優等生の秘密
アサト:作

■ 18

 帰宅してからも、貢太の心は重く沈んだままだった。ノートを開いて勉強する気にもなれず、かといって、いつものように漫画を読む気にもなれず、ただぼんやりとしたままベッドに横たわり、天井を見つめていることしかできなかった。
「……何て言って、謝ろう……」
 昨日、夏美にちゃんと事情を説明していれば、こんな事にはならなかっただろうか。夏美がついてこないように、説得できていれば、こんな事にはならなかっただろうか。自分が、もっとちゃんと勉強していれば、加藤よりもいい点数を取っていれば……貢太の頭の中を、色々な考えがぐるぐると回る。
 ふいに携帯電話が鳴り、その思考が途切れる。慌てて携帯のディスプレイを見ると、それは夏美からの着信だった。
「もしもし、夏美……?」
『……うん。』
 言葉が、途切れる。気まずい沈黙が流れ、貢太は小さくため息をついた。
「その……今日は、ホントに、ごめん……」
『いいの、気にしないで……もう、終わったことだから。』
 終わったこと、そう言い捨てた夏美の声が、貢太の胸を深く抉った。
『それよりも、ちょっと気になる事があって。』
「……何だ?」
 夏美が、自分が犯された事よりも気になる事というのに、貢太は違和感を覚えていた。だが、ここで色々と言葉を出しても、余計に夏美を傷つけてしまいそうな気がして、貢太は話を合わせる事にした。
『ちょっと生徒手帳見てたらね、学校施設使用についての校則があったんだけど……』
「へえ、そんなのあるのか。ていうか、なんでお前生徒手帳なんか真面目に見てるんだ?」
『最近、校則違反が多いから、ちゃんと確認しとけって昨日言われてたのよ、それより……』
「うん。」
『放課後、または休日に学校施設を利用する場合は、必ず3日前までに使用許可願を職員室へ提出し、活動する際には教師を一名以上、必ず同伴させること。ってあるんだけど……』
「嘘だろ……」
 言いながら、カバンの中から生徒手帳を取り出して、ぺらぺらと捲ってゆく。そこには夏美が言っていた通りの記述があった。
「じゃあ、なんであの時、誰もいなかったんだ?」
『そう、その事がすごく気に掛かるの。ねえ、あの二人って、一体何者なの?』
「分からない、ただ……」
「貢太? 誰かと電話してるの? 今何時だと思ってるの?」
 廊下から、耳障りな声が聞こえた。
「悪ぃ、母さんきたから、今日はこれで……」
『明日、昼過ぎにうちに来てくれない?』
「え……?」
『とにかく、来て欲しいの。それじゃ。』
 貢太の言葉も待たず、夏美は電話を切った。貢太の耳元ではは、規則的な電子音だけが虚しく鳴り響いていた。

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