優等生の秘密
アサト:作

■ 9

「ねぇ、勉強会ってどんなことするの?」
「知らねーよ、俺だって初参加なんだからさ。」
 翌日、結局夏美を説得できずに、二人は学校まで来てしまっていた。貢太は大きなため息をついて、靴箱にスニーカーを投げ込んだ。
「本当は、来たくなかったんじゃない?」
「そうだけど、昨日も言ったろ? やむをえない事情がある、ってさ……」
 貢太はそう言って、夏美を半ば無視するように足早に教室へと向かった。これ以上、色々と詮索されたくなかったのだ。
「ちょっと、待ってよ!」
 慌てて貢太を追いかけた夏美は、教室の前で急に立ち止まった貢太にぶつかってしまった。
「痛ったーい……ちょ、なんで立ち止ま……」
 言いかけた夏美は、教室の中の様子に思わず声を失ってしまった。
 教室の中で、京介と聡子が抱き合い、口づけを交わしていたのだ。
「思ったより、早く来たんだな。」
 聡子を抱きしめたまま、京介が貢太を見やる。貢太の後ろに夏美がいたが、そんな事は気にもとめていないようだった。聡子はくすくすと笑いながら、貢太を見つめた。
「あら、今日はそっちも彼女連れ?」
「ち、違うわよ!!」
 頬を紅潮させながら、慌てて否定する夏美を見て、聡子は楽しそうに笑った。
「わ、私は、普通クラスの、倉敷夏美って言って……貢太とは幼馴染で、今度、特進クラスへの編入試験受けるから……」

「なるほど、それで何も知らずについて来たってワケか。」
 京介はそう言って、冷淡な笑みを口の端に浮かべた。そして、教壇へ歩み寄りながら、ちらりと時計を見た。
「……加藤を呼んでおけばよかったかな。」
「そうね。また私達に勝てなかったって悔しがってたしね……」
 加藤というのは、特進クラスで常に3位をキープしている男だ。京介と聡子がいなければ、間違いなくこのクラスのトップは加藤だった。それぐらい4位との間に実力の差があったのだ。
「今からでも、遅くないんじゃない?」
「そうだな。」
 京介はそう言うと、携帯電話を取り出した。
「貴方達は座ってて。」
「ああ、うん。」
 貢太達は慌てて席についた。夏美は、机の中に私物を置いて行っている者が誰もいない事に驚いていた。普通クラスではほとんどの者が、教科書を教室の机の中に置きっぱなしなのだ。私物が教室からなくなるのは、定期テストの前ぐらいである。
「あぁ、分かった。じゃあ、開始は30分後にする。」
 京介はそう言って、電話を切ると、貢太と夏美を冷たい目で見つめた。

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