめさん『ね、山中さん、マジックミラーってなーに?
山中さん、理科系だから、説明できるわよね!』
私『うん、あやめさん、結論から言うと、半透明の鏡です』

あやめさん『半透明ってなーに?』
私『半透明の説明をする前に、まず、普通の鏡の説明をしますね。
普通の鏡は、透明なガラスの裏側に、錫や銀を厚くコーティングしているんです。
そうすると、ガラスの前から入った光は100%、その錫や銀の層でガラスの前面に反射されて、鏡の役割をするんです。』

あやめさん『100%ってことは、つまり、鏡に自分の姿を映している人には、自分の姿が鮮やかに見えるってわけね!』
私『そうです。さすが、あやめさんです。
鏡の前にいる人、つまり、鏡に自分の姿を映している人には、自分の姿が、鮮明に見えるんです。
ところが、―――』

あやめさん『なんとなく、山中さんが言いたい事って予想できるわ!
多分、<鏡の裏側にいる人には、鏡の向こう側は何も見えない>
そう言いたいんじゃないのかな?』
私『そうなんです、鏡の裏側にいる人には、鏡の前から入ってくる光っていうか、
情報は全くとどかないんです。』

あやめさん『そっかー、だから、鏡の裏側から、鏡の表にいる人の像って見えないんだ!』
私『そうなんです。』

あやめさん『でも、鏡の裏側の人って、鏡の裏側に自分の顔が映って見えないわよね!
それって、どうしてなの?』
私『それって、とてもよい質問です。
ガラスの裏側に塗っているメッキ層って、表側はツルツルなんですが、裏側はザラザラなんです。
ツルツル側の表は、表側から入ってくる光を完全に表側に反射するのにーー!』

あやめさん『裏側から入る光は、乱反射しちゃうのかしら?』
私『あやめさんって、乱反射っていう言葉も知っているんですね、すごいなー!
それでは、いよいよ、半透明の鏡について説明しますね!
あやめさんって、あまりよく映らない鏡を見たこと、あります?』
あやめさん『あるわよ、それが半透明の鏡なのかどうか、よくわかんないけどーーー!』

私『そのあまりよく映らない鏡は、半透明の鏡の性質を帯びているんです。
半透明の鏡は、反射する層を、いい加減に作っている、っていうか、わかりやすく言うと、反射層の厚さを薄くしたり、いい加減な材料で作っているんです。
そうすると、前から入った光は、例えば、70%が反射し、30%は透過する、っていう具合になるんです。』

あやめさん『つまり、ケチだってわけね?』
私『そうも言えますし、そういうわけでもないんです。
わざわざ、その半透明な鏡を製造、出荷している会社があるんです』

あやめさん『でも、どーして?』
私『例えば、このラブホテルのガラス窓です。
マジックミラーは半透明なんですね。

明るい太陽の下にいる公園側の人からは、このお部屋の中って、見えないんです。
太陽の光を反射層が反射して、屋外の人達って、自分たちの顔は見えるんですが、ホテルの部屋の中は見えないんです。
ちなみに、普通の鏡の場合、鏡の向こう側の景色って、見えないでしょ?』

あやめさん『ところが、っていうわけね!山中さん!』
私『そうなんです。ところが、ラブホテルの中にいる人達って、どちらかというと暗い空間にいますよね。
まず、中にいる人から、外の景色が見える理由は、30%の透過光がガラスを通して、お部屋の中に入ってくるからなんです。
明るい光が30%、ホテルの部屋に入ってくるから、外が見えるんです。

ところが、自分達の像は、30%しか外側に透過しないんですね、自分たちは暗い部屋にいるから、外に透過する光は微々たるものになるんです。
おまけに外にいる人達には、鏡に映る野外の色々な像が強い反射光となって目に到達しますので、幻影されて、部屋の中から透過する光は全く見えないんです。』

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